【多発中】若者もターゲットに!虚偽の投資話の詐欺
昨今、様々な詐欺事件が増えていますが、具体的にどのような詐欺があり、その対処法、そして実際に警察がどこまで対応してくれるのか等について、今回解説いたします。
1.現在、多発している詐欺
まず、現在多発している詐欺としては、以下の3つが代表的なものです。
②直接自宅に銀行員を装ってやって来て、キャッシュカードが不正利用されていて使えなくなるので交換する必要がある等と言って、キャッシュカードを受領するとともに暗証番号を聞いてATMでお金を引き出す詐欺
③虚偽の投資話を行って元本保証で倍にして返す等といってお金を騙し取る詐欺
このうち、①②の詐欺は判断能力が低下した高齢者をメインターゲットとして行われます。
③の詐欺は若い人もターゲットとされるケースが最近増えてきています。
今回は、この③の詐欺に主眼を置いて解説します。
2.虚偽の投資話の詐欺
元本保証で倍にして返す等の投資話でお金を騙し取る詐欺は、なかなか警察が動かないケースが多いです。
なぜなら、詐欺罪で立件するためには、お金を受領した時点で返す意思がないことを立証をしなければなりません。
そのために、まずは投資内容が虚偽であることを立証する必要があります。
その上、「受領したお金をすぐに他の借入に返済する」等、明らかに返す意思がある、矛盾する言動がない本人の弁解がある場合、その弁解次第では詐欺罪での立証がかなり難しくなります。
そうすると警察もなかなか動いてくれないのが実情です。
実際に、詐欺罪ではなく出資法違反での逮捕・起訴となるケースが多いです。
そのため、決定的な証拠がない限り、弁護士なしでは警察が動くことは殆どありません。
また、弁護士に依頼したとしても、弁護士の指示のもとある程度の証拠収集を自分達で行わなければなりません。
弁護士からは、警察に対して事件化して捜査を進めるように強く求めるとともに、弁護士と警察が連携して不足証拠を収集していき、逮捕・起訴まで持って行く必要があります。
なお、刑事事件化する過程で詐欺者から示談を持ち掛けられ、お金の返還を受けられるケースもあります。
警察に相談する際に、詐欺者本人を処罰して欲しいという思いよりもお金を返還して欲しいという思いが強いと、警察よりまずは民事事件で進めるように強く促されるケースが多くありますので、その点はご留意いただければと思います。
弁護士としてご相談を受ける際、A『投資したけども騙された』という上記のような詐欺のケース、B『お金を貸したけども帰ってこないので詐欺で訴えたい』というケースが多いです。
Aでも立証が難しい状況ですので、Bであればなおさら詐欺で訴えることは極めて難しいということになります。
少しでも返済がされていた場合は、返済する意思がなかったという立証に重大な支障をきたすため、Bは詐欺での立件はほぼ不可能です。Aの場合でも立件は、かなり難しい状況となります。
そのため、出資をする際の防衛策としては、以下のことが重要となります。
・返済口座を敢えて契約書に記載せずに、出資者の指定する口座に支払うという内容に留めておく
・先方とのやりとりをLINE等で残すか口頭でも録音しておく
もう既に出資してしまっている場合は、証拠がすべてですので、以下のような対策が必要となります。
・事後的でも未だ騙されている振りをして、電話を掛けてその会話内容を録音して証拠化する
3.まとめ
以上のとおり、昨今様々な詐欺事件が多発している中、特に投資詐欺の場合の対処法等について解説させていただきました。
投資詐欺を立件化するためにはかなりハードルが高く、弁護士と警察が連携して立件のために動く必要性が高いケースが多いため、投資詐欺に詳しい弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。
投資詐欺等でお困りの方は、弁護士法人菰田総合法律事務所までご相談ください。

KOMODA LAW OFFICE 弁護士
川畑 貴史 TAKASHI KAWABATA
得意分野は刑事、企業法務問題、相続。
座右の銘は『急がば回れ』
【2022年10月1日施行】インターネットでの誹謗中傷等対策~プロバイダ責任制限法~
インターネット上の誹謗中傷等による権利侵害に対する被害者救済をより促進するため、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)の一部がが改正され、2022年10月1日に施行されました。
今回は、改正前にどのような問題があり、改正によりそれがどのように解決したのか等について、解説いたします。
1.プロバイダ責任制限法の改正前
これまで、twitter等のSNS上で誹謗中傷に遭った場合に、発信者(投稿者)を特定するためには、その発信者のIPアドレスを特定したうえで、インターネット・サービス・プロバイダ(インターネットへの接続を仲介する業者。以下、「通信事業者」といいます。)が保有するそのIPアドレスと紐づく発信者情報を開示してもらう必要がありました。
その際、IPアドレス等を保有するコンテンツプロバイダ事業者(SNS、ブログ、掲示板、ホープページ等の事業者)又はサーバ会社(以下、コンテンツプロバイダ事業者とサーバ会社を併せて「コンテンツ事業者」といいます。)は、通常3ヵ月でそのデータを削除していることや任意でその開示に応じるケースが殆どないため、被害を受けた方は、コンテンツ事業者に対して、早急にIPアドレス等の開示請求の仮処分申立てを行って、IPアドレスの開示を受ける必要がありました。
そして、開示を受けたIPアドレスをもって、通信事業者に発信者情報の開示請求訴訟を提起し、開示を受けるという流れとなりますので、特定まで4ヶ月~7ヶ月程度かかり、海外の会社が経営しているコンテンツ事業者ですと1年以上かかることもあり、権利救済にかなりの時間が掛かっておりました。
2.プロバイダ責任制限法はどのように改正されたのか
今回の法改正では、簡潔にいいますと、これまで2回必要であった裁判手続きが1回の手続きで可能となりました。
具体的には、これまでのように、1つの裁判手続き(IPアドレス等の開示請求の仮処分申立て)が終わってからでないと次の裁判手続き(通信事業者に対する開示請求訴訟)に進むことが出来ず、2つの手続きを経てようやく発信者の情報が開示されるという手間がなくなり、複数の手続きを同時に申し立てることが出来るようになったことになります。
詳細にご説明しますと、裁判所に対して、コンテンツ事業者に対するIPアドレス等の開示請求の仮処分申立てを行うと同時に、コンテンツ事業者が保有する通信事業者の情報を元に、通信事業者へ発信者情報の提供命令の申立てを行います。
