Komoda Law Office News

2022.11.22

【2022年10月1日施行】インターネットでの誹謗中傷等対策~プロバイダ責任制限法~

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

インターネット上の誹謗中傷等による権利侵害に対する被害者救済をより促進するため、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)の一部がが改正され、2022年10月1日に施行されました。
今回は、改正前にどのような問題があり、改正によりそれがどのように解決したのか等について、解説いたします。

1.プロバイダ責任制限法の改正前

【2022年10月1日施行】インターネットでの誹謗中傷等対策~プロバイダ責任制限法~

これまで、twitter等のSNS上で誹謗中傷に遭った場合に、発信者(投稿者)を特定するためには、その発信者のIPアドレスを特定したうえで、インターネット・サービス・プロバイダ(インターネットへの接続を仲介する業者。以下、「通信事業者」といいます。)が保有するそのIPアドレスと紐づく発信者情報を開示してもらう必要がありました。

その際、IPアドレス等を保有するコンテンツプロバイダ事業者(SNS、ブログ、掲示板、ホープページ等の事業者)又はサーバ会社(以下、コンテンツプロバイダ事業者とサーバ会社を併せて「コンテンツ事業者」といいます。)は、通常3ヵ月でそのデータを削除していることや任意でその開示に応じるケースが殆どないため、被害を受けた方は、コンテンツ事業者に対して、早急にIPアドレス等の開示請求の仮処分申立てを行って、IPアドレスの開示を受ける必要がありました。

そして、開示を受けたIPアドレスをもって、通信事業者に発信者情報の開示請求訴訟を提起し、開示を受けるという流れとなりますので、特定まで4ヶ月~7ヶ月程度かかり、海外の会社が経営しているコンテンツ事業者ですと1年以上かかることもあり、権利救済にかなりの時間が掛かっておりました。

2.プロバイダ責任制限法はどのように改正されたのか

今回の法改正では、簡潔にいいますと、これまで2回必要であった裁判手続きが1回の手続きで可能となりました。

具体的には、これまでのように、1つの裁判手続き(IPアドレス等の開示請求の仮処分申立て)が終わってからでないと次の裁判手続き(通信事業者に対する開示請求訴訟)に進むことが出来ず、2つの手続きを経てようやく発信者の情報が開示されるという手間がなくなり、複数の手続きを同時に申し立てることが出来るようになったことになります。


詳細にご説明しますと、裁判所に対して、コンテンツ事業者に対するIPアドレス等の開示請求の仮処分申立てを行うと同時に、コンテンツ事業者が保有する通信事業者の情報を元に、通信事業者へ発信者情報の提供命令の申立てを行います。
提供を受けた通信事業者に対する発信者情報開示請求の申立てを行って、その事実をコンテンツ事業者に対して通知することで、コンテンツ事業者が通信事業者に対して自己の保有する発信者情報を提供することになりました。
これらの手続きが同時に出来るようになり、開示命令の申立てが認容されれば、コンテンツ事業者及び通信事業者から発信者の情報が開示されることになりました。

3.まとめ

以上のとおり、今回の法改正によってインターネットで誹謗中傷等をされた場合に、発信者を特定するまでの期間が大幅に短縮されることになり、より迅速な権利救済が図られるようになりました。
もっとも1回の手続きで完了するとはいえ、手続き自体は専門的な内容となります。
開示請求に詳しい弁護士に依頼することが望ましいですので、インターネットの誹謗中傷等でお困りの方は、弁護士法人菰田総合法律事務所におまかせいただければと思います。

弁護士川畑貴史執 筆
KOMODA LAW OFFICE 弁護士
川畑 貴史 TAKASHI KAWABATA

得意分野は刑事、企業法務問題、相続。
座右の銘は『急がば回れ』

 

2022.04.28

「信書」の送付に関する法規制について

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

はじめに

会社、個人を問わず、多くの方にとって、文書の送付は日常的に何気なく行う行為であり、その送付の方法について深く考えたことがある方はあまりおられないのではないでしょうか。

実は、郵便法の規制により、「信書」に当たる文書を送付する場合には、一部の例外を除き、日本郵便株式会社が行う特定の郵便事業を利用しなければならないとされており、荷物を送ることが目的の宅配便等を利用して「信書」を送付することは、郵便法に抵触するおそれがあります。

手紙をはじめ、契約書、請求書、領収書、報告書等、様々な文書を日常的にやり取りをされている方も多いと思われますが、これらは全て「信書」に該当し、法規制の対象となるのか、以下解説します。

1.郵便法等の規制

「信書」とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」をいい、日本郵便株式会社以外の者は、何人も、「信書」の送達(送り届けること。)を業としてはならないとされています(郵便法4条2項)。
また、同項に違反して信書の送達を業とする者あるいは運送営業者等に対し、送り主が「信書」の送達を委託する行為も禁じられています(同条4項)。

