Komoda Law Office News

2023.07.07

【2024年4月】改善基準告示の改正(トラック運転者)②

2024年4月1日より、これまで時間外労働の上限規制の適用が猶予されていた労働者に対して、時間外労働の上限規制が適用されることとなります。
トラック運転者は、現在時間外労働の上限規制の適用が猶予されていますが、同日以降、時間外労働の上限規制の適用を受けます。
これに合わせ、トラック運転者に適用されている「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下「改善基準告示」といいます。)も、2024年4月1日より改正されます。

前回は、現行の改善基準告示の概要を簡単に説明しましたので、今回は、トラック運転者の改善基準告示の改正内容について、概要をお話したいと思います。

前回の記事はこちらから:【2024年4月】改善基準告示の改正(トラック運転者)①

1.改正ルール(概要)

では、改正後のルールについて確認したいと思います。
なお、以下で確認するルールにはそれぞれ例外・特則がありますが、今回は概要の確認に留めさせていただきます。

⑴拘束時間 拘束時間は、最初にお話しした時間外労働の上限規制の適用に伴い、1日の拘束時間の限度・1か月の拘束時間・1年間の拘束時間共に減少しています。
具体的には、以下のとおりです。

①1日の拘束時間は13時間以内が原則、最大15時間が限度
②1日14時間を超える拘束時間は1週間2回が目安
③月の拘束時間は284時間が限度、年間の拘束時間は3,300時間が限度

※拘束時間の延長に関する労使協定の締結により、「1年のうち6か月まで、1年間の総拘束時間が3,400時間を超えない範囲であれば1月の拘束時間を310時間」まで延長可能です。
※1か月の拘束時間が284時間を超える月は連続3か月までです。

【2024年4月】改善基準告示の改正(トラック運転者)②

なお、トラック運転者は、2024年4月以降も、時間外労働規制のうち「時間外・休日労働の合計時間数が月100時間未満であること」については適用が除外されているのですが、改善基準告示では、「1か月の時間外労働及び休日労働の合計時間数が100時間未満となるよう努める必要がある」とされていますので、念のため注意が必要です。

⑵休息時間 休息時間についても、時間外労働を抑制するという観点から、現行ルールの8時間から休息時間数が増加しています。

①継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らない

⑶運転時間 運転時間については、大幅な改正は見られないのですが、運転時の休憩の取得について変更があります。

①運転開始後4時間以内又は4時間経過直後に、30分以上の休憩が必要
②分割1回がおおむね連続10分以上として合計30分以上の分割取得も可能
③10分未満の運転の中断は、3回以上連続できない

このうち、②でいう「おおむね10分以上」とは、改善基準告示によれば、運転の中断は原則10分以上とする趣旨であり、上記③の場合には②に該当しないことを表しているようです。

2.まとめ

前回から2回に分けて、改善基準告示の改正について説明させていただきました。
運送業界では、従前から時間外労働の上限規制の適用と併せて「2024年問題」として取り上げられており、運送業を営む事業者においては、輸配送効率の向上、輸配送形態の変更、人員の確保、これに関連して労働条件の見直し等といった対応に迫られます。
「2024年問題」への対応に苦慮している事業者様は、ぜひ一度専門家に相談されることをお勧めいたします。

 

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2023.07.04

【2024年4月】改善基準告示の改正(トラック運転者)①

2024年4月1日より、これまで時間外労働の上限規制の適用が猶予されていた労働者に対して、時間外労働の上限規制が適用されることとなります。
トラック運転者は、現在時間外労働の上限規制の適用が猶予されていますが、同日以降、時間外労働の上限規制の適用を受けます。
これに合わせ、トラック運転者に適用されている「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下「改善基準告示」といいます。)も、2024年4月1日より改正されます。

そこで、今回から2回にわけて、トラック運転者の改善基準告示の改正内容について、概要をお話したいと思います。

  改善基準告示の改正(トラック運転者)①  

1.用語について

最初に、改善基準告示で用いる用語について簡単に説明します。

⑴拘束時間 拘束時間とは、労働時間(作業時間・手待ち時間等)と休憩時間(仮眠時間を含む。)の合計時間、つまり、始業時刻から終業時刻までの使用者に拘束される全ての時間をいいます。
したがって、運転手以外の労働者は、基本的に「労働時間」と「休憩時間」で管理されるのに対し、運転手は、「労働時間」「休憩時間」とは別に両者を合わせた「拘束時間」で管理されることになります。

⑵休息時間 休息時間とは、使用者の拘束を受けない期間であり、勤務と次の勤務との間にあって、休息期間の直前の拘束時間における疲労の回復を図るとともに、睡眠時間を含む労働者の生活時間として、その処分が労働者の全く自由な判断に委ねられる時間をいいます。
勤務間インターバルのようなものと考えていただいてもいいかと思います。

⑶休日 休日は、休息時間に24時間を加算して得た、連続した時間をいいます。
通常、「休日」とは暦日、つまり0時から24時までの連続した24時間を単位として付与する必要があるのですが、運転者の場合、その業務の特殊性から暦日を単位として休日を付与することが困難と考えられるため、改善基準告示にて、上記の取扱いとなっています。

2.現行ルール(概要)の確認

以上を前提に、まずは現行ルールの確認です。 一部例外もありますが、拘束時間、休息時間に関する現行のルールの概要は、以下のとおりです。

①1日の拘束時間は13時間以内が原則、最大16時間が限度
②1日15時間を超える拘束時間は1週間2回が限度
③休息時間は継続して8時間以上確保が必要
④月の拘束時間は293時間が限度