提供を受けた通信事業者に対する発信者情報開示請求の申立てを行って、その事実をコンテンツ事業者に対して通知することで、コンテンツ事業者が通信事業者に対して自己の保有する発信者情報を提供することになりました。
これらの手続きが同時に出来るようになり、開示命令の申立てが認容されれば、コンテンツ事業者及び通信事業者から発信者の情報が開示されることになりました。
3.まとめ
以上のとおり、今回の法改正によってインターネットで誹謗中傷等をされた場合に、発信者を特定するまでの期間が大幅に短縮されることになり、より迅速な権利救済が図られるようになりました。
もっとも1回の手続きで完了するとはいえ、手続き自体は専門的な内容となります。
開示請求に詳しい弁護士に依頼することが望ましいですので、インターネットの誹謗中傷等でお困りの方は、弁護士法人菰田総合法律事務所におまかせいただければと思います。

KOMODA LAW OFFICE 弁護士
川畑 貴史 TAKASHI KAWABATA
得意分野は刑事、企業法務問題、相続。
座右の銘は『急がば回れ』
『同一労働同一賃金』とは?④ ~食事手当編~
はじめに
前回はガイドラインを基に、所謂「作業手当」、つまり業務の危険度又は作業環境に応じて支給される手当に関して正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点について説明させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?③ ~作業手当編~
今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する諸手当のうち、「食事手当」の性質を有する手当について正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題ないか、説明させていただきたいと思います。
1.同一労働同一賃金とは?
振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。
2.食事手当の取扱いについて
⑴ 食事手当とは
ここでいう「食事手当」とは、労働時間の途中に食事のための休憩時間がある労働者に対して、食費の負担補助として支給される手当を指します。
⑵ 食事手当の待遇差がある例
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で食事手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。
①正社員に対しては食事手当を一律月額5,000円支給するが、正社員と同一の職務内容と勤務形態である契約社員には支給しない場合。
②正社員だけでなく非正規雇用労働者にも食事手当を支給するが、正社員に対する支給額を非正規雇用労働者よりも高く設定する場合。
③全従業員のうち、食事のための休憩時間をとる必要がない短時間労働者のみを支給対象外とする場合。
などが、考えられます。
⑶ 食事手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑵で挙げた例①から③のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるのでしょうか。
この点を考えるにあたっては、これまでの回と同様に「食事手当」の性質を考える必要があります。
そうしますと、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の職務内容、及び勤務形態に違いがないのであれば、食事手当の支給の取扱いの相違を設ける必要性は見出せません。
また、仮に職務の内容・配置の変更の範囲が異なったとしても、勤務中に食事を取る必要性やその程度に影響を及ぼすものはありません。
したがって、正規雇用労働者と同一の勤務形態で勤務する非正規雇用労働者に対しては、原則として正規雇用労働者と同様の食事手当を支給する必要があると考えられます。
ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の食事手当を支給しなければならない。」と定めています。
そうしますと、例①については、正社員と契約社員の職務内容、勤務形態等が同一で、双方とも勤務時間の途中に食事のための休憩時間が付与されているにもかかわらず、正社員のみに食事手当が支給されていますので、不合理な待遇差と評価されるでしょう。
同様に、非正規雇用労働者に勤務時間の途中に食事のための休憩時間が付与されている場合、正社員と比較して支給額に差異を設ける必要性はないと考えられますので、例②についても不合理な待遇差と判断される可能性が高いでしょう。
ガイドラインにおいても、問題となる例として「通常の労働者に対して、有機雇用労働者に比べ、食事手当を高く支給している」場合をあげています。
他方で、 上述した食事手当の趣旨から考えますと、そもそも労働時間の途中に食事のために休憩することが予定されていない勤務形態である非正規雇用労働者に対して食事手当を支給していないとしても、直ちに不合理な待遇差とは評価されないものと思われます。
ガイドラインにおいても、問題とならない例として、「労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後2時から午後5時までの勤務)短時間労働者に対して食事手当を支給しない」場合をあげています。
そうしますと、例③については、同様に考えて不合理な待遇差とはまではいえないと考えられます。
3.まとめ
今回は、同一労働同一賃金で問題となる食事手当の待遇差について、ガイドライン等を基に説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。

KOMODA LAW OFFICE 弁護士
坂本 志乃 SHINO SAKAMOTO
得意分野は労務、企業法務。
座右の銘は『努力は人を裏切らない』
『同一労働同一賃金』とは?③ ~作業手当編~
はじめに
前回はガイドラインを基に、会社が従業員に支給する交通費、所謂「通勤手当」に正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点について説明させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?② ~通勤手当編~
今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する諸手当のうち「作業手当」の性質を有する手当について正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題ないか、説明させていただきたいと思います。
1.同一労働同一賃金とは?