「信書」とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」

そして、物品の宅配業者等の運送営業者については、同条3項で「運送営業者、その代表者又はその代理人その他の従業者は、その運送方法により他人のために信書の送達をしてはならない。」とされる一方、例外的に、「貨物に添付する無封の添え状又は送り状」の送達は許容されています。

なお、民間事業者による信書の送達に関する法律(いわゆる信書便法)に基づき許可を受けた一般信書便事業者又は特定信書便事業者が、許可の範囲で信書の送達をする場合には、郵便法4条2項は適用されず(信書便法3条)、例外的に、日本郵便株式会社以外の者であっても信書の送達が可能とされています(本年2月25日現在、一般信書便事業者は存在しないものの、佐川急便株式会社の「飛脚特定信書便」をはじめ、特定信書便役務を取扱う特定信書便事業者は589者存在します ※1。)。

※1 
■総務省ウェブサイト(http://www.soumu.go.jp/yusei/tokutei_g.html
■佐川急便株式会社ウェブサイト(https://www.sagawa-exp.co.jp/service/h-shinsho/
より

このように、郵便又は信書便以外の方法により「信書」を送達する行為も、送り主が郵便又は信書便以外の方法による「信書」の送達を委託する行為も、同法により規制されています(郵便法4条3項及び4項)。
これらの法規制に違反した場合、「信書」の発送を委託した者を含め、3年以下の懲役刑又は300万円以下の罰金刑の制裁が定められています(同法76条1項。もっとも、実際に刑事事件としての立件にまで至った例はさほど見当たりません。)。

【郵便法(抄)】
(郵便の実施)
第二条 郵便の業務は、この法律の定めるところにより、日本郵便株式会社(以下「会社」という。)が行う。

(事業の独占)
第四条 会社以外の者は、何人も、郵便の業務を業とし、また、会社の行う郵便の業務に従事する場合を除いて、郵便の業務に従事してはならない。
ただし、会社が、契約により会社のため郵便の業務の一部を委託することを妨げない。
2 会社(契約により会社から郵便の業務の一部の委託を受けた者を含む。)以外の者は、何人も、他人の信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。以下同じ。)の送達を業としてはならない。
二以上の人又は法人に雇用され、これらの人又は法人の信書の送達を継続して行う者は、他人の信書の送達を業とする者とみなす。
3 運送営業者、その代表者又はその代理人その他の従業者は、その運送方法により他人のために信書の送達をしてはならない。
ただし、貨物に添付する無封の添え状又は送り状は、この限りでない。
4 何人も、第二項の規定に違反して信書の送達を業とする者に信書の送達を委託し、又は前項に掲げる者に信書(同項ただし書に掲げるものを除く。)の送達を委託してはならない。

信書の定義とは

2.「信書」の範囲

⑴「信書」の定義の意味内容
では、どのような文書が上記の「信書」に当たるのでしょうか。
まず、上記の「信書」の定義を読み解きます。

ア 「信書」の定義における「特定の受取人」とは、差出人がその意思の表示又は事実の通知を受ける者として特に定めた者をいいます。 文書自体に受取人が記載されている場合には、差出人が「特定の受取人」に宛てたことが明らかですが、受取人の記載が無くとも、手紙などのようにその内容から特定の受取人の存在が予定され、その記載が省略されていることが分かる場合には、同時に送付される包装紙部分等に記載された宛名によって受取人が具体的になることから、「特定の受取人」に宛てたものとなります。
イ 「意思を表示し、又は事実を通知する」とは、差出人の考えや思いを表し、又は現実に起こり若しくは存在する事柄等の事実を伝えることをいいます。
一般的に、個人がその意思を表示し、又は事実を通知する文書を特定の受取人に送付する場合は、その文書は信書に該当しますが、同一内容で大量に作成された文書を個々の受取人に対して送付する場合であっても、内容となる文書が特定の受取人に対して意思を表示し、又は事実を通知するものであれば、信書に該当します。
ウ 「文書」とは、文字、記号、符号等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物のことをいいます。文書の記載手段は、筆書に限られず、印章、タイプライター、印刷機、コピー機、プリンター等によるものでもよく、また、文書を記載する素材は、紙のほか木片、プラスチック、ビニール等有体物であればよいとされます。
これに対し、電磁的に記録されたフロッピーディスク、コンパクトディスク等は、そこに記載された情報が、人の知覚によって認識することができないものであって「文書」には当たらないため、これらを送付しても郵便法4条2項により規制される「信書」の送達には該当しません ※2。

※2 「信書に該当する文書に関する指針」(平成15年総務省告示第270号)より


⑵「信書」該当性の判断
ア 特定の文書が「信書」に該当するか否かは、文書の大きさや受取人、ある特定の文言や情報の有無等の外形的事実ではなく、文書の記載内容及び送付の目的等からみて「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」といえるか否かという観点から判断されます。