※拘束時間の延長に関する労使協定を締結すれば「1年のうち6回、1年間の拘束時間が3516時間を超えない範囲であれば1月の拘束時間を320時間」まで延長可能です。

次に、運転時間に関する現行ルールの概要は以下のとおりです。
こちらも例外がありますが、今回は割愛させていただきます。

①2日平均で1日9時間が限度
②2週間平均で1週間44時間が限度
③連続運転時間は4時間が限度。直後に30分以上の休憩の確保が必要

3.まとめ

今回は、改善基準告示の改正に合わせて、まずは現行の改善基準告示の概要について説明させていただきました。
次回は、今回説明した内容を前提に、改善基準告示の改正内容について、簡単ではありますが説明させていただく予定です。
現行のルールと、改正内容を比較してもらえたらと思います。

次回の記事はこちらから:【2024年4月】改善基準告示の改正(トラック運転者)②

 

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2023.06.27

司法試験の新たな挑戦!パソコン受験時代の幕開け

皆さん、こんにちは。
今回は、司法試験に関する注目すべき変化についてお話ししたいと思います。
最近の報道によると、ついに司法試験がパソコンで受験可能になるとのことです。

2026年からの導入が予定されており、これにより受験者は従来の手書きに代わり、キーボードを駆使して試験に臨むことになります。
しかし、この変化には様々な懸念点や議論があります。
そこで今回は、新たな受験形態に伴うメリットや課題について考えていきましょう。
(とはいっても、ニュースを見た私個人の主観的文章でしかないので、軽く読んでもらえると助かります。。。)
さっそく詳しく見ていきましょう!

1.司法試験がパソコンで受験できるようになる!

司法試験がパソコンで受験できるようになるそうです。
2026年から導入される予定です。
受験は2026年の7月から開始されると思われます。
これまでは筆記試験であり、最大で64ページ、およそ4万字の論文試験がありました。
実際にそれくらい書かなければならなかったと思います。
さて、この法務省の制度変更、今のロースクール生は喜ぶんですかね?困るんですかね?

2.従来の司法試験は?

この司法試験の課題の一つは、文字を書く速度と疲労です。
手の筋肉が疲れ、筆圧が下がってしまいます。
その問題に対処するため、試験の半年前くらいから、筆圧があまり必要ない万年筆で文字を書く練習をしていました。
私が司法試験を受けたのは、もう12年ほど前の話ですので、かなり懐かしい話ですが、時代が変わったなとしみじみ思います。
良い変化だと思います。

次に、答案の印象には読みやすさもかなり影響すると思います。
司法試験の点数の内訳ははっきりとはわかっていませんが、読みやすさは重要な要素だと思います。
膨大なページ数や文字数の答案を読むときには、読みやすさは非常に重要ですし、読みやすさだけでなく論理構造も重要です。
読みやすくて、頭に入ってきて最初から最後まで一気に読めるような論理構造になっていると、点数にも影響すると思います。
その意味で、文字の綺麗さや文字を書くスピードなどに左右されないパソコンは、良い決断だと思います。
裁判所がIT裁判を導入し始めている現状では、試験だけが手書きというのはおかしな話で、当然の変更だと思います。

3.パソコン受験(CBT方式)の懸念点

今回はCBT方式というものが導入されるそうです。
CBT方式はコンピュータを利用して実施する試験方式で、他の民間試験や国家試験でもよく使われています。
私も生命保険の募集人資格試験などで、会場に行ってパソコンで受けました。
ただ、キーボードには注意が必要です。
ノートパソコン用のキーボードやデスクトップ用のキーボードなど、さまざまなタイプがありますので、試験で使われるタイプに慣れるためには、そのキーボードを使って答案の練習をしたり、日常的に使って慣れる必要があるでしょう。

また、答案構成も課題の一つです。
司法試験では、1科目あたり8ページ(8枚)の用紙が与えられ、書き始めますが、実際にそれだけの分量を書く必要があります。
問題を考え、最初から最後までの論理構造を決め、しっかりと構成を作り、そこに基づいて一気に書き始めることが本来のやり方です。
しかし、答案構成を考えずに書き始めて途中で収拾がつかなくなる人も多いものです。
パソコンだと消去が簡単ですし、とりあえず書き始めることができるため、構成を重視しないで書かれる答案が増えるのではないかと思います。
また、文章量もわからなくなってしまうかもしれません。
64枚で4万字なので、その8分の1で1科目あたり5000字ほどになります。

したがって、5000字ほどをワードで書こうと思うと、5〜6ページになるでしょう。
集中して書けば、一気に書ける量です。
しかし、構成を考えずに一気に書き始めると、分量が無駄に多くなる可能性があります。
必要最低限の答案で要件事実に基づいているものが少なくなるかもしれません。
そこは実力の差が出るポイントだと思います。
手書きであれば修正ができないため、慎重に構成を考えて練り込むことが防波堤となっていましたが、それがなくなると少し心配ですね。

しかし、いずれにせよ、時代の流れに合った良い決断だと思います。
他の国家試験と比較すると文字数が以上に多く、受験日数も長いため、司法試験の受験経験がない人に話すと本当に驚かれるものです。
そのため、この変更は必要な措置だったと思います。

