Komoda Law Office News

2022.02.25

『同一労働同一賃金』とは?①

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

 

はじめに

「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、「パート・有期雇用労働法」といいます。)が2020年4月に施行され、いわゆる「同一労働同一賃金」がスタートしました。
中小企業については2021年4月から施行されましたので、全企業を対象に同制度がスタートしてもうすぐ1年になります。

最高裁判所も同制度施行前の労働契約法旧第20条に関する関する判断を相次いで示し、ニュースで取り上げられる等して注目が集まりました。
もっとも、「同一労働同一賃金という言葉は聞くし、対応が必要とは分かっているが結局よく分からずに対応できていない」といった事業者様も多いのではないでしょうか。 

そこで、今回から複数回にわたって「同一労働同一賃金」制度についてご説明させて頂きます。

1.同一労働同一賃金の概要

「同一労働同一賃金」とは、厚生労働省によれば「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。
2020年4月施工『同一労働同一賃金』とは?①

2.パート・有期雇用労働法(均等待遇・均衡待遇)について

この点について、パート・有期雇用労働法第8条では、以下のとおり、短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与等の待遇について、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けてはならないことを定めています。

パート・有期雇用労働法
第8条
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

更に、同法第9条では、以下のとおり通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者について、基本給、賞与等の待遇について、差別的取扱いをしてはならないことを定めています。

パート・有期雇用労働法
第9条
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

このように、パート・有期雇用労働法第8条では「均衡待遇」を、同法第9条では「均等待遇」を定めています。

「均衡待遇」とは、簡単に申し上げると「前提事情が異なる場合にはその違いに応じた取扱いをすべき」というものです。
例えば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の業務内容や責任の範囲が異なるのであれば、それの違いに応じて基本給等を支給する必要があります。

これに対し「均等待遇」とは、「前提事情が同一の場合には同じ扱いをすべき」というものです。
そのため、例えば職務の内容や責任の程度、配置転換の範囲等が正規雇用労働者と非正規雇用労働者と全く同一そのためあれば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金等の条件が同一である必要があります。

3.同一労働同一賃金ガイドライン

同一労働同一賃金の概要は以上のとおりですが、実際に正規雇用労働者と非正規雇用労働者に生じている待遇差について、どのような場合に不合理な待遇差となるのでしょうか。
この点、厚生労働省は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差が存在する場合の原則的な考え方を「同一労働同一賃金ガイドライン」で示しています。

同ガイドラインでは、典型的な事例として考えられるものについては「問題となる場合」と「問題とならない場合」を具体例として挙げています。
同ガイドラインは厚生労働省告示そのため、直ちに法的拘束力を有するものではありませんが、裁判所が判断を示すに際に参考にすることが想定されます。

したがって、パート・有期雇用労働法第8条、第9条の判断の一つの指標として同ガイドラインも参照しながら、法改正に対応していくことが肝要かと思われます。

4.まとめ

今回は、同一労働同一賃金制度の概要についてご説明させて頂きました。
次回からは、同ガイドラインを基に、基本給、その他の労働条件の待遇差について検討していきたいと思います。

 

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記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。

 

2022.01.31

管理監督者って何?

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

はじめに

皆さんは「管理監督者」という言葉をご存知でしょうか。
「管理」という響きから「管理監督者」=「管理職」と思われる方や、他方で「名ばかり管理職」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、「管理監督者」について詳しく説明させて頂きます。

1.管理監督者とは

労働基準法41条第2号では、「監督若しくは管理の地位にある者」については、労働時間、休憩及び休日に関する労働基準法の適用が除外されています。
この「監督若しくは管理の地位にある者」とは、いわゆる「管理監督者」のことを指します。
したがって、「管理監督者」に該当する場合は、労働時間、休息及び休日に関する労働基準法の規制の適用が除外されるため、時間外労働、法定休日労働に対する割増賃金の支払いが不要となります(なお、深夜労働に対する割増賃金の支払いは「管理監督者」に該当する場合でも必要です)。

2.管理監督者の要件

労働基準法上の「管理監督者」に当たる場合、割増賃金の支払いが不要であることは分かりました。
それでは、課長、部長、店長等の会社内で管理職としての地位にある人は「管理監督者」に該当し、割増賃金の支払いが不要になるのでしょうか。

労働基準法の「管理監督者」に該当するかは、職務の内容、権限、責任、勤務態度等の実態に基づいて判断するとされており、名称のみで判断されることはありません。

具体的には、以下の3点を総合考慮して判断することになります。

①重要な職務内容、責任と権限を有していること
②現実の勤怠態様も、労働時間等の規制になじまないものであること
③賃金等について地位にふさわしい待遇であること

各要件を詳しく見ていきますが、まず、①の要件である「重要な職務内容、責任と権限を有していること」とは、労働条件の決定その他の労務管理、会社の経営方針に関して経営者と一体的な立場にあり、裁量と権限を有していることが必要です。
そのため、例えば従業員の採用の人選の権限は有しているが、最終的な決定権限や労働条件の決定権限が付与されていない場合だと、管理監督者性が否定されやすいでしょう。

次に、②については、労働時間について自らの裁量で自由に決定できることが重要になります。
管理監督者であれば、経営上の判断や対応を迫られる場合があるため、労務管理においても一般の従業員とは異なる立場にある必要があると考えられています。
したがって、例えば始業・終業時間が通常の従業員と同一に統一されている場合だと、労働時間に関する裁量が認められないため、管理監督者性が否定されやすいでしょう。

最後に、③については、管理監督者には深夜時間に対する割増賃金以外の割増賃金が支払われないことに見合うだけの相応の待遇がなされている必要があります。
例えば、賃金総額が一般の従業員の賃金総額を同程度以下である場合や、時給単価に換算した賃金額がアルバイト、パート等の時給に満たず、かつ最低賃金にも満たない場合は、労働監督者性が否定される可能性が高いでしょう。

管理監督者

3.名ばかり管理職に注意が必要

以上のとおり、「管理監督者」として認められるためには、経営者と一体的な立場、それに近接する実態が必要となります。
この「管理監督者」に注目が集まったのは、小売業や飲食業等で多店舗展開をしている会社において、正社員である店長等を労働基準法の「管理監督者」として運用していたところ、店長等に会社に対して未払割増賃金請求訴訟を提起したことがきっかけです。
訴訟では店長が「管理監督者」に該当するかが争点になりましたが、店長の具体的な勤務実態から管理監督者性は否定され、「名ばかり管理職」として大きな問題となりました。