要するに、「信書」に当たるかどうかは、見た目や形式ではなく、文書の内容を重視して判断されることになるため、同様の文書であっても送付の目的等により「信書」に該当する場合としない場合があり得ることになります。
イ 例えば、通知書や報告書を受取人に対し送付する場合、商品の納入者が受取人に対し納品書を送付したり代金の請求書を送付したりする場合、会社が株主に対し、株主総会招集通知を送付する場合、就職応募者が申込先の企業に履歴書を送付する場合、市役所が住民の申請に応じて印鑑証明書を送付する場合は、いずれも「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する」ものといえるため、これらの文書は、通常「信書」に該当すると判断されます。
これに対し、書籍や論文、図面、ポスター、カタログ、家電製品の取扱説明書、約款、求人票、名刺、パスポート、振込用紙等は「特定の受取人」に宛てて送付するものではないため、通常は「信書」には当たらないと考えられます。
また、手形や小切手、乗車券、プリペイドカード、会員カード、ポイントカード等は、使用方法や説明書きが記載されているに過ぎず「差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」とはいえないため、やはり「信書」には当たらないと考えられます。
ウ  また、広告物に関しては、ダイレクトメールのように、文書自体に特定の受取人が記載されているか、受取人の記載はなくとも、商品の購入等の利用関係、契約関係等特定の受取人に差し出す趣旨が明らかな文言が記載されている場合には、「信書」に該当する可能性が高いといえます。他方、専ら街頭や店頭における配布あるいは新聞への折り込みを前提として作成されるチラシ、パンフレット又はリーフレットのようなものであれば、特定人の住居の郵便ポストに投函されるとしても、「特定の受取人」に対するものとはいえないため、「信書」には該当しないと考えられます ※3。
エ  更に、通常は「信書」に該当すると考えられる文書であっても、例えば、企業が顧客あるいは就職応募者から提出を受けた印鑑証明書や履歴書を別の部署・支店に郵送したり、顧客あるいは就職応募者に返送したりする場合には「差出人の意思を表示し、又は事実を通知する」とはいえないため、「信書」に当たらないことになるでしょう。

※3 総務省情報流通行政局郵政行政部『信書制度周知用チラシ』(令和元年)2~4頁 より

⑶補足
このように、郵便法の規制対象となる「信書」の概念は曖昧で、該当性判断は必ずしも容易ではないにもかかわらず、運送事業者のみならず送り主も刑事罰の対象とされている現状では、文書の送り主が罪に問われるリスクがあるなどとして、ヤマト運輸株式会社は平成27年3月末をもって、それまで広く利用されていた「クロネコメール便」を廃止しました。
なお同社は、文書の内容ではなく外形で「信書」該当性を判断することを提唱しています ※4。

※4  ヤマト運輸株式会社ウェブサイト(https://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/ad/opinion/shinsyo/) より

3.まとめ

⑴ 以上述べたところによれば、取引先や顧客に送付する手紙、連絡文書、請求書、契約書等は、いずれも「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」として「信書」に当たり、郵便又は信書便以外の方法で発送することは、郵便法4条4項に違反することとなります。
したがって、上記のような文書は、日本郵便株式会社が提供する郵便事業(定形/定形外郵便、スマートレター、レターパック等)や佐川急便をはじめとする事業者が提供する「信書便」によって送付する必要がありますが、日本郵便株式会社が提供するものであっても、ゆうパックやゆうメール等は書籍や荷物等の物品運送を目的としており、信書を送ることはできないとされていますので注意が必要です。

⑵ もっとも、上記の手紙、連絡文書等を送付する場合であっても、単に保管場所を変更するために他の店舗へ送るに過ぎないようなときは、「意思を表示し、又は事実を通知する」とはいえないため「信書」を送る場合には該当しないと考えられます。
翻って、社内における移動であっても、契約成立の事実や代金未収の事実を他の店舗や部署に伝えるために送付するときは、やはり「意思を表示し、又は事実を通知する」ものとして「信書」に該当するものと考えられます。

⑶ なお、「信書」に該当するものであっても、「貨物に添付する無封の添え状又は送り状」であれば、(郵便や信書便事業を取り扱うことができない)運送営業者が送達することが可能とされていますので(郵便法4条3項ただし書き)、物品の運送に伴い、封をしていない納品書や送付状等を荷物の中に同封し、運送営業者に送ってもらうことは、例外的に許容されます。

以上

弁護士:久富 達也執 筆
KOMODA LAW OFFICE
弁護士
久富 達也 TATSUYA HISATOMI
座右の銘は「不知為不知。是知也。」(知らざるを知らずと為す。これ知るなり。出展:論語・為政)

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