司法試験の新たな挑戦!パソコン受験時代の幕開け

ただし、問題は実務に沿っているかという点です。
報道によると、法務省は実務に沿ってパソコンを使うべきだという結論を出しているようですが、キーボードを打つ必要があるかという点が問われます。
私も現在、このブログをキーボードで打って書いているのではありません。
音声入力で書いています。
最後に文字を読み返し、修正することはありますが、日々の作業のうち、約80%は音声入力です。
移動中にスマートフォンに向かって話す時間の方が圧倒的に多いです。
そうなると、キーボードを打つということ自体が実務に沿っているとは言えないのかもしれません。

とは言え、最終的に大切なのは、適切に答案を書けることであり、パソコンであろうと手書きであろうと、採点者にとって読みやすく提出できれば良いと思います。
手書きかパソコンかの選択肢があると良いのですが、若者の中にはキーボードを打つことが苦手な人も多いでしょう。
最近は、キーボード入力を日常で使わないので、スマートフォンのフリック入力の方が圧倒的に速いという人が多いです。
普段からパソコンではなくiPadでフリック入力を使って文章を書いている若者も多いはずです。
そうなると、キーボードを打つこと自体が日常的ではないため、少し心配ですね。

その他にも、2026年からはオンライン出願や受験料のキャッシュレス納付が始まるそうです。
これまでは願書をしっかり書いて収入印紙を貼って提出する必要がありましたが、これは非常に良い変化だと思います。
事務処理が紙媒体だと大変ですし、今回の変更は良いことだと思います。

4.まとめ

今回のブログはあまり重要な内容ではありませんでしたが、ニュースを見て懐かしく思い、少し書いてみました。
司法試験の受験者数も減ってきており、ロースクールも減少していますが、弁護士、裁判官、検察官といった職業は、一般的な職業とは異なる社会の裏側や社会の構造、ビジネスの構造など、様々な要素を垣間見ることができる職業です。
人気が以前ほどではありませんが、それでも面白さがあると思います。
私自身も自由業という点で性に合っていますし、法曹は人の人生に直接関わる仕事であり、人を幸せにすることも不幸にすることもできる仕事です。
人の人生や依頼者の人生が私たちの一挙手一投足で変わってしまうため、非常に重い責任がありますが、それだけに社会に貢献できる職業だと思います。

こんなニュースでも興味を持ってこの業界に進もうとする人が増えることを願っています。
当事務所では、法曹、ロースクール生、まだロースクールに入っていない人など、どんな人でも事務所見学に対応しています。
当事務所が情報を発信することが弁護士業界に刺激を与え、良い方向に進む一助となれれば幸いです。

 

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2022.12.06

【多発中】若者もターゲットに!虚偽の投資話の詐欺

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

昨今、様々な詐欺事件が増えていますが、具体的にどのような詐欺があり、その対処法、そして実際に警察がどこまで対応してくれるのか等について、今回解説いたします。

1.現在、多発している詐欺

まず、現在多発している詐欺としては、以下の3つが代表的なものです。

①有名な振り込め詐欺
②直接自宅に銀行員を装ってやって来て、キャッシュカードが不正利用されていて使えなくなるので交換する必要がある等と言って、キャッシュカードを受領するとともに暗証番号を聞いてATMでお金を引き出す詐欺
③虚偽の投資話を行って元本保証で倍にして返す等といってお金を騙し取る詐欺

このうち、①②の詐欺は判断能力が低下した高齢者をメインターゲットとして行われます。
③の詐欺は若い人もターゲットとされるケースが最近増えてきています。
今回は、この③の詐欺に主眼を置いて解説します。

2.虚偽の投資話の詐欺

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元本保証で倍にして返す等の投資話でお金を騙し取る詐欺は、なかなか警察が動かないケースが多いです。
なぜなら、詐欺罪で立件するためには、お金を受領した時点で返す意思がないことを立証をしなければなりません。
そのために、まずは投資内容が虚偽であることを立証する必要があります。

その上、「受領したお金をすぐに他の借入に返済する」等、明らかに返す意思がある、矛盾する言動がない本人の弁解がある場合、その弁解次第では詐欺罪での立証がかなり難しくなります。
そうすると警察もなかなか動いてくれないのが実情です。
実際に、詐欺罪ではなく出資法違反での逮捕・起訴となるケースが多いです。

そのため、決定的な証拠がない限り、弁護士なしでは警察が動くことは殆どありません。
また、弁護士に依頼したとしても、弁護士の指示のもとある程度の証拠収集を自分達で行わなければなりません。
弁護士からは、警察に対して事件化して捜査を進めるように強く求めるとともに、弁護士と警察が連携して不足証拠を収集していき、逮捕・起訴まで持って行く必要があります。

なお、刑事事件化する過程で詐欺者から示談を持ち掛けられ、お金の返還を受けられるケースもあります。
警察に相談する際に、詐欺者本人を処罰して欲しいという思いよりもお金を返還して欲しいという思いが強いと、警察よりまずは民事事件で進めるように強く促されるケースが多くありますので、その点はご留意いただければと思います。

弁護士としてご相談を受ける際、A『投資したけども騙された』という上記のような詐欺のケース、B『お金を貸したけども帰ってこないので詐欺で訴えたい』というケースが多いです。
Aでも立証が難しい状況ですので、Bであればなおさら詐欺で訴えることは極めて難しいということになります。

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少しでも返済がされていた場合は、返済する意思がなかったという立証に重大な支障をきたすため、Bは詐欺での立件はほぼ不可能です。Aの場合でも立件は、かなり難しい状況となります。

そのため、出資をする際の防衛策としては、以下のことが重要となります。

・出資契約書等を締結する場合にどのような内容の投資なのか明確に記載する
・返済口座を敢えて契約書に記載せずに、出資者の指定する口座に支払うという内容に留めておく
・先方とのやりとりをLINE等で残すか口頭でも録音しておく