管理監督者性の判断はあくまでも個別具体的な判断になりますが、以上を踏まえても安易な運用は避けるべきと思われます。

4.まとめ

今回は、労働基準法の「管理監督者」についてご説明致しました。
管理職と言われる従業員を一律に「管理監督者」として扱っていると、いきなり未払割増賃金の請求を受ける可能性があります。
会社の運用が適切であるか、一度労務管理に強い弁護士にご相談されることをお勧め致します。

 

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2022.01.17

差押えを受けた賃貸物件の買入れに関するリスク

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問題事例

 1  私は、賃貸物件の経営に乗り出そうと考え、手ごろな収益物件を探していたところ、とある賃貸物件1棟(以下「本物件」といいます。)が安価で売りに出されていることを知りました。
ただ、よくよく話を聞いてみると、どうやら本物件のオーナーは多額の借入金債務を抱えており、しばしば滞納もしているため、本物件を含む財産が差押えを受けるのではないかといった情報もあるようです。
なお、オーナーは、本物件の売買契約に当たり、現在オーナーが賃借人らから預かっている敷金を私が引き継ぎ、賃借人退去時の敷金の返還も私が行うとの条件で、本物件の売買に応じる意向を示しています。
以上のような前提の下では、本物件を買い受けるとともに、敷金を当社が引き継いだ場合、オーナーの債権者らから資産隠しであるなどと主張され、不動産所有権の取得を否定されることはないでしょうか。

 2  また、本物件は、賃貸物件としては非常に優良で多額の賃料収入が見込めるため、私としては、仮にオーナーの債権者が本物件の差押えをしてきた場合でも、オーナーから安価で買い受けた上、差押債権者と交渉し、任意売却を受けるといったことも考えています。
ただその場合に、引き継いだ敷金をオーナーの債権者と退去する賃借人の双方に二重に支払わなければならなくなったりする(→後記回答の2に記載)といった懸念は無いでしょうか。

 

回答

1.相当価格での不動産処分と詐害行為取消権
(1)債務者が、所有する財産を譲渡すると債権者への弁済ができなくなるおそれがあること等を認識しながら、敢えて当該財産の譲渡を行ったような場合には、当該行為は債権者を害する行為(債権者への弁済を不可能又は困難にさせるような行為。 詐害行為。)であるとして、債権者はその取消しを裁判所に求めることができます(詐害行為取消権。民法424条以下 ※1 )。

この取消しが認められれば、贈与、売買等の財産譲渡行為はなかったことにされ、受贈者や買主は、取得していたはずの権利を失ったり、あるいは取得した財産に相当する額の金銭を別途支払う義務を負ったりすることもあり得ます。

※1 なお、同様の制度は破産法160条以下、民事再生法127条以下にも存するが(否認権)今回は割愛する。

例えば、3人の債権者から300万円ずつ合計900万円の借金をしているが、500万円の不動産(抵当権の設定はされていないものとします。)と100万円の現預金しか有していないという人が、500万円の不動産を第三者に贈与(無償で譲ること。)したり、市場価格よりも大幅に安い100万円で第三者に売却したりした場合には、残った現預金等で900万円の借金を返すことは到底できませんから、上記のような贈与又は売買は、詐害行為として取り消される可能性が高いと考えられます。

差押えを受けた賃貸物件の買入れに関するリスク (2)では、債務者が、所有する不動産を不当に安価で売るのではなく、相当な価格で売却する場合はどうでしょうか。
このような場合は、売買取引自体は適正なものといえるため、原則としては、他人である債権者が介入することはできません。

しかし、不動産が金銭に替えられれば、容易に消費したり処分したりすることができるようになりますし、財産隠しの目的で、適正な価格での売買を行う人も中には居ると考えられますから、民法424条の2は、以下の各号のいずれの要件も満たす場合に限り、売買取引が詐害行為であるとして取り消すことを認めています。

① 不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(…隠匿等の処分…)をするおそれを現に生じさせるものであること。
② 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと(隠匿等処分意思)。
③ 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

上記の点から考えると、質問者様が単にオーナーから市場価格で不動産を購入しただけでは、その売買契約が取り消される可能性は低いといえます。

しかし、市場価格での売買であっても、不動産が金銭に変ずることによって処分が容易になるため、これによって隠匿等の処分をするおそれが生じるといえる場合はあり得ます(①)。

そして、例えばオーナーが質問者様から受領した売買代金を持ち逃げしたり隠し口座に預けたりするなどして債権者の追及を逃れようと考えており(②)、質問者様も上記のようなオーナーの意思を知っていた(③)というような場合には、たとえ売買代金額が適正な市場価格であったとしても、債権者から提訴されれば詐害行為として取り消されるおそれがあります。

また、売買代金額が市場価格よりも著しく低いというような場合には、オーナーの内心の意思について全く認識していなかったとしても、売買契約が取り消される可能性が高いと考えられます。

(4)以上のことから、オーナーの財産状態が著しく悪化しているといった事情があれば、そのような状況下での買取りには上記のようなリスクが伴うものと考えられますので、オーナーの財産状況を慎重に見極める必要があるでしょう。

2.敷金に関する権利義務の承継
次に、本物件の賃借人が預託している敷金についてお答えします。

(1)建物賃借人が対抗要件を具備(引渡し(借地借家法31条)等。)した後に、旧所有者たる賃貸人が当該建物を新所有者に譲渡した場合、特段の事情が無い限り、旧所有者の賃貸人たる地位は、賃借人の承諾が無くとも当然に新所有者へ移転し(大審院大正10年5月30日判決、最高裁判所平成11年3月25日判決)、これに伴い、賃借人から交付されていた敷金に関しても、「旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料等があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される」(最高裁昭和44年7月17日判決、前掲最高裁判所平成11年3月25日判決)とされています。

このため、賃借人から敷金の預託を受け、賃貸借終了時に返還する義務を負うという旧賃貸人=旧所有者の権利義務も新所有者に移転することとなります。
賃貸建物の譲渡時点で、賃借人の旧所有者に対する未払賃料があれば、その部分は敷金から控除されることとなりますが、当該部分を除いた残額は、全て新所有者に承継され、譲渡時点で未払賃料がなければ、敷金の全額が新賃貸人に承継されることとなります。