振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。
2.作業手当の取扱いについて
⑴ 作業手当とは
ここで「作業手当」について簡単に説明させていただきます。
ここでいう「作業手当」とは、業務の危険度又は作業環境に応じて支給される手当を指します。
・高所作業に従事する労働者に対して「高所(作業)手当」として支給する場合
・運送ドライバーに対し、貨物の積み込み・積み下ろし作業(荷役作業)に対する手当として支給する場合
などが考えられます。
⑵ 作業手当の待遇差がある例
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で作業手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。
①運送ドライバーである正社員に対しては、荷受作業に対する手当として作業手当を支給するのに対し、業務の内容及び責任の程度が同一である契約社員に対しては、作業手当を支給しない場合
②高所作業に従事する作業員である正社員に対しては、高所作業手当を支給するのに対し、同様の作業に従事する短時間労働者については、高所作業に従事する点を加算して時給を決定している場合
などが、考えられます。
⑶ 作業手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑵で挙げた例①および例②のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるのでしょうか。
この点を考えるにあたっては、前回と同様に「作業手当」の性質を考える必要があります。
したがって、特定の作業の対価として支給される性質を有する賃金であって、職務の内容・配置の変更の範囲が異なったとしても、作業内容に対する対価の評価が異なるとは考え難いため、正規雇用労働者と同一の作業を行う非正規雇用労働者に対しては、原則として正規雇用労働者と同様の作業手当を支給する必要があると考えられます。
ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「通常の労働者と同一の危険度又は作業環境の業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊作業手当を支給しなければならない。」と定めています。
そうしますと、例①については、正社員と契約社員の業務内容は同一にもかかわらず、同一の業務に対して正社員のみに作業手当が支給されていますので、不合理な待遇差と評価されるでしょう。
他方で、正社員と同一の作業に従事する非正規労働者の時給決定時に、作業内容を考慮して時給を決定するため他の非正規雇用労働者の時給水準よりも高くなっている、又は別の手当として支給している等、実質的に当該作業に対する対価が支給されていると評価可能な場合については、正規雇用労働者と同一の手当を支給していないとしても、不合理な待遇差とまでは言えないと評価される可能性があるでしょう。
そうしますと、例②については、同様に考えて不合理な待遇差とはいえないということになりますね。
3.まとめ
今回は、同一労働同一賃金で問題となる作業手当の待遇差について、ガイドライン等を基にご説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。

KOMODA LAW OFFICE 弁護士
坂本 志乃 SHINO SAKAMOTO
得意分野は労務、企業法務。
座右の銘は『努力は人を裏切らない』
『同一労働同一賃金』とは?② ~通勤手当編~
はじめに
前回は「同一労働同一賃金」の概要、そして「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止に関する指針」(以下「ガイドライン」といいます。)について簡単にお話させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?①
今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する交通費、所謂「通勤手当」に正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点についてご説明させていただきたいと思います。
1.同一労働同一賃金とは?
前回の振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。
2.通勤手当の取扱いについて
⑴通勤手当の待遇差がある場合
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で通勤手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。
例えば、①正社員には1ヶ月分の定期代相当額を通勤手当として支給するが、契約社員、パート、アルバイトには通勤手当を支給しない場合が考えらえます。
この例は極端ですが、他にも例えば②契約社員と交通手段、通勤距離が共に同じ正社員に対しては、月額5,000円の通勤手当を支給し、他方で契約社員には月額3,000円を支給する場合や、③正社員や正社員と同様の所定労働日数である契約社員・パート等には1月分の定期代相当額を通勤手当として支給し、所定労働日数が少ない、又は出勤日数が変動する契約社員・パート等には出勤した日額の交通費を支給する場合、等があります。
⑵通勤手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑴で挙げた例①から③のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるか考えてみましょう。
この点を考えるにあたっては、「通勤手当」の性質を考える必要があります。
「通勤手当」とは、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるものです(「ハマキョウレックス事件」最判平成30年6月1日労判1179号20頁参照)。
そうしますと、労働期間の定めの有無や、労働時間数によって通勤費が異なるとは言えませんし、職務内容・配置変更の範囲が異なったとしても、これにより発生する通勤費に影響が生じる、つまり通勤費が増減すると言えませんので、正規雇用労働者と同一の通勤を行う非正規雇用労働者に対しては、原則として同一の通勤手当を支給する必要があると考えられます。
ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。」と定めています。
もっとも、ガイドラインでは、待遇差があっても問題がない例、つまり合理的な待遇差と説明可能な例も定めています。
例えば、本社採用の労働者には交通費実費の全額に相当する通勤手当を支給する一方、それぞれの店舗採用の労働者に対しては、当該店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定している場合があります。
以上を踏まえて例①から③を検討してみましょう。
①はどうでしょうか。
①では正社員のみに通勤手当を支給していますので、他に正社員以外の労働者に通勤手当を支給しない合理的な説明ができないかぎり、不合理な待遇差と評価されるでしょう。