もう既に出資してしまっている場合は、証拠がすべてですので、以下のような対策が必要となります。

・具体的な投資内容のやりとりを出来る限りLINE等の文字として残す
・事後的でも未だ騙されている振りをして、電話を掛けてその会話内容を録音して証拠化する

3.まとめ

以上のとおり、昨今様々な詐欺事件が多発している中、特に投資詐欺の場合の対処法等について解説させていただきました。
投資詐欺を立件化するためにはかなりハードルが高く、弁護士と警察が連携して立件のために動く必要性が高いケースが多いため、投資詐欺に詳しい弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。
投資詐欺等でお困りの方は、弁護士法人菰田総合法律事務所までご相談ください。

 

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2022.11.22

【2022年10月1日施行】インターネットでの誹謗中傷等対策~プロバイダ責任制限法~

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

インターネット上の誹謗中傷等による権利侵害に対する被害者救済をより促進するため、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)の一部がが改正され、2022年10月1日に施行されました。
今回は、改正前にどのような問題があり、改正によりそれがどのように解決したのか等について、解説いたします。

1.プロバイダ責任制限法の改正前

【2022年10月1日施行】インターネットでの誹謗中傷等対策~プロバイダ責任制限法~

これまで、twitter等のSNS上で誹謗中傷に遭った場合に、発信者(投稿者)を特定するためには、その発信者のIPアドレスを特定したうえで、インターネット・サービス・プロバイダ(インターネットへの接続を仲介する業者。以下、「通信事業者」といいます。)が保有するそのIPアドレスと紐づく発信者情報を開示してもらう必要がありました。

その際、IPアドレス等を保有するコンテンツプロバイダ事業者(SNS、ブログ、掲示板、ホープページ等の事業者)又はサーバ会社(以下、コンテンツプロバイダ事業者とサーバ会社を併せて「コンテンツ事業者」といいます。)は、通常3ヵ月でそのデータを削除していることや任意でその開示に応じるケースが殆どないため、被害を受けた方は、コンテンツ事業者に対して、早急にIPアドレス等の開示請求の仮処分申立てを行って、IPアドレスの開示を受ける必要がありました。

そして、開示を受けたIPアドレスをもって、通信事業者に発信者情報の開示請求訴訟を提起し、開示を受けるという流れとなりますので、特定まで4ヶ月~7ヶ月程度かかり、海外の会社が経営しているコンテンツ事業者ですと1年以上かかることもあり、権利救済にかなりの時間が掛かっておりました。

2.プロバイダ責任制限法はどのように改正されたのか

今回の法改正では、簡潔にいいますと、これまで2回必要であった裁判手続きが1回の手続きで可能となりました。

具体的には、これまでのように、1つの裁判手続き(IPアドレス等の開示請求の仮処分申立て)が終わってからでないと次の裁判手続き(通信事業者に対する開示請求訴訟)に進むことが出来ず、2つの手続きを経てようやく発信者の情報が開示されるという手間がなくなり、複数の手続きを同時に申し立てることが出来るようになったことになります。


詳細にご説明しますと、裁判所に対して、コンテンツ事業者に対するIPアドレス等の開示請求の仮処分申立てを行うと同時に、コンテンツ事業者が保有する通信事業者の情報を元に、通信事業者へ発信者情報の提供命令の申立てを行います。
提供を受けた通信事業者に対する発信者情報開示請求の申立てを行って、その事実をコンテンツ事業者に対して通知することで、コンテンツ事業者が通信事業者に対して自己の保有する発信者情報を提供することになりました。
これらの手続きが同時に出来るようになり、開示命令の申立てが認容されれば、コンテンツ事業者及び通信事業者から発信者の情報が開示されることになりました。

3.まとめ

以上のとおり、今回の法改正によってインターネットで誹謗中傷等をされた場合に、発信者を特定するまでの期間が大幅に短縮されることになり、より迅速な権利救済が図られるようになりました。
もっとも1回の手続きで完了するとはいえ、手続き自体は専門的な内容となります。
開示請求に詳しい弁護士に依頼することが望ましいですので、インターネットの誹謗中傷等でお困りの方は、弁護士法人菰田総合法律事務所におまかせいただければと思います。

 

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2022.10.05

『同一労働同一賃金』とは?④ ~食事手当編~

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

はじめに

前回はガイドラインを基に、所謂「作業手当」、つまり業務の危険度又は作業環境に応じて支給される手当に関して正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点について説明させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?③ ~作業手当編~

今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する諸手当のうち、「食事手当」の性質を有する手当について正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題ないか、説明させていただきたいと思います。

『同一労働同一賃金』とは?④食事手当について  

1.同一労働同一賃金とは?