(2)したがって、質問者様は、売買契約に基づく本物件の所有権移転に伴い、売主(旧所有者・賃貸人)が賃借人から預託を受けた敷金に関する権利義務を承継することとなるため、これにより預託された敷金を正当に保持し得るものと考えられます。

売主の債権者等から民法424条以下の詐害行為取消権等を行使されて建物の売買契約自体が取り消されたような場合は別として、そうでなければ、何らかの法的請求を受けて敷金の承継のみが取り消され、質問者様が敷金相当額の二重払いを強いられるおそれは低いと判断されます。

まとめ

以上のように、物件の買受け、買取りに潜むリスクを把握したり、実際に買い受けた後にトラブルとなってしまった場合の対応を行ったりすることができるのも、弁護士の経験ならではですので、似たようなお悩みをお持ちの方は、是非一度当事務所へご相談にお越しいただければと思います。

 

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2022.01.05

テレワーク中の労務管理の方法は?

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的感染爆発に伴い、日本でも緊急事態宣言が発令され、企業においてテレワーク(在宅勤務)の導入が進んだのではないでしょうか。

もっとも、テレワークを導入された企業の中にも、昨今のコロナ禍により事前準備が不十分なまま急遽テレワークを導入した企業も多く、その後の対応に苦慮されているのではないでしょうか。
今回は、テレワーク中の労務管理の方法について解説させて頂きます。

1.労働時間管理の必要性

法律上、使用者は労働者の労働時間を適切に把握・管理する義務があります(労働安全衛生法第66条の8の3)。
具体的には、以下のいずれかの方法で労働時間の管理を行う必要があります(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)参照)。

管理方法
①使用者が、自ら現認することにより確認し、記録をすること。
②タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
③自己申告制を用いる場合でも、従業員だけでなく労働時間の管理者に対して当該ガイドラインによる措置について十分な説明行ったうえで、以下の措置を講ずる必要があります。

ア 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
イ 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。 また、36協定の延長することができる時間数を超えて労働をしているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者において慣習的に行われていないか確認すること。

2.テレワーク中の労働時間管理

上記1で説明した労働時間管理の方法はテレワークにおいても当然に当てはまります。
テレワークの場合、会社に出勤して業務を行う場合と異なり、必然的に自己申告により労働時間を把握せざるを得ません。
そのため、上記③の方法により適正に労働時間を管理していく必要があります。

例えば、始業・終業の報告をメール等で個別に報告してもらう方法も考えられますが、従業員数が多い企業では、このような方法だと管理が煩雑になる可能性があります。

したがって、効率化の観点からみればクラウド型勤怠管理システムの利用する方法がより適切と思われます。
なお、テレワークに伴い休憩時間を一斉付与することができない場合には、事前に労使協定を締結する必要があります。

テレワーク中の労務管理の方法は?

3.テレワーク中のさぼりは防げる?

企業の中には、「クラウドシステムを用いて勤怠管理は行っているが、従業員が労働時間中に業務に従事しているか分からない、状況が見えないからもしかしてネットサーフィンをしたり等、さぼっている可能性があるのでは?」と思案することも多いのではないでしょうか。

そこで、例えばwebカメラ・ビデオ等を用いてテレワーク中の従業員の状況をモニタリングすることはできるのでしょうか。

この点については、従業員のプライバシーへの配慮の観点からの検討が必要となります。
Webカメラを用いてモニタリングを行う場合、自宅でのテレワーク中であれば自宅内の様子がカメラに写り込んでしまう可能性があります。

したがって、無制限にこれを行うとプライバシー侵害により違法となる可能性があるため、モニタリングを行うにあたっては事前に規程を設け、当該規程を基にモニタリングを適切に実施することが適切と思われます。
また、規程には少なくとも以下の点については定めておく必要があると考えられます。

①モニタリングの目的
②モニタリングの実施に関する責任者と権限の内容
③モニタリングの対象者
④モニタリング時の禁止事項等

4.まとめ

今回は、テレワーク中の労務管理方法について解説させて頂きました。
テレワーク中の労務管理でお悩みの場合は、是非一度労務管理に強い弁護士にご相談されることをお勧め致します。

 

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2021.12.20

給与と損害賠償金の相殺の可否

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

質問
当社営業部の従業員Aは、社用車を運転して外回り営業をする際に居眠り運転をし、道端の建物に衝突する事故を起こし(以下「本件事故」といいます。)、して社用車を大破させてしまいました。
幸い怪我人は出なかったのですが、当社は、建物の所有者に対する修繕費用相当の賠償金50万円と社用車の修理代30万円を負担せざるを得ませんでした(※自動車保険、賠償責任保険等は利用しなかったものとする。)。
当社としては、Aの不注意で生じた本件事故によって、上記賠償金と社用車の修理代の合計80万円の損害を被っていますので、Aに対しこれらの損害の賠償を求めたいと考えています。そこで、毎月の給与から天引きする形で支払わせたいのですが、このようなことは可能でしょうか。

回答

1.退職金債権との相殺の可否

⑴賃金全額払の原則
二者間で相互に相対立する金銭債権を有する場合は、通常であれば、一方から他方に対する意思表示(相殺権の行使)によって、両債権を対当額(等しい額)で相殺し、消滅させることができます。
もっとも、原則として、給与(賃金)は、その全額を現金で労働者に支払わなければならず、使用者側が一方的にその一部を控除することは許されません(労働基準法24条1項本文)。
そのため、労働者が使用者に対し、故意又は過失によって損害を被らせたとしても、使用者側からの一方的意思表示によって、労働者に対する債務不履行(民法415条)又は不法行為(同法709条)に基づく損害賠償請求権と、労働者の使用者に対する賃金債権を相殺することはできないこととされています (債務不履行事案につき、最判昭和31年11月2日民集10巻11号1413頁。不法行為事案につき、最大判昭和36年5月31日民集15巻5号1482頁)。

⑵合意による相殺
もっとも、判例によれば、賃金債権の放棄の意思表示が労働者の自由な意思に基づくことが明白な場合は、労働者がした賃金債権を放棄する旨の意思表示は有効と判断されています(最判昭和48年1月19日民集27巻1号27頁)。