②については、改正前労働契約法第20条に基づく判断となりますが、ハマキョウレックス事件において不合理な待遇差と評価されています。
③は、ガイドラインにおいて問題ない例として挙げられていますので、合理的な待遇差と評価されるでしょう。
3.まとめ
今回は、同一労働同一賃金で問題となる通勤手当の待遇差について、ガイドライン等を基にご説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。

KOMODA LAW OFFICE 弁護士
坂本 志乃 SHINO SAKAMOTO
得意分野は労務、企業法務。
座右の銘は『努力は人を裏切らない』
「信書」の送付に関する法規制について
はじめに
会社、個人を問わず、多くの方にとって、文書の送付は日常的に何気なく行う行為であり、その送付の方法について深く考えたことがある方はあまりおられないのではないでしょうか。
実は、郵便法の規制により、「信書」に当たる文書を送付する場合には、一部の例外を除き、日本郵便株式会社が行う特定の郵便事業を利用しなければならないとされており、荷物を送ることが目的の宅配便等を利用して「信書」を送付することは、郵便法に抵触するおそれがあります。
手紙をはじめ、契約書、請求書、領収書、報告書等、様々な文書を日常的にやり取りをされている方も多いと思われますが、これらは全て「信書」に該当し、法規制の対象となるのか、以下解説します。
1.郵便法等の規制
「信書」とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」をいい、日本郵便株式会社以外の者は、何人も、「信書」の送達(送り届けること。)を業としてはならないとされています(郵便法4条2項)。
また、同項に違反して信書の送達を業とする者あるいは運送営業者等に対し、送り主が「信書」の送達を委託する行為も禁じられています(同条4項)。
そして、物品の宅配業者等の運送営業者については、同条3項で「運送営業者、その代表者又はその代理人その他の従業者は、その運送方法により他人のために信書の送達をしてはならない。」とされる一方、例外的に、「貨物に添付する無封の添え状又は送り状」の送達は許容されています。
なお、民間事業者による信書の送達に関する法律(いわゆる信書便法)に基づき許可を受けた一般信書便事業者又は特定信書便事業者が、許可の範囲で信書の送達をする場合には、郵便法4条2項は適用されず(信書便法3条)、例外的に、日本郵便株式会社以外の者であっても信書の送達が可能とされています(本年2月25日現在、一般信書便事業者は存在しないものの、佐川急便株式会社の「飛脚特定信書便」をはじめ、特定信書便役務を取扱う特定信書便事業者は589者存在します ※1。)。
■総務省ウェブサイト(http://www.soumu.go.jp/yusei/tokutei_g.html)
■佐川急便株式会社ウェブサイト(https://www.sagawa-exp.co.jp/service/h-shinsho/)
より
このように、郵便又は信書便以外の方法により「信書」を送達する行為も、送り主が郵便又は信書便以外の方法による「信書」の送達を委託する行為も、同法により規制されています(郵便法4条3項及び4項)。
これらの法規制に違反した場合、「信書」の発送を委託した者を含め、3年以下の懲役刑又は300万円以下の罰金刑の制裁が定められています(同法76条1項。もっとも、実際に刑事事件としての立件にまで至った例はさほど見当たりません。)。
(郵便の実施)
第二条 郵便の業務は、この法律の定めるところにより、日本郵便株式会社(以下「会社」という。)が行う。
(事業の独占)
第四条 会社以外の者は、何人も、郵便の業務を業とし、また、会社の行う郵便の業務に従事する場合を除いて、郵便の業務に従事してはならない。
ただし、会社が、契約により会社のため郵便の業務の一部を委託することを妨げない。
2 会社(契約により会社から郵便の業務の一部の委託を受けた者を含む。)以外の者は、何人も、他人の信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。以下同じ。)の送達を業としてはならない。
二以上の人又は法人に雇用され、これらの人又は法人の信書の送達を継続して行う者は、他人の信書の送達を業とする者とみなす。
3 運送営業者、その代表者又はその代理人その他の従業者は、その運送方法により他人のために信書の送達をしてはならない。
ただし、貨物に添付する無封の添え状又は送り状は、この限りでない。
4 何人も、第二項の規定に違反して信書の送達を業とする者に信書の送達を委託し、又は前項に掲げる者に信書(同項ただし書に掲げるものを除く。)の送達を委託してはならない。
2.「信書」の範囲
⑴「信書」の定義の意味内容
では、どのような文書が上記の「信書」に当たるのでしょうか。
まず、上記の「信書」の定義を読み解きます。
ア 「信書」の定義における「特定の受取人」とは、差出人がその意思の表示又は事実の通知を受ける者として特に定めた者をいいます。 文書自体に受取人が記載されている場合には、差出人が「特定の受取人」に宛てたことが明らかですが、受取人の記載が無くとも、手紙などのようにその内容から特定の受取人の存在が予定され、その記載が省略されていることが分かる場合には、同時に送付される包装紙部分等に記載された宛名によって受取人が具体的になることから、「特定の受取人」に宛てたものとなります。
イ 「意思を表示し、又は事実を通知する」とは、差出人の考えや思いを表し、又は現実に起こり若しくは存在する事柄等の事実を伝えることをいいます。
一般的に、個人がその意思を表示し、又は事実を通知する文書を特定の受取人に送付する場合は、その文書は信書に該当しますが、同一内容で大量に作成された文書を個々の受取人に対して送付する場合であっても、内容となる文書が特定の受取人に対して意思を表示し、又は事実を通知するものであれば、信書に該当します。
ウ 「文書」とは、文字、記号、符号等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物のことをいいます。文書の記載手段は、筆書に限られず、印章、タイプライター、印刷機、コピー機、プリンター等によるものでもよく、また、文書を記載する素材は、紙のほか木片、プラスチック、ビニール等有体物であればよいとされます。
これに対し、電磁的に記録されたフロッピーディスク、コンパクトディスク等は、そこに記載された情報が、人の知覚によって認識することができないものであって「文書」には当たらないため、これらを送付しても郵便法4条2項により規制される「信書」の送達には該当しません ※2。
⑵「信書」該当性の判断
ア 特定の文書が「信書」に該当するか否かは、文書の大きさや受取人、ある特定の文言や情報の有無等の外形的事実ではなく、文書の記載内容及び送付の目的等からみて「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」といえるか否かという観点から判断されます。
要するに、「信書」に当たるかどうかは、見た目や形式ではなく、文書の内容を重視して判断されることになるため、同様の文書であっても送付の目的等により「信書」に該当する場合としない場合があり得ることになります。