振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。

したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。

2.食事手当の取扱いについて

⑴ 食事手当とは
ここでいう「食事手当」とは、労働時間の途中に食事のための休憩時間がある労働者に対して、食費の負担補助として支給される手当を指します。

 ⑵ 食事手当の待遇差がある例
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で食事手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。

例えば、
①正社員に対しては食事手当を一律月額5,000円支給するが、正社員と同一の職務内容と勤務形態である契約社員には支給しない場合。
②正社員だけでなく非正規雇用労働者にも食事手当を支給するが、正社員に対する支給額を非正規雇用労働者よりも高く設定する場合。
③全従業員のうち、食事のための休憩時間をとる必要がない短時間労働者のみを支給対象外とする場合。
などが、考えられます。

⑶ 食事手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑵で挙げた例①から③のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるのでしょうか。
この点を考えるにあたっては、これまでの回と同様に「食事手当」の性質を考える必要があります。

「食事手当」は、「従業員の食事に係る補助として支給されるものであるから、勤務時間中に食事を取ることを要する労働者に対して支給することがその趣旨にかなう」と評価されています(「ハマキョウレックス事件」 最高裁判例平成30年6月1日労判1179号20頁参照)。

そうしますと、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の職務内容、及び勤務形態に違いがないのであれば、食事手当の支給の取扱いの相違を設ける必要性は見出せません。
また、仮に職務の内容・配置の変更の範囲が異なったとしても、勤務中に食事を取る必要性やその程度に影響を及ぼすものはありません。
したがって、正規雇用労働者と同一の勤務形態で勤務する非正規雇用労働者に対しては、原則として正規雇用労働者と同様の食事手当を支給する必要があると考えられます。

『同一労働同一賃金』とは?④

ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の食事手当を支給しなければならない。」と定めています。
そうしますと、例①については、正社員と契約社員の職務内容、勤務形態等が同一で、双方とも勤務時間の途中に食事のための休憩時間が付与されているにもかかわらず、正社員のみに食事手当が支給されていますので、不合理な待遇差と評価されるでしょう。

同様に、非正規雇用労働者に勤務時間の途中に食事のための休憩時間が付与されている場合、正社員と比較して支給額に差異を設ける必要性はないと考えられますので、例②についても不合理な待遇差と判断される可能性が高いでしょう。

ガイドラインにおいても、問題となる例として「通常の労働者に対して、有機雇用労働者に比べ、食事手当を高く支給している」場合をあげています。

他方で、 上述した食事手当の趣旨から考えますと、そもそも労働時間の途中に食事のために休憩することが予定されていない勤務形態である非正規雇用労働者に対して食事手当を支給していないとしても、直ちに不合理な待遇差とは評価されないものと思われます。
ガイドラインにおいても、問題とならない例として、「労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後2時から午後5時までの勤務)短時間労働者に対して食事手当を支給しない」場合をあげています。
そうしますと、例③については、同様に考えて不合理な待遇差とはまではいえないと考えられます。

3.まとめ

今回は、同一労働同一賃金で問題となる食事手当の待遇差について、ガイドライン等を基に説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。

 

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2022.08.22

『同一労働同一賃金』とは?③ ~作業手当編~

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

はじめに

前回はガイドラインを基に、会社が従業員に支給する交通費、所謂「通勤手当」に正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点について説明させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?② ~通勤手当編~

今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する諸手当のうち「作業手当」の性質を有する手当について正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題ないか、説明させていただきたいと思います。

1.同一労働同一賃金とは?

振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。

したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。

2.作業手当の取扱いについて

作業手当の取扱い

⑴ 作業手当とは
ここで「作業手当」について簡単に説明させていただきます。
ここでいう「作業手当」とは、業務の危険度又は作業環境に応じて支給される手当を指します。

例えば、
・高所作業に従事する労働者に対して「高所(作業)手当」として支給する場合
・運送ドライバーに対し、貨物の積み込み・積み下ろし作業(荷役作業)に対する手当として支給する場合
などが考えられます。

 ⑵ 作業手当の待遇差がある例
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で作業手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。

例えば、
①運送ドライバーである正社員に対しては、荷受作業に対する手当として作業手当を支給するのに対し、業務の内容及び責任の程度が同一である契約社員に対しては、作業手当を支給しない場合
②高所作業に従事する作業員である正社員に対しては、高所作業手当を支給するのに対し、同様の作業に従事する短時間労働者については、高所作業に従事する点を加算して時給を決定している場合
などが、考えられます。

⑶ 作業手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑵で挙げた例①および例②のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるのでしょうか。
この点を考えるにあたっては、前回と同様に「作業手当」の性質を考える必要があります。

「作業手当」とは「特定の作業を行った対価として支給されるものであり、作業そのものを金銭的に評価して支給される性質の賃金である」と評価されています(「ハマキョウレックス事件」 最高裁判例平成30年6月1日労働判例1179号20頁参照)。

したがって、特定の作業の対価として支給される性質を有する賃金であって、職務の内容・配置の変更の範囲が異なったとしても、作業内容に対する対価の評価が異なるとは考え難いため、正規雇用労働者と同一の作業を行う非正規雇用労働者に対しては、原則として正規雇用労働者と同様の作業手当を支給する必要があると考えられます。
作業手当の待遇差が「不合理」と評価される場合

ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「通常の労働者と同一の危険度又は作業環境の業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊作業手当を支給しなければならない。」と定めています。
そうしますと、例①については、正社員と契約社員の業務内容は同一にもかかわらず、同一の業務に対して正社員のみに作業手当が支給されていますので、不合理な待遇差と評価されるでしょう。

他方で、正社員と同一の作業に従事する非正規労働者の時給決定時に、作業内容を考慮して時給を決定するため他の非正規雇用労働者の時給水準よりも高くなっている、又は別の手当として支給している等、実質的に当該作業に対する対価が支給されていると評価可能な場合については、正規雇用労働者と同一の手当を支給していないとしても、不合理な待遇差とまでは言えないと評価される可能性があるでしょう。
そうしますと、例②については、同様に考えて不合理な待遇差とはいえないということになりますね。

3.まとめ

今回は、同一労働同一賃金で問題となる作業手当の待遇差について、ガイドライン等を基にご説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。

 

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記載内容は投稿日時点のものとなり、法改正等で内容に変更が生じる場合がございますので予めご了承ください。

 

2022.05.13

『同一労働同一賃金』とは?② ~通勤手当編~

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

はじめに

前回は「同一労働同一賃金」の概要、そして「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止に関する指針」(以下「ガイドライン」といいます。)について簡単にお話させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?①

今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する交通費、所謂「通勤手当」に正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点についてご説明させていただきたいと思います。

1.同一労働同一賃金とは?