また、使用者が労働者の同意を得て相殺により賃金を控除した事案に関し、「労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」は、当該同意による相殺は労働基準法24条1項に反しないとの判断も見られます(最判平成2年11月26日民集44巻8号1085頁)。

したがって、労働者が自己の使用者に対する賃金債権と損害賠償債務とを相殺し、両債権を消滅させるとの意思表示をし、使用者との間で合意に達した場合は、当該意思表示(相殺への同意)が「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」といえるのであれば、賃金債権と損害賠償債権を相殺することも許されるものと考えられます。

⑶小括
上記のことから、貴社が一方的にAの給与から損害賠償金相当額を天引きすることは許されませんが、貴社とAとの間で協議を行い、相殺合意を交わすことができれば、給与から損害賠償金相当額を天引きすることも、労働基準法24条1項に反せず許される余地があります。
もっとも、そのためには、上記相殺合意がAの「自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」といえることが必要となります。

給与と損害賠償金の相殺の可否

2.相殺合意の有効性

⑴基本的観点
Aとの間で給与天引きを内容とする相殺合意を交わすことができるとして、当該合意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」(以下、単に「合理的理由の存在」といいます。)といえるためには、どのような事情が必要となるのか、以下検討します。
判例上、合理的理由の存在の判断基準は必ずしも明らかではありませんが、一般に、使用者と労働者との間には一定の力関係(従属・支配関係、指揮命令関係)が存することを踏まえると、単に相殺合意を交わしたというだけでなく、当該相殺合意の内容が労働者側にもメリットがあるか、あるいは労働者の側も相殺に期待しているといい得る事情があるかどうかがポイントとなるでしょう。
具体的には、例えば以下のような観点から、合理的理由の存在が認められるかを判断することとなるもの考えられます。

⑵事故原因・責任
まず、Aとしては、本来的に自身が貴社に対する損害賠償責任を負うのでなければ、そもそも給与との相殺に応じる理由も利点も無いため、本件事故の主要な原因がAの過失にあるといえることが必要となるものと考えられます。
本件においては、Aの居眠り運転が主要な原因となって本件事故が発生したと考えられるため、この点はクリアできそうです。
もっとも、仮に本件事故当時、Aが貴社の都合で長時間労働を続けており、過労の状態にあったというような事情があれば、Aの居眠り運転は貴社に起因する事情であり、Aは貴社に対する損害賠償責任を負わないとの判断もあり得ます。
そのような場合には、Aが貴社との間での相殺合意に応じる理由、利点は乏しいため、形式上は相殺合意が成立したとしても、合理的理由の存在は認められず、無効となる可能性があるでしょう。

⑶相殺の額
労働者の過失により使用者が損害(あるいは、第三者に対する損害賠償義務(使用者責任。民法715条1項)。)を被ったとしても、使用者は労働者を使用して利益を上げていることから、信義則上、必ずしも当該損害全額の賠償を求めることはできないとされます(最判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁等。なお、割合的には、労働者に請求できるのは、使用者が被った全損害のうちの2分の1~4分の1程度とされることが多いとされます。)。

そのため、本件事故の原因、態様等にもよりますが、相殺合意による天引きの総額が、本件事故により貴社が被った損害の大半を占め、その額もAの月給の額と比して高額に上るようであれば、Aには貴社に対して負うべき賠償義務の額を上回る額の負担が課されているとの疑いがあり、やはり合理的理由の存在は認め難いものと考えられます。

⑷月給に対する天引きの割合
民法510条、民事執行法152条1項2号の解釈上、給与の額の4分の3は差押が禁止されており、(一方的意思表示としての)相殺に供することはできないとされています。
そのため、本来相殺権を行使できない、給与の4分の1を超える額について相殺を可能とする旨の相殺合意を交わしたような場合は、当該合意は労働者側にとって不利であり、労働基準法24条1項の潜脱の疑いもあることから、合理的理由の存在を疑わせる事情となります。

⑸両当事者の関係を清算できるか否か
Aが貴社に対し損害賠償義務を負う場合には、Aとしては、貴社に対する損害賠償義務を現実に履行するよりも、相殺によって貴社との債権債務関係を清算するという期待を有することも合理的といえます。

そのため、相殺合意によって、自身が負う損害賠償責任を一挙に解決(清算)することができるのであれば、Aには相殺合意をする合理的な動機があるものといえます。

他方、相殺合意による天引きが損害賠償額の一部に止まり、残額については別途協議を行うといった形であれば、Aにとっては、どの程度の損害賠償責任を履行しなければならないのかという不安定な地位が継続することとなり、そのような中間的な合意をすることには必ずしも合理性があるとはいえませんから、合理的理由の存在が認められるかは疑わしいものといわざるを得ません。

このような点から考えれば、相殺合意の内容として、貴社はAに対し、当該合意で定めた相殺(天引き)の額以上の損害賠償金の支払は求めないことを意味する清算条項(本件事故に関し、当該合意で定めたものの他には債権債務が無いことを確認する、といった条項。)を設けるなどしておけば、Aの地位の不安定化は避けられ、一回的解決が叶うことから、Aの側にもメリットがあるものということができ、これによって合理的理由の存在が基礎づけられると考えられます。

最後に

以上のとおり、貴社は、Aとの間で協議を行った上で、上記2の内容を踏まえた相殺合意を交わすことができた場合には、Aの給与から天引きする形で損害賠償金を支払わせることも可能と考えられます。
なお、相殺合意を締結する際には、口頭の合意のみによるのではなく、合意した事実及び内容、ひいては前記合理的理由の存在を立証し得るようにするため、書面(合意書)を作成し、Aに確認させて記名押印をもらうようにしておかれるべきでしょう。

 

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2021.12.01

残業代の計算にあたって除外可能な賃金は?