イ 例えば、通知書や報告書を受取人に対し送付する場合、商品の納入者が受取人に対し納品書を送付したり代金の請求書を送付したりする場合、会社が株主に対し、株主総会招集通知を送付する場合、就職応募者が申込先の企業に履歴書を送付する場合、市役所が住民の申請に応じて印鑑証明書を送付する場合は、いずれも「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する」ものといえるため、これらの文書は、通常「信書」に該当すると判断されます。
これに対し、書籍や論文、図面、ポスター、カタログ、家電製品の取扱説明書、約款、求人票、名刺、パスポート、振込用紙等は「特定の受取人」に宛てて送付するものではないため、通常は「信書」には当たらないと考えられます。
また、手形や小切手、乗車券、プリペイドカード、会員カード、ポイントカード等は、使用方法や説明書きが記載されているに過ぎず「差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」とはいえないため、やはり「信書」には当たらないと考えられます。
ウ また、広告物に関しては、ダイレクトメールのように、文書自体に特定の受取人が記載されているか、受取人の記載はなくとも、商品の購入等の利用関係、契約関係等特定の受取人に差し出す趣旨が明らかな文言が記載されている場合には、「信書」に該当する可能性が高いといえます。他方、専ら街頭や店頭における配布あるいは新聞への折り込みを前提として作成されるチラシ、パンフレット又はリーフレットのようなものであれば、特定人の住居の郵便ポストに投函されるとしても、「特定の受取人」に対するものとはいえないため、「信書」には該当しないと考えられます ※3。
エ 更に、通常は「信書」に該当すると考えられる文書であっても、例えば、企業が顧客あるいは就職応募者から提出を受けた印鑑証明書や履歴書を別の部署・支店に郵送したり、顧客あるいは就職応募者に返送したりする場合には「差出人の意思を表示し、又は事実を通知する」とはいえないため、「信書」に当たらないことになるでしょう。
⑶補足
このように、郵便法の規制対象となる「信書」の概念は曖昧で、該当性判断は必ずしも容易ではないにもかかわらず、運送事業者のみならず送り主も刑事罰の対象とされている現状では、文書の送り主が罪に問われるリスクがあるなどとして、ヤマト運輸株式会社は平成27年3月末をもって、それまで広く利用されていた「クロネコメール便」を廃止しました。
なお同社は、文書の内容ではなく外形で「信書」該当性を判断することを提唱しています ※4。
3.まとめ
⑴ 以上述べたところによれば、取引先や顧客に送付する手紙、連絡文書、請求書、契約書等は、いずれも「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」として「信書」に当たり、郵便又は信書便以外の方法で発送することは、郵便法4条4項に違反することとなります。
したがって、上記のような文書は、日本郵便株式会社が提供する郵便事業(定形/定形外郵便、スマートレター、レターパック等)や佐川急便をはじめとする事業者が提供する「信書便」によって送付する必要がありますが、日本郵便株式会社が提供するものであっても、ゆうパックやゆうメール等は書籍や荷物等の物品運送を目的としており、信書を送ることはできないとされていますので注意が必要です。
⑵ もっとも、上記の手紙、連絡文書等を送付する場合であっても、単に保管場所を変更するために他の店舗へ送るに過ぎないようなときは、「意思を表示し、又は事実を通知する」とはいえないため「信書」を送る場合には該当しないと考えられます。
翻って、社内における移動であっても、契約成立の事実や代金未収の事実を他の店舗や部署に伝えるために送付するときは、やはり「意思を表示し、又は事実を通知する」ものとして「信書」に該当するものと考えられます。
⑶ なお、「信書」に該当するものであっても、「貨物に添付する無封の添え状又は送り状」であれば、(郵便や信書便事業を取り扱うことができない)運送営業者が送達することが可能とされていますので(郵便法4条3項ただし書き)、物品の運送に伴い、封をしていない納品書や送付状等を荷物の中に同封し、運送営業者に送ってもらうことは、例外的に許容されます。

KOMODA LAW OFFICE
弁護士 久富 達也 TATSUYA HISATOMI
座右の銘は「不知為不知。是知也。」(知らざるを知らずと為す。これ知るなり。出展:論語・為政)
ビジネスモデルに関する特許の取得可能性
はじめに
ICT(情報通信技術)を用いるなどして、商品の販売や事業活動の促進等に寄与するビジネスモデル(ビジネス方法)を考案、構築し、事業活動上の成果を挙げている場合、考案者としては、当該ビジネスモデルを同業他社等に模倣、利用されることを防止し、当該ビジネスモデルによって得られるであろう利益の独占を欲することが考えられます。
もっとも、一定のビジネスモデルを考案したとしても、それ自体が特許として認められることは無いとされます。
すなわち、以下、ビジネスモデルの実施に当たり、いかなる条件が整えば、特許取得の可能性があるか、概観します。
1.特許取得の要件
特許法上の特許を取得するには、「発明」(特許法2条1項。「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」。)に該当することを前提として、当該発明につき産業上の利用可能性があること(同法29条1項柱書)、特許出願前に公然となっていないこと(同項各号。新規性)、容易に発明できないこと(同条2項。進歩性)、先に出願されていないこと(同法29条の2。先願性)、公序良俗等に反しないこと(同法32条)を要します。
これらの要件に該当しなければ、特許取得の前提を欠くこととなります。
2.「発明」該当性
(1)ビジネスモデルに関し、最も問題となり得るのは、「発明」に該当するか否か、という点です。
すなわち、ビジネスモデルの考案それ自体が特許の対象となるわけではなく、「ビジネス関連発明」といい得るものでなければならないのです。
(2)特許法2条1項の規定する「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいいます。
ここで、「自然法則」とは、自然界において一定の原因によって一定の結果をもたらす科学的な法則を意味し、判例上も、自然力を利用した手段を施していない考案は発明に該当しないものとされています(最判昭和28年4月30日)。
また、「特許・実用新案審査基準」(以下、審査基準という)第Ⅱ部第1章1.1によれば、「自然法則を利用」していない創作とは「自然法則以外の法則(例えば、経済法則)、人為的な取決め(例えば、ゲームのルールそれ自体)、数学上の公式、人間の精神活動に当たるとき、あるいはこれらのみを利用している」ものをいうとされています。
そうすると、自然力を利用した科学的な法則によらず、人為的な方法論に止まるようなビジネスモデルは、「発明」には当たらないこととなります。
この点で、一定の営業方法や業務効率化の方法等を構想したとしても、それ自体が特許として認められることは無いものといわざるを得ないです。