前回の振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。

2.通勤手当の取扱いについて

⑴通勤手当の待遇差がある場合
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で通勤手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。

例えば、①正社員には1ヶ月分の定期代相当額を通勤手当として支給するが、契約社員、パート、アルバイトには通勤手当を支給しない場合が考えらえます。

この例は極端ですが、他にも例えば②契約社員と交通手段、通勤距離が共に同じ正社員に対しては、月額5,000円の通勤手当を支給し、他方で契約社員には月額3,000円を支給する場合や、③正社員や正社員と同様の所定労働日数である契約社員・パート等には1月分の定期代相当額を通勤手当として支給し、所定労働日数が少ない、又は出勤日数が変動する契約社員・パート等には出勤した日額の交通費を支給する場合、等があります。

同一労働同一賃金交通費

⑵通勤手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑴で挙げた例①から③のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるか考えてみましょう。

この点を考えるにあたっては、「通勤手当」の性質を考える必要があります。
「通勤手当」とは、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるものです(「ハマキョウレックス事件」最判平成30年6月1日労判1179号20頁参照)。

そうしますと、労働期間の定めの有無や、労働時間数によって通勤費が異なるとは言えませんし、職務内容・配置変更の範囲が異なったとしても、これにより発生する通勤費に影響が生じる、つまり通勤費が増減すると言えませんので、正規雇用労働者と同一の通勤を行う非正規雇用労働者に対しては、原則として同一の通勤手当を支給する必要があると考えられます。

ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。」と定めています。

同一労働同一賃金交通費

もっとも、ガイドラインでは、待遇差があっても問題がない例、つまり合理的な待遇差と説明可能な例も定めています。
例えば、本社採用の労働者には交通費実費の全額に相当する通勤手当を支給する一方、それぞれの店舗採用の労働者に対しては、当該店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定している場合があります。

以上を踏まえて例①から③を検討してみましょう。

①はどうでしょうか。
①では正社員のみに通勤手当を支給していますので、他に正社員以外の労働者に通勤手当を支給しない合理的な説明ができないかぎり、不合理な待遇差と評価されるでしょう。
②については、改正前労働契約法第20条に基づく判断となりますが、ハマキョウレックス事件において不合理な待遇差と評価されています。
③は、ガイドラインにおいて問題ない例として挙げられていますので、合理的な待遇差と評価されるでしょう。

3.まとめ

今回は、同一労働同一賃金で問題となる通勤手当の待遇差について、ガイドライン等を基にご説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。

 

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2022.04.28

「信書」の送付に関する法規制について

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

はじめに

会社、個人を問わず、多くの方にとって、文書の送付は日常的に何気なく行う行為であり、その送付の方法について深く考えたことがある方はあまりおられないのではないでしょうか。

実は、郵便法の規制により、「信書」に当たる文書を送付する場合には、一部の例外を除き、日本郵便株式会社が行う特定の郵便事業を利用しなければならないとされており、荷物を送ることが目的の宅配便等を利用して「信書」を送付することは、郵便法に抵触するおそれがあります。

手紙をはじめ、契約書、請求書、領収書、報告書等、様々な文書を日常的にやり取りをされている方も多いと思われますが、これらは全て「信書」に該当し、法規制の対象となるのか、以下解説します。

1.郵便法等の規制

「信書」とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」をいい、日本郵便株式会社以外の者は、何人も、「信書」の送達(送り届けること。)を業としてはならないとされています(郵便法4条2項)。
また、同項に違反して信書の送達を業とする者あるいは運送営業者等に対し、送り主が「信書」の送達を委託する行為も禁じられています(同条4項)。

「信書」とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」

そして、物品の宅配業者等の運送営業者については、同条3項で「運送営業者、その代表者又はその代理人その他の従業者は、その運送方法により他人のために信書の送達をしてはならない。」とされる一方、例外的に、「貨物に添付する無封の添え状又は送り状」の送達は許容されています。

なお、民間事業者による信書の送達に関する法律(いわゆる信書便法)に基づき許可を受けた一般信書便事業者又は特定信書便事業者が、許可の範囲で信書の送達をする場合には、郵便法4条2項は適用されず(信書便法3条)、例外的に、日本郵便株式会社以外の者であっても信書の送達が可能とされています(本年2月25日現在、一般信書便事業者は存在しないものの、佐川急便株式会社の「飛脚特定信書便」をはじめ、特定信書便役務を取扱う特定信書便事業者は589者存在します ※1。)。

※1 
■総務省ウェブサイト(http://www.soumu.go.jp/yusei/tokutei_g.html
■佐川急便株式会社ウェブサイト(https://www.sagawa-exp.co.jp/service/h-shinsho/
より

このように、郵便又は信書便以外の方法により「信書」を送達する行為も、送り主が郵便又は信書便以外の方法による「信書」の送達を委託する行為も、同法により規制されています(郵便法4条3項及び4項)。
これらの法規制に違反した場合、「信書」の発送を委託した者を含め、3年以下の懲役刑又は300万円以下の罰金刑の制裁が定められています(同法76条1項。もっとも、実際に刑事事件としての立件にまで至った例はさほど見当たりません。)。