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

皆さんが勤めている会社から支給される賃金に、「住宅手当」、「家族手当」といった項目の手当があるかと思います。
残業代を計算するにあたって、これらの手当は除外されているのでしょうか?
「住宅手当、通勤手当は除外される」と聞いたことのある方もおられるのではないのでしょうか。
今回は、残業代の計算にあたって除外可能な賃金について解説させて頂きます。

1.残業代から除外可能な賃金

残業代を計算するにあたっては、月給制の場合、皆さんに支給されている賃金のうち、労働基準法が明示的に除外を認めた賃金を除いた賃金を、1か月の所定労働時間数で除した金額(「1時間あたりの賃金額」)を算出する必要があります。
このように算出した1時間あたりの賃金額に、残業時間数と割増賃金率(時間外労働の場合は1.25)を乗じて残業代を算出することになります。

そして、労働基準法が明示的に除外を認めた賃金は、以下の7つです(労働基準法第37条5項、同法施行規則第21条)。

⑴家族手当
⑵通勤手当
⑶別居手当
⑷子女教育手当
⑸住宅手当
⑹臨時に支払われた賃金
⑺1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

以上の7つの賃金が除外されているのは、労働と直接的な関係が薄く、労働者の個人的事情に基づいて支給されている等の理由があげられます。

2.住宅手当・家族手当・通勤手当が残業代の基礎に含まれる?

上記1のとおり、労働基準法で除外が明示された賃金に「住宅手当」・「家族手当」・「通勤手当」が含まれていました。そうすると、皆さんがこれらの手当を支給されている場合、残業代の計算で除外されることになるのでしょうか。

実は、必ずしもそうとは限らないのです。というのも、上記1で挙げた賃金のうち、⑴ないし⑸の賃金については、名称が一致していれば全て除外できるという訳ではなく、除外できる賃金の具体的な範囲が通達で定められているのです。

「住宅手当」・「家族手当」・「通勤手当」について、残業代の計算にあたって除外できる具体的な範囲は以下のとおりです。

①住宅手当

住宅に要する費用に応じて算定される手当であること
除外できる 住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給するもの
⇒賃貸住宅に居住の場合は家賃の一定割合、持家に居住の場合は住宅ローン月額の一定割合を支給する
除外できない 住宅の形態ごとに一律に定額で支給するもの
⇒賃貸住宅に居住の場合は月●万円、持家に居住の場合は月●万円を支給する

②家族手当

扶養家族の人数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算定した手当であること
除外できる 扶養家族のある従業員に対し、家族の人数に応じて支給するもの
⇒扶養義務のある家族1人に対し、配偶者月●万円、その他の家族月●千円を支給する
除外できない 扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律に支給するもの
⇒扶養家族の人数に関係なく、家族がいる従業員に対して一律に月●万円を支給する

③通勤手当

通勤距離または通勤に要する実際費用に応じて算定される手当であること
除外できる 通勤に要した費用に応じて支給するもの
⇒6か月定期券の金額に応じた費用を支給する
除外できない 通勤に要した費用や通勤距離に関係なく一律に支給するもの
⇒実際の通勤距離にかかわらず1日●円を支給する

また、例えば「生活手当」という名称で支給されていても、実質的に除外可能な家族手当の範囲に含まれるのであれば、残業代の計算にあたって除外することができます。
皆さんに支給されているこれらの手当が、会社の残業代計算にあたって除外されている場合、本当に除外可能な手当に該当されず、除外されて残業代が計算されている場合だと、「1時間あたり賃金額」が誤っているため必然的に残業代の未払いが発生していると考えられます。

3.まとめ

今回は残業代の計算にあたって除外可能な賃金について解説させて頂きました。
ご自分の支給されている手当を就業規則で確認したけどよく分からない、といった方もおられると思います。

そのような場合は、是非一度専門家にご相談されることをお勧め致します。

 

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記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。

 

2021.11.09

マンションの『区分所有』って何のこと?

区分所有」は、その表記からなんとなく内容を想像しやすいので、特に不動産に関わることも無ければ深く気にすることなく流してしまうような言葉かもしれません。
ただ、もし自分の関わる場所でトラブルが発生してしまった場合を考えると、絶対に知っておくべきキーワードなのです。

1.区分所有を知るメリット

区分所有」という言葉は、不動産に携わっている方ならば頻繁に耳にする言葉だと思いますが、実際のところは何となくこんなものかな、としか理解していないのではないでしょうか?一方で、普段不動産に縁の無い方であれば、初めて聞く言葉かもしれません。

この「区分所有」は特にマンションのオーナーの方々にとってはとても重要なワードで、万一法律トラブルが発生した場合の対応に、このワードを理解しているか否かによって大きな差が生じてきます。
区分所有の何たるかを理解していれば、問題に突き当たったとき、何に着眼し、誰にどんな対応が必要なのかを見極めやすくなります。

2.区分所有の概念

民法上、1棟の建物は法的に1個の物として扱われるもので、複数人でその建物を共同して保有する場合には、「共有」として扱われます。
これに対し、区分所有法においては、一定の要件の下、建物を複数の部分に区分けした上で、それぞれの区画を異なる者が単独で所有することが認められています。
それでは、これを踏まえた上で法律上の定義を見てみましょう。

第1条 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。

この条文を分解して考えます。

①「構造上区分された・・・部分」(構造上の独立性)
②「独立して・・・建物としての用途に供することができるもの」(利用上の独立性)
まずはこの2つを備えることが求められていることが読み取れます。

そして、ここで注意すべきところが、この①構造上の独立性と②利用上の独立性を兼ね備えているからと言って、その建物においてイコール区分所有権が成立するわけではないということです。
もう一度条文を読み直してみましょう。最後の部分に着目すると、

・・・所有権の目的とすることができる

と記されています。
つまり、先に登場した2つの要件を兼ね備えていることだけでは足りず、所有者がその建物を「区分所有建物として保有したい」という意思を持って保有することで、初めてその建物において区分所有権が成立するのです。

3.専有部分と共有部分の区別

区分所有建物においては、先ほど1.の中で「建物を複数の部分に区分け」すると説明しました。この「区分け」された部分は、「専有部分」と「共有部分」の2つに分類することができます。以下に、それぞれの具体例を挙げつつ説明していきます。

●A専有部分

先に説明した、法1条の中に出てくる2つの要件、

①構造上の独立性  ②利用上の独立性

を備える必要があります。そして、専有部分は、独立した所有権の対象となります。

典型例:マンションの1室
・・・その使途は居住用に限らず、店舗・事務所・倉庫・講堂・医院・教室・駐車場等のように「建物として」の用途に供することができるもの。
当てはまらないもの:エレベーター
・・・要件① 構造上の独立性 〇  ② 利用上の独立性 ×

ここで、②で説明した区分所有権について1点補足があります。
区分所有権が成立するためには、「一棟の建物の中に複数の専有部分」が存在していることが必要となります。
法1条でいうところの「・・・数個の部分で」がこれに該当します。実際に想像してみると、例えば1部屋しかない建物を複数人で区分所有することはできないので、当然の事ではありますね。