(3)もっとも、あるビジネスモデルが、コンピュータ、ネットワークその他の自然法則に基づいて成立した装置を不可分の要素として用いること等により、全体として自然法則を利用しているものといえる場合には、「発明」に該当する余地があります(例えば、コンピュータソフトウェアを用いた商品の売上予測プログラム等)。
それゆえ、特定のビジネスモデルが、単にパーソナルコンピュータ等の機器を用いて情報の検索、入力、出力等を行うことが可能であるというに止まらず、ネットワークからの情報収集やコンピュータを用いた分析、演算処理を不可欠の要素として介在させるものであれば、「発明」に該当する余地があると思われます。
3.その他の主な要件
(1)進歩性
上記「発明」に該当したとしても、公知の技術に基づいて、その分野の一般の専門家(当業者といいます)が容易に発明することができたといえるようなものであれば、特許取得は認められません。
そのため、既存の技術やシステムからは容易には考案できないとか、「発明」を利用した際の効果の面で、既存のものよりも有利であるといった事情が必要となります。
(2)新規性
特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明(特許法29条1項2号)は、特許の要件を充たさないところ、考案し、実施しているビジネスモデルが、既にインターネット等で広く公開されており、公開された内容どおりの手法で使用されているものであれば、「公然実施をされ」たものとして、特許の要件を充たさないものと考えられます。
そのため、自ら考案したビジネスモデルを実施するに当たって、特許取得を考えているのであれば、インターネットや書籍等で公開することは控えるのが賢明であると思われます。
4.実例
各テーブルに番号を付し、札によって区別するとともに、肉の計量とシール出力が可能な計量機を導入して、当該シールを出来上がった料理に配するというシステムにより、個々の来客の注文を従業員が混同するのを防ぎ、業務の円滑化と上記セールスポイントの実現に繋げているわけです。
このようなステーキの販売、提供システムは、ビジネス関連発明と認められ、特許取得に至っています。
5.おわりに
以上のとおり、ビジネスモデルを考案し、実施する上で特許取得を企図するのであれば、何らかの「自然法則」を利用した技術的創作である必要がありますが、ICTを不可欠のものとして利用しているような場合も「自然法則」を利用する場合に該当します。
したがって、ICT利用の促進と相まって、それをシステム内に組み込んだ革新的なビジネスモデルを考案すれば、特許を取得し、当該モデルを自社で独占的に利用することも可能となる余地があります。
菰田総合法律事務所では企業法務に関する法律相談も承っております。
ぜひお問い合わせください。

KOMODA LAW OFFICE
弁護士 久富 達也 TATSUYA HISATOMI
座右の銘は「不知為不知。是知也。」(知らざるを知らずと為す。これ知るなり。出展:論語・為政)
『同一労働同一賃金』とは?①
はじめに
「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、「パート・有期雇用労働法」といいます。)が2020年4月に施行され、いわゆる「同一労働同一賃金」がスタートしました。
中小企業については2021年4月から施行されましたので、全企業を対象に同制度がスタートしてもうすぐ1年になります。
最高裁判所も同制度施行前の労働契約法旧第20条に関する関する判断を相次いで示し、ニュースで取り上げられる等して注目が集まりました。
もっとも、「同一労働同一賃金という言葉は聞くし、対応が必要とは分かっているが結局よく分からずに対応できていない」といった事業者様も多いのではないでしょうか。
そこで、今回から複数回にわたって「同一労働同一賃金」制度についてご説明させて頂きます。
1.同一労働同一賃金の概要
「同一労働同一賃金」とは、厚生労働省によれば「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。
2.パート・有期雇用労働法(均等待遇・均衡待遇)について
この点について、パート・有期雇用労働法第8条では、以下のとおり、短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与等の待遇について、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けてはならないことを定めています。
第8条
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
更に、同法第9条では、以下のとおり通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者について、基本給、賞与等の待遇について、差別的取扱いをしてはならないことを定めています。
第9条
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。
このように、パート・有期雇用労働法第8条では「均衡待遇」を、同法第9条では「均等待遇」を定めています。
「均衡待遇」とは、簡単に申し上げると「前提事情が異なる場合にはその違いに応じた取扱いをすべき」というものです。
例えば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の業務内容や責任の範囲が異なるのであれば、それの違いに応じて基本給等を支給する必要があります。
これに対し「均等待遇」とは、「前提事情が同一の場合には同じ扱いをすべき」というものです。
そのため、例えば職務の内容や責任の程度、配置転換の範囲等が正規雇用労働者と非正規雇用労働者と全く同一そのためあれば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金等の条件が同一である必要があります。
3.同一労働同一賃金ガイドライン
同一労働同一賃金の概要は以上のとおりですが、実際に正規雇用労働者と非正規雇用労働者に生じている待遇差について、どのような場合に不合理な待遇差となるのでしょうか。
この点、厚生労働省は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差が存在する場合の原則的な考え方を「同一労働同一賃金ガイドライン」で示しています。
同ガイドラインでは、典型的な事例として考えられるものについては「問題となる場合」と「問題とならない場合」を具体例として挙げています。
同ガイドラインは厚生労働省告示そのため、直ちに法的拘束力を有するものではありませんが、裁判所が判断を示すに際に参考にすることが想定されます。
したがって、パート・有期雇用労働法第8条、第9条の判断の一つの指標として同ガイドラインも参照しながら、法改正に対応していくことが肝要かと思われます。
4.まとめ
今回は、同一労働同一賃金制度の概要についてご説明させて頂きました。
次回からは、同ガイドラインを基に、基本給、その他の労働条件の待遇差について検討していきたいと思います。

KOMODA LAW OFFICE 弁護士
坂本 志乃 SHINO SAKAMOTO
得意分野は労務、企業法務。
座右の銘は『努力は人を裏切らない』
管理監督者って何?