【郵便法(抄)】
(郵便の実施)
第二条 郵便の業務は、この法律の定めるところにより、日本郵便株式会社(以下「会社」という。)が行う。

(事業の独占)
第四条 会社以外の者は、何人も、郵便の業務を業とし、また、会社の行う郵便の業務に従事する場合を除いて、郵便の業務に従事してはならない。
ただし、会社が、契約により会社のため郵便の業務の一部を委託することを妨げない。
2 会社(契約により会社から郵便の業務の一部の委託を受けた者を含む。)以外の者は、何人も、他人の信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。以下同じ。)の送達を業としてはならない。
二以上の人又は法人に雇用され、これらの人又は法人の信書の送達を継続して行う者は、他人の信書の送達を業とする者とみなす。
3 運送営業者、その代表者又はその代理人その他の従業者は、その運送方法により他人のために信書の送達をしてはならない。
ただし、貨物に添付する無封の添え状又は送り状は、この限りでない。
4 何人も、第二項の規定に違反して信書の送達を業とする者に信書の送達を委託し、又は前項に掲げる者に信書(同項ただし書に掲げるものを除く。)の送達を委託してはならない。

信書の定義とは

2.「信書」の範囲

⑴「信書」の定義の意味内容
では、どのような文書が上記の「信書」に当たるのでしょうか。
まず、上記の「信書」の定義を読み解きます。

ア 「信書」の定義における「特定の受取人」とは、差出人がその意思の表示又は事実の通知を受ける者として特に定めた者をいいます。 文書自体に受取人が記載されている場合には、差出人が「特定の受取人」に宛てたことが明らかですが、受取人の記載が無くとも、手紙などのようにその内容から特定の受取人の存在が予定され、その記載が省略されていることが分かる場合には、同時に送付される包装紙部分等に記載された宛名によって受取人が具体的になることから、「特定の受取人」に宛てたものとなります。
イ 「意思を表示し、又は事実を通知する」とは、差出人の考えや思いを表し、又は現実に起こり若しくは存在する事柄等の事実を伝えることをいいます。
一般的に、個人がその意思を表示し、又は事実を通知する文書を特定の受取人に送付する場合は、その文書は信書に該当しますが、同一内容で大量に作成された文書を個々の受取人に対して送付する場合であっても、内容となる文書が特定の受取人に対して意思を表示し、又は事実を通知するものであれば、信書に該当します。
ウ 「文書」とは、文字、記号、符号等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物のことをいいます。文書の記載手段は、筆書に限られず、印章、タイプライター、印刷機、コピー機、プリンター等によるものでもよく、また、文書を記載する素材は、紙のほか木片、プラスチック、ビニール等有体物であればよいとされます。
これに対し、電磁的に記録されたフロッピーディスク、コンパクトディスク等は、そこに記載された情報が、人の知覚によって認識することができないものであって「文書」には当たらないため、これらを送付しても郵便法4条2項により規制される「信書」の送達には該当しません ※2。

※2 「信書に該当する文書に関する指針」(平成15年総務省告示第270号)より


⑵「信書」該当性の判断
ア 特定の文書が「信書」に該当するか否かは、文書の大きさや受取人、ある特定の文言や情報の有無等の外形的事実ではなく、文書の記載内容及び送付の目的等からみて「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」といえるか否かという観点から判断されます。

要するに、「信書」に当たるかどうかは、見た目や形式ではなく、文書の内容を重視して判断されることになるため、同様の文書であっても送付の目的等により「信書」に該当する場合としない場合があり得ることになります。
イ 例えば、通知書や報告書を受取人に対し送付する場合、商品の納入者が受取人に対し納品書を送付したり代金の請求書を送付したりする場合、会社が株主に対し、株主総会招集通知を送付する場合、就職応募者が申込先の企業に履歴書を送付する場合、市役所が住民の申請に応じて印鑑証明書を送付する場合は、いずれも「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する」ものといえるため、これらの文書は、通常「信書」に該当すると判断されます。
これに対し、書籍や論文、図面、ポスター、カタログ、家電製品の取扱説明書、約款、求人票、名刺、パスポート、振込用紙等は「特定の受取人」に宛てて送付するものではないため、通常は「信書」には当たらないと考えられます。
また、手形や小切手、乗車券、プリペイドカード、会員カード、ポイントカード等は、使用方法や説明書きが記載されているに過ぎず「差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」とはいえないため、やはり「信書」には当たらないと考えられます。
ウ  また、広告物に関しては、ダイレクトメールのように、文書自体に特定の受取人が記載されているか、受取人の記載はなくとも、商品の購入等の利用関係、契約関係等特定の受取人に差し出す趣旨が明らかな文言が記載されている場合には、「信書」に該当する可能性が高いといえます。他方、専ら街頭や店頭における配布あるいは新聞への折り込みを前提として作成されるチラシ、パンフレット又はリーフレットのようなものであれば、特定人の住居の郵便ポストに投函されるとしても、「特定の受取人」に対するものとはいえないため、「信書」には該当しないと考えられます ※3。
エ  更に、通常は「信書」に該当すると考えられる文書であっても、例えば、企業が顧客あるいは就職応募者から提出を受けた印鑑証明書や履歴書を別の部署・支店に郵送したり、顧客あるいは就職応募者に返送したりする場合には「差出人の意思を表示し、又は事実を通知する」とはいえないため、「信書」に当たらないことになるでしょう。