●B共用部分

区分所有建物の中で、専有部分以外の部分は、当然に「共用部分」とされます。そして、共用部分は、原則として区分所有者全員の共有に属するものと定められています。
ただし、ここでいう共有は、民法上の共有とは異なる法律関係が定められていることには注意が必要です。

典型例:専有部分をつなぐ廊下、屋上、階段.ベランダ、バルコニー

一方で、本来は専有部分となるべき部分を、規約によって共用部分とすることも可能です。先にあげた共用部分と区別するために、「規約共用部分」と呼びます。この規約共用部分であることを第三者に対抗するためには、その旨を登記する必要があります。
なお、原則として規約共用部分も、一般的な共用部分と同様に、区分所有者全員の共有に属します。

:マンションの部屋の一室 → 建物の管理のために倉庫として使用する
              → 区分所有者全員のための集会室として使用する
4.附属物の話~建物の設備関係について

マンションを思い浮かべると分かりやすいのですが、区分所有建物の中には、これまでに触れてきた「居室」や「廊下」以外に、電気、ガス、上下水道、冷暖房等の配線、配管設備が存在しています。これらをまとめて、区分所有法上では「附属物」と呼称しています。
建物の附属物は、通常は建物に付合しているため、建物の一部とみなします。ところが区分所有建物においては、一棟の建物に存在するすべてのパーツを先に述べた「専有部分」と「共有部分」のいずれかに区別するため、附属物が実際にどちらに属するのかが問題となります。

ここで、あらためてマンションの構造を想像してみてください。ライフラインの配管等は、居室(専有部分)の内部にある部分もあれば、ベランダ(共有部分)に露出しているものもあります。そういうわけで、建物の附属物については「○○部分である」とは簡単に分類できないのです。

5.まとめ

区分所有法によって、1棟の建物を複数の区画に分け、各区画を複数の人が別々に所有するという法律関係が生じます。その一方で、1棟の建物が物理的に1個の物であることは変わりません。
そのため、複数の所有者(区分所有者)が、1棟の建物を共同で維持・管理し、その建物の利用に伴って生じる利害の対立等を調整する必要が生じます。こういった複雑な関係性が存在するため、区分所有建物に関係する紛争を扱うためには、区分所有法特有の概念や権利・義務関係を正しく理解することが必要となるのです。

マンショントラブルにおいて、まずはその建物の所有形態が区分所有になっていないか、そしてトラブルの発生源が専有部分なのか、それとも共用部分なのかを把握した上で対応を検討する必要があるということ、実際のところはすぐに区別できない部分もあるために争いになってしまう部分もあることを覚えておいていただければと思います。

2021.10.26

これってパワハラ?ケース別に見るパワーハラスメント

最近、ニュースなどでパワーハラスメント(略してパワハラ)という言葉をよく耳にするようになりました。
パワハラの定義については一般的に、「職場での立場を利用したいじめ、嫌がらせ、職場環境を悪化させる行為」を指す言葉として使われます。
しかしながら、職場でのいじめや嫌がらせという概念は昔から存在しており、それについての裁判例もありますが、「ハラスメント」というキーワードが世に広まったことから多くの問題・トラブルも知られるようになりました。たとえどのような理由だとしても、精神的苦痛に感じる発言や暴力を受けることはあってはならない問題といえます。
パワハラの被害者、加害者にならないために、パワハラの要因や防止策について考えてみましょう。

1.パワハラが起こる要因

一日の多くを過ごす職場では、様々な人とのやり取りが欠かせません。上司、部下、同僚など、多くの人とコミュニケーションを取りながら業務にあたっている方が大半ではないでしょうか。
そんな中で最も起こりやすいのが、上司と部下での力関係によるパワハラです。
人事評価をする上司の発言や行動は、対象者である部下にとって大きな影響を受ける場合があります。
部下を指導する際の理不尽な発言や人格を否定するような暴言、行き過ぎた叱責、仕事をさせない・・・などの嫌がらせが要因でパワハラと訴えるケースが多く見られ、その他には、部下の態度がきっかけで激昂し暴力を振るったり、信仰や思想に対しての理解をせず不当な扱いをしたり、といったケースもあります。

加害者自身が、自分の発言や行動が問題であると気づいていない事も多く、事態が長引くと被害者は苦痛を受け続け、精神疾患など患うことも。企業全体として深刻なダメージを受ける可能性があるのです。

2.こんな時はパワハラになる?ならない?

では、どのような場合にパワハラと認められるのでしょうか。実際に訴訟へと至り、訴えが認められたケースをご紹介します。

C会社に勤務することになったAさんは、自分のあまり得意ではない業務の担当になり、その事が原因でミスを重ね、同僚との折り合いも悪くなっていきました。さらにミーティング時に複数の上司から過度の叱責や人格を否定されるような発言を受け、通常業務時にも厳しい指導を受けるようになっていました。この間、同僚との関係も改善されないまま、Aさんは次第に体調を崩すようになります。
その結果、うつ病と診断されC会社を退社することとなってしまったAさんは、C会社と上司達の行為が不法であるとし、訴えを起こしました。
裁判所は、C会社と上司に不法行為責任があると認め、債務不履行に基づく損害を賠償する義務を負うと判断しました。

この裁判では、通常であれば必要である部下への指導が行き過ぎてしまったこと、Aさんの能力向上を目的とした研修やサポート等を行わず、ただ叱咤激励するだけだったということが問題となりました。
もっともパワハラと認定されやすいケースと言えます。


もう一つ、原告からパワハラの主張があったものの、定義に基づきパワハラではないとされたケースもご紹介します。

D会社のF支部に勤めるEさんは、やや対人関係に難があるものの、成績は優秀で、上司であるG部長もEさんのことを気にかけ親しくしていました。
ところがEさんは、「F支部でトラブルを起こした際、G部長は脅しのような文言で会社を辞めるように恫喝した。また、私が行った内部告発をG部長がもみ消し、嫌がらせとして他部署への異動を命じた。このようなパワハラから精神疾患になってしまった。」と訴えたのです。
しかしながら、Eさんを評価していたG部長からは脅すような発言は考えられないこと、内部告発についても社内で改善策を検討しており、もみ消しは無かったこと、さらに異動はEさんの対応に苦慮していたF支部の上長への配慮によるものであったことから、Eさんの主張したパワハラは存在しないとし、この訴えは認められませんでした。