はじめに
皆さんは「管理監督者」という言葉をご存知でしょうか。
「管理」という響きから「管理監督者」=「管理職」と思われる方や、他方で「名ばかり管理職」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、「管理監督者」について詳しく説明させて頂きます。
1.管理監督者とは
労働基準法41条第2号では、「監督若しくは管理の地位にある者」については、労働時間、休憩及び休日に関する労働基準法の適用が除外されています。
この「監督若しくは管理の地位にある者」とは、いわゆる「管理監督者」のことを指します。
したがって、「管理監督者」に該当する場合は、労働時間、休息及び休日に関する労働基準法の規制の適用が除外されるため、時間外労働、法定休日労働に対する割増賃金の支払いが不要となります(なお、深夜労働に対する割増賃金の支払いは「管理監督者」に該当する場合でも必要です)。
2.管理監督者の要件
労働基準法上の「管理監督者」に当たる場合、割増賃金の支払いが不要であることは分かりました。
それでは、課長、部長、店長等の会社内で管理職としての地位にある人は「管理監督者」に該当し、割増賃金の支払いが不要になるのでしょうか。
労働基準法の「管理監督者」に該当するかは、職務の内容、権限、責任、勤務態度等の実態に基づいて判断するとされており、名称のみで判断されることはありません。
具体的には、以下の3点を総合考慮して判断することになります。
②現実の勤怠態様も、労働時間等の規制になじまないものであること
③賃金等について地位にふさわしい待遇であること
各要件を詳しく見ていきますが、まず、①の要件である「重要な職務内容、責任と権限を有していること」とは、労働条件の決定その他の労務管理、会社の経営方針に関して経営者と一体的な立場にあり、裁量と権限を有していることが必要です。
そのため、例えば従業員の採用の人選の権限は有しているが、最終的な決定権限や労働条件の決定権限が付与されていない場合だと、管理監督者性が否定されやすいでしょう。
次に、②については、労働時間について自らの裁量で自由に決定できることが重要になります。
管理監督者であれば、経営上の判断や対応を迫られる場合があるため、労務管理においても一般の従業員とは異なる立場にある必要があると考えられています。
したがって、例えば始業・終業時間が通常の従業員と同一に統一されている場合だと、労働時間に関する裁量が認められないため、管理監督者性が否定されやすいでしょう。
最後に、③については、管理監督者には深夜時間に対する割増賃金以外の割増賃金が支払われないことに見合うだけの相応の待遇がなされている必要があります。
例えば、賃金総額が一般の従業員の賃金総額を同程度以下である場合や、時給単価に換算した賃金額がアルバイト、パート等の時給に満たず、かつ最低賃金にも満たない場合は、労働監督者性が否定される可能性が高いでしょう。
3.名ばかり管理職に注意が必要
以上のとおり、「管理監督者」として認められるためには、経営者と一体的な立場、それに近接する実態が必要となります。
この「管理監督者」に注目が集まったのは、小売業や飲食業等で多店舗展開をしている会社において、正社員である店長等を労働基準法の「管理監督者」として運用していたところ、店長等に会社に対して未払割増賃金請求訴訟を提起したことがきっかけです。
訴訟では店長が「管理監督者」に該当するかが争点になりましたが、店長の具体的な勤務実態から管理監督者性は否定され、「名ばかり管理職」として大きな問題となりました。
管理監督者性の判断はあくまでも個別具体的な判断になりますが、以上を踏まえても安易な運用は避けるべきと思われます。
4.まとめ
今回は、労働基準法の「管理監督者」についてご説明致しました。
管理職と言われる従業員を一律に「管理監督者」として扱っていると、いきなり未払割増賃金の請求を受ける可能性があります。
会社の運用が適切であるか、一度労務管理に強い弁護士にご相談されることをお勧め致します。

KOMODA LAW OFFICE 弁護士
坂本 志乃 SHINO SAKAMOTO
得意分野は労務、企業法務。
座右の銘は『努力は人を裏切らない』
差押えを受けた賃貸物件の買入れに関するリスク
問題事例
ただ、よくよく話を聞いてみると、どうやら本物件のオーナーは多額の借入金債務を抱えており、しばしば滞納もしているため、本物件を含む財産が差押えを受けるのではないかといった情報もあるようです。
なお、オーナーは、本物件の売買契約に当たり、現在オーナーが賃借人らから預かっている敷金を私が引き継ぎ、賃借人退去時の敷金の返還も私が行うとの条件で、本物件の売買に応じる意向を示しています。
以上のような前提の下では、本物件を買い受けるとともに、敷金を当社が引き継いだ場合、オーナーの債権者らから資産隠しであるなどと主張され、不動産所有権の取得を否定されることはないでしょうか。
2 また、本物件は、賃貸物件としては非常に優良で多額の賃料収入が見込めるため、私としては、仮にオーナーの債権者が本物件の差押えをしてきた場合でも、オーナーから安価で買い受けた上、差押債権者と交渉し、任意売却を受けるといったことも考えています。
ただその場合に、引き継いだ敷金をオーナーの債権者と退去する賃借人の双方に二重に支払わなければならなくなったりする(→後記回答の2に記載)といった懸念は無いでしょうか。
回答
1.相当価格での不動産処分と詐害行為取消権
(1)債務者が、所有する財産を譲渡すると債権者への弁済ができなくなるおそれがあること等を認識しながら、敢えて当該財産の譲渡を行ったような場合には、当該行為は債権者を害する行為(債権者への弁済を不可能又は困難にさせるような行為。 詐害行為。)であるとして、債権者はその取消しを裁判所に求めることができます(詐害行為取消権。民法424条以下 ※1 )。
この取消しが認められれば、贈与、売買等の財産譲渡行為はなかったことにされ、受贈者や買主は、取得していたはずの権利を失ったり、あるいは取得した財産に相当する額の金銭を別途支払う義務を負ったりすることもあり得ます。
※1 なお、同様の制度は破産法160条以下、民事再生法127条以下にも存するが(否認権)今回は割愛する。
例えば、3人の債権者から300万円ずつ合計900万円の借金をしているが、500万円の不動産(抵当権の設定はされていないものとします。)と100万円の現預金しか有していないという人が、500万円の不動産を第三者に贈与(無償で譲ること。)したり、市場価格よりも大幅に安い100万円で第三者に売却したりした場合には、残った現預金等で900万円の借金を返すことは到底できませんから、上記のような贈与又は売買は、詐害行為として取り消される可能性が高いと考えられます。
(2)では、債務者が、所有する不動産を不当に安価で売るのではなく、相当な価格で売却する場合はどうでしょうか。
このような場合は、売買取引自体は適正なものといえるため、原則としては、他人である債権者が介入することはできません。
しかし、不動産が金銭に替えられれば、容易に消費したり処分したりすることができるようになりますし、財産隠しの目的で、適正な価格での売買を行う人も中には居ると考えられますから、民法424条の2は、以下の各号のいずれの要件も満たす場合に限り、売買取引が詐害行為であるとして取り消すことを認めています。
② 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと(隠匿等処分意思)。
③ 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
上記の点から考えると、質問者様が単にオーナーから市場価格で不動産を購入しただけでは、その売買契約が取り消される可能性は低いといえます。
しかし、市場価格での売買であっても、不動産が金銭に変ずることによって処分が容易になるため、これによって隠匿等の処分をするおそれが生じるといえる場合はあり得ます(①)。
そして、例えばオーナーが質問者様から受領した売買代金を持ち逃げしたり隠し口座に預けたりするなどして債権者の追及を逃れようと考えており(②)、質問者様も上記のようなオーナーの意思を知っていた(③)というような場合には、たとえ売買代金額が適正な市場価格であったとしても、債権者から提訴されれば詐害行為として取り消されるおそれがあります。
また、売買代金額が市場価格よりも著しく低いというような場合には、オーナーの内心の意思について全く認識していなかったとしても、売買契約が取り消される可能性が高いと考えられます。
(4)以上のことから、オーナーの財産状態が著しく悪化しているといった事情があれば、そのような状況下での買取りには上記のようなリスクが伴うものと考えられますので、オーナーの財産状況を慎重に見極める必要があるでしょう。
2.敷金に関する権利義務の承継
次に、本物件の賃借人が預託している敷金についてお答えします。
(1)建物賃借人が対抗要件を具備(引渡し(借地借家法31条)等。)した後に、旧所有者たる賃貸人が当該建物を新所有者に譲渡した場合、特段の事情が無い限り、旧所有者の賃貸人たる地位は、賃借人の承諾が無くとも当然に新所有者へ移転し(大審院大正10年5月30日判決、最高裁判所平成11年3月25日判決)、これに伴い、賃借人から交付されていた敷金に関しても、「旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料等があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される」(最高裁昭和44年7月17日判決、前掲最高裁判所平成11年3月25日判決)とされています。
このため、賃借人から敷金の預託を受け、賃貸借終了時に返還する義務を負うという旧賃貸人=旧所有者の権利義務も新所有者に移転することとなります。
賃貸建物の譲渡時点で、賃借人の旧所有者に対する未払賃料があれば、その部分は敷金から控除されることとなりますが、当該部分を除いた残額は、全て新所有者に承継され、譲渡時点で未払賃料がなければ、敷金の全額が新賃貸人に承継されることとなります。
(2)したがって、質問者様は、売買契約に基づく本物件の所有権移転に伴い、売主(旧所有者・賃貸人)が賃借人から預託を受けた敷金に関する権利義務を承継することとなるため、これにより預託された敷金を正当に保持し得るものと考えられます。
売主の債権者等から民法424条以下の詐害行為取消権等を行使されて建物の売買契約自体が取り消されたような場合は別として、そうでなければ、何らかの法的請求を受けて敷金の承継のみが取り消され、質問者様が敷金相当額の二重払いを強いられるおそれは低いと判断されます。
まとめ
以上のように、物件の買受け、買取りに潜むリスクを把握したり、実際に買い受けた後にトラブルとなってしまった場合の対応を行ったりすることができるのも、弁護士の経験ならではですので、似たようなお悩みをお持ちの方は、是非一度当事務所へご相談にお越しいただければと思います。

KOMODA LAW OFFICE
弁護士 久富 達也 TATSUYA HISATOMI
座右の銘は「不知為不知。是知也。」(知らざるを知らずと為す。これ知るなり。出展:論語・為政)