この裁判では、Eさんが訴えるような事が本当にあったのかが争点となりました。
社員に対して行った指導や人事異動辞令を、本人の受け取り方次第ではパワハラと捉えられてしまうこともあります。どのような結果になるかを想定して、伝え方や人事の進め方を慎重に行わなくてはなりません。

3.パワハラを防ぐためには・パワハラが発覚したら
○社内でのパワハラが発覚し相談を受けた場合

当事者同士での解決は好ましくありません。問題が解決しないまま被害者が休職退社してしまったり、暴力により最終的に刑事事件になってしまうなど、企業としてもダメージを受ける可能性があります。
パワハラが発覚した場合は、管理部門などが第三者として入り、徹底した事実調査を行い、事実に基づき適切な対応を取ることが重要です。

○自分が被害を受けた場合

もし自分が上記2.のようなパワハラの被害を受けていると感じたら、一人で悩まずに総務部などの管理部門へ、そして社内で相談することができない場合は社外の窓口や法テラス、法律事務所などへ相談してみましょう。
初回無料相談などのサービスもあるので、まずは相談してみることをおすすめします。

4.まとめ

今回は2つのケースを紹介しましたが、他にもたくさんのケースが存在します。
「自分は関係ない」と思っていても、新しく入ってきた社員や人事異動辞令で、それまでの人間関係が変化することもあり、その対応に管理部門、社員ともに苦慮することもあり得ます。

管理部門としてはパワハラが起こらないよう、社員からのヒアリング等を行い、風通しの良い環境を作ることが大切です。
また、自分が被害者・加害者にならないためには、社員同士が積極的にコミュニケーションを取り、意思疎通を図っていくよう努めていくことも重要です。

2021.10.18

商標権の獲得意義について

商標権イメージ2最近は、商標権を取得する企業が年々増加しています。今や商標権を取得するということは、企業によるブランディング戦略の一環として、日常的に行われていることです。
さて、「商標権」とは知的財産権のうち「産業財産権」と呼ばれる権利の1つです。
企業は、自社の商品やサービスを他社のものと区別しやすくするためにマークをつけたりネーミングしたりしています。このマークやネーミングを「商標」といい、消費者が商品やサービスを選んでいく基準となり、ブランドイメージをつけていく重要な役割を担っています。このような自社商品やサービスについて、マークやネーミングを付け、それらを自社のものとして利用するために設けられているのが商標権になります。

® このマークが、その商標は商標権を持っているという目印になります。
自社のマークやネーミングを財産として守るためにあるのが「商標権」なのです。
今回はこの商標権を獲得することにどのような意義があるのかをお話ししていきます。

1.知的財産権とは

はじめに商標権は知的財産権のうちの1つだと述べましたが、ここで知的財産権について説明します。
人間の知的活動によって生み出されたアイディアや創造物には、財産的な価値をもつものがあり、それらを「知的財産」と呼びます。この知的財産を一定期間独占するための権利が知的財産権で、さまざまな法律によって保護されています。
知的財産権は技術などに関する産業財産権と、文学などに関する著作権等に分けられますが、商標権は産業財産権に分類されています。
特許権、実用新案権、意匠権、そして商標権の4つが産業財産権に含まれます。
特許庁によると、

商標権イメージ3

 

と定められています。いずれも、特許庁に審査されていますが、保護する対象が何かによって獲得する権利は異なり、その保護期間も変わってきます。

2.商標権の目的と機能

次は商標権を獲得する目的と、その機能について詳しくお話したいと思います。商標権は商標法に基づいて制定されていますので、まずは商標法制定の目的を見ていきましょう。
商標法第一条ではこう記されています。

(目的)この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。

ここで、具体例を交えて説明していきたいと思います。
もしも、商標権というものが存在していなければ、世の中に同じ名前の商品がありふれてしまっているかもしれません。

商標権イメージ例えば、A社からボールペンAという商品が発売され、書きやすいと評判になりロングセラー商品になっていたとします。その人気に便乗し、他社からもよく似たデザインのボールペンAという名前の商品が販売されたとします。すると、消費者はたくさんあるボールペンAを区別するのが難しくなり、A社以外のボールペンAを購入するようになるかもしれません。
そうなることで、A社の売り上げが下がる、「品質が違う」といったクレームという実害が考えられます。
こうした事態(あくまで一例ではありますが)が起こらないよう、元祖ボールペンAを生み出したA社の信用を維持し、さらに産業の発達に寄与、需要者の利益を保護することが商標法制定の目的なのです。

3.商標登録をしていなかったら

商標登録をするには、費用がかかります。だからといって商売をするときに商標登録をしなかったらどんな事が起こり得るのでしょうか。

例えば、X社が10年前から「Xウサギ」というキャラクターを会社の広告キャラクターとして発案し、使用していたとします。そのキャラクターがテレビ番組で紹介されたことを機に人気沸騰し、同社から発売されているキャラクター関連商品の売り上げが5倍に上がったとします。
そんな中、一通の内容証明が届くのです。
内容は、「『Xウサギ』は『Y社』が商標登録をしているので商標権の侵害にあたる。ただちにキャラクターの使用、関連商品の販売の中止を求める、、損害賠償を請求する」というものだったのです。
10年前からXウサギを使用してきたX社としてはとても理不尽極まりない出来事でしょう。
しかしここで重要なのは、「X社」がXウサギを先に考え使用していた(=商標を使っていた)ことなのではなく、「Y社」がXウサギの商標権を取得していることなのです。
知らない間にX社はY社の商標権を侵害していたことになるのです。

このように、商標登録は早い者勝ちと言えるのです。「いつまでに」という期限やきまりはないので、この商標でやっていくという事が決まれば、「できるだけ早く」商標登録をすることをお勧めします。(商標登録完了までに、半年から1年間かかるのです。)

4.まとめ

商標権は自社のサービスを区別化、ブランドイメージをつけていくために大切な権利です。特許庁が認めたということで社会の信用にもつながり、更なる事業の成長にも繋がるでしょう。
しかし知名度が上がったり、人気が出たりしてから商標登録をするのでは遅い場合もあります。「早い者勝ち」であることを念頭に置きましょう。
また、反対に自分が商標権を侵していないか、という事も考えなければなりません。あらかじめ商標調査をし、商標を決めるのが良いでしょう。

2021.10.06

旅行会社が倒産したら旅行やお金はどうなるの?

もし自分が楽しみにしている旅行を手配してもらっていた旅行会社が突然倒産したら、どうなるのでしょうか?

飛行機には乗れるのか…。お金は返ってくるのか…。今日はそんな旅行会社が倒産したときについてお話したいと思います。

1.旅行会社に料金を支払い済みの航空券は使える?

もしも、旅行会社を通じて航空券を購入し、旅行前に会社が倒産してしまったら、購入した航空券は使えるのでしょうか?

まずは、該当する航空会社に問い合わせ、予約や支払いの有無を確認します。
そして、そのときの航空会社の回答によって、以下のように航空券が使えるかどうかは変わってきます。

①旅行会社が航空券の予約・支払いもしていた場合

この場合は、航空券の支払まで済んでいるため、紙の航空券が手元になくても、窓口で情報照会をすれば搭乗券を発券してくれるでしょう。

②旅行会社が航空券の予約はしていたが、支払いをしていない場合

倒産する状況にある旅行会社が、航空券代を支払っている可能性は低いです。
そのため、ほとんどがこの②に該当するでしょう。

この場合、航空券代が支払われていないため、航空券はこのままだと使えません。
航空会社に対して直接支払うか、もしくは倒産した会社から委託を受けた他の旅行会社に航空券代を支払うことで、航空券を確保することは可能です。

しかし、このとき、利用者は既に倒産した旅行会社には航空券代を支払っているのに、航空会社や委託先の旅行会社に対してもさらに航空券代を支払わなければいけなくなるため、いわゆる二重支払の状態になってしまいます。

そのような場合、旅行会社が日本旅行業協会(JATA)に加盟している正会員であれば、一部の料金を返還してもらうことが可能となります。(JATAの返金については後程ご説明します。)

③旅行会社が予約をしていなかった場合

旅行会社が航空券の予約すらしていなかった場合もあります。そんなことがあるのか?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、倒産を見越して予約すら行わない悪質な旅行会社も中にはあるのです。この場合は、新たに航空券を探すところから始めなければなりません。

このように、倒産した旅行会社がどう対応していたかによって、購入した航空券が利用できるのかは異なってきます。
そもそも、航空券を購入したと自分では思っていても、実は予約すらされていなかったなんて場合もありますので、注意しておきましょう。

次に、旅行会社が倒産したとき、両行代金は既に支払い済でこれから行く予定だった旅行や航空券は返金可能なのかについてみていきたいと思います。

2.支払済みの旅行代金は戻ってくるの?

「明日から旅行だ!」と楽しみにしていたのに、旅行会社が倒産してしまい、ホテルや飛行機の予約もされておらず、旅行に行けない…なんてことになった場合、支払った旅行代金はきちんと返ってくるのでしょうか?

答えは「必ずしも全額返ってくるとはいえない」になります。
ですが、「営業保証金制度」と「弁済業務保証金制度」により、必ずしも全額とはいえないにしても、旅行会社からの返金を受けることは可能です。

それでは、それぞれの制度について説明したいと思います。

①弁済業務保証金制度

旅行会社が旅行業協会(JATA)に加入している場合、旅行業協会から、倒産した会社に対して、「弁済業務保証金」が支払われるので、その保証金の範囲内での返金を受けられる場合があります。
弁済業務保証金から返金を受ける場合は、旅行業協会に対して申請を行うことで、申込順に支払いが行われます。

②営業保証金制度

弁済業務保証金と似たような制度に、営業保証金制度というものがあります。
この制度では、まず、旅行会社が開業をするときに、国に対して営業保証金として、予め一定の金額を預けておきます。その後、万が一倒産などで利用客に対してお金を返すことが出来なくなった時(債務不履行といいます)は、預けた保証金の中から一定の範囲内で返金を行うという仕組みです。

営業保証金から返金を受ける場合は、まず該当の旅行会社が登録している行政庁に、所定の申立書を提出します。申立書提出後は、行政庁で一定の手続きが行われ、配当金額が決定します。その後、配当金額の証明書が利用客に対して送付されるので、その証明書を持って旅行会社の登録している法務局に行くことで、返金を受けることが出来ます。

このように、旅行会社が倒産してしまい、旅行が中止になった場合は、返金の余地はありますが、自分から返金を求めなければなりませんので、注意しておきましょう。

最後に、実際にあった旅行会社の倒産について見ていきたいと思います。

3.悪質な「計画倒産」の実例

もしも、旅行の予約を入れて間もなくして旅行会社が倒産したと聞いたら、「騙された!計画的な倒産ではないのか?」と思う方も多いですよね。
確かに、倒産すると分かっていたのに、それでも予約や注文を受け続けて、料金を取る行為はある種詐欺行為のようにも思えます。

実際に、2017年に話題になった旅行会社があります。今は倒産してしまった、「てるみくらぶ」という旅行会社です。

てるみくらぶは、3月21日の新聞にキャンペーンの広告を出しておきながら、一週間後の3月27日に破産申請を行い、謝罪会見を行いました。
このようにたった1週間でここまでの動きがあると、計画的に倒産したのではないかと思われても仕方がありません。

その後、てるみくらぶの社長は詐欺容疑で逮捕されましたが、それは、利用客に対する詐欺行為ではなく、銀行に対する詐欺行為を行ったことによる逮捕でした。
「銀行に対し、経営状態が良いように見せかけて巨額の融資を受け、資金を確保した」という内容です。
また、被害に遭った利用客に対しては、謝罪会見を行っただけで、当時はそれ以上の対応はされていませんでした。

クレジットカード決済を選択していた利用客は、カード会社の対応によって返金され、全額返金してもらえたという例もありましたが、一方で、現金決済を行っていた利用客は、弁済業務保証金制度や営業保証金制度の範囲内でしか返金がなされないので、悔しい思いをしたに違いありません。

4.まとめ

以上のように、一見人気で繁盛しているように思われる旅行会社も、倒産の危機にさらされながら営業をしている、という可能性もあります。
もしも被害に遭ってしまった場合は、支払ったお金を取り戻せるように、取るべき対応を取りましょう。ご自分で判断がつかない場合は、お早めに専門家に相談することをおすすめします。

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