※3 総務省情報流通行政局郵政行政部『信書制度周知用チラシ』(令和元年)2~4頁 より

⑶補足
このように、郵便法の規制対象となる「信書」の概念は曖昧で、該当性判断は必ずしも容易ではないにもかかわらず、運送事業者のみならず送り主も刑事罰の対象とされている現状では、文書の送り主が罪に問われるリスクがあるなどとして、ヤマト運輸株式会社は平成27年3月末をもって、それまで広く利用されていた「クロネコメール便」を廃止しました。
なお同社は、文書の内容ではなく外形で「信書」該当性を判断することを提唱しています ※4。

※4  ヤマト運輸株式会社ウェブサイト(https://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/ad/opinion/shinsyo/) より

3.まとめ

⑴ 以上述べたところによれば、取引先や顧客に送付する手紙、連絡文書、請求書、契約書等は、いずれも「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」として「信書」に当たり、郵便又は信書便以外の方法で発送することは、郵便法4条4項に違反することとなります。
したがって、上記のような文書は、日本郵便株式会社が提供する郵便事業(定形/定形外郵便、スマートレター、レターパック等)や佐川急便をはじめとする事業者が提供する「信書便」によって送付する必要がありますが、日本郵便株式会社が提供するものであっても、ゆうパックやゆうメール等は書籍や荷物等の物品運送を目的としており、信書を送ることはできないとされていますので注意が必要です。

⑵ もっとも、上記の手紙、連絡文書等を送付する場合であっても、単に保管場所を変更するために他の店舗へ送るに過ぎないようなときは、「意思を表示し、又は事実を通知する」とはいえないため「信書」を送る場合には該当しないと考えられます。
翻って、社内における移動であっても、契約成立の事実や代金未収の事実を他の店舗や部署に伝えるために送付するときは、やはり「意思を表示し、又は事実を通知する」ものとして「信書」に該当するものと考えられます。

⑶ なお、「信書」に該当するものであっても、「貨物に添付する無封の添え状又は送り状」であれば、(郵便や信書便事業を取り扱うことができない)運送営業者が送達することが可能とされていますので(郵便法4条3項ただし書き)、物品の運送に伴い、封をしていない納品書や送付状等を荷物の中に同封し、運送営業者に送ってもらうことは、例外的に許容されます。

以上

 

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2022.03.14

ビジネスモデルに関する特許の取得可能性

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

はじめに

ICT(情報通信技術)を用いるなどして、商品の販売や事業活動の促進等に寄与するビジネスモデル(ビジネス方法)を考案、構築し、事業活動上の成果を挙げている場合、考案者としては、当該ビジネスモデルを同業他社等に模倣、利用されることを防止し、当該ビジネスモデルによって得られるであろう利益の独占を欲することが考えられます。

もっとも、一定のビジネスモデルを考案したとしても、それ自体が特許として認められることは無いとされます。
すなわち、以下、ビジネスモデルの実施に当たり、いかなる条件が整えば、特許取得の可能性があるか、概観します。

特許庁 

1.特許取得の要件

特許法上の特許を取得するには、「発明」(特許法2条1項。「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」。)に該当することを前提として、当該発明につき産業上の利用可能性があること(同法29条1項柱書)、特許出願前に公然となっていないこと(同項各号。新規性)、容易に発明できないこと(同条2項。進歩性)、先に出願されていないこと(同法29条の2。先願性)、公序良俗等に反しないこと(同法32条)を要します。
これらの要件に該当しなければ、特許取得の前提を欠くこととなります。

2.「発明」該当性

(1)ビジネスモデルに関し、最も問題となり得るのは、「発明」に該当するか否か、という点です。
すなわち、ビジネスモデルの考案それ自体が特許の対象となるわけではなく、「ビジネス関連発明」といい得るものでなければならないのです。

(2)特許法2条1項の規定する「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいいます。
ここで、「自然法則」とは、自然界において一定の原因によって一定の結果をもたらす科学的な法則を意味し、判例上も、自然力を利用した手段を施していない考案は発明に該当しないものとされています(最判昭和28年4月30日)。

また、「特許・実用新案審査基準」(以下、審査基準という)第Ⅱ部第1章1.1によれば、「自然法則を利用」していない創作とは「自然法則以外の法則(例えば、経済法則)、人為的な取決め(例えば、ゲームのルールそれ自体)、数学上の公式、人間の精神活動に当たるとき、あるいはこれらのみを利用している」ものをいうとされています。

そうすると、自然力を利用した科学的な法則によらず、人為的な方法論に止まるようなビジネスモデルは、「発明」には当たらないこととなります。
この点で、一定の営業方法や業務効率化の方法等を構想したとしても、それ自体が特許として認められることは無いものといわざるを得ないです。

(3)もっとも、あるビジネスモデルが、コンピュータ、ネットワークその他の自然法則に基づいて成立した装置を不可分の要素として用いること等により、全体として自然法則を利用しているものといえる場合には、「発明」に該当する余地があります(例えば、コンピュータソフトウェアを用いた商品の売上予測プログラム等)。

それゆえ、特定のビジネスモデルが、単にパーソナルコンピュータ等の機器を用いて情報の検索、入力、出力等を行うことが可能であるというに止まらず、ネットワークからの情報収集やコンピュータを用いた分析、演算処理を不可欠の要素として介在させるものであれば、「発明」に該当する余地があると思われます。

3.その他の主な要件

(1)進歩性
上記「発明」に該当したとしても、公知の技術に基づいて、その分野の一般の専門家(当業者といいます)が容易に発明することができたといえるようなものであれば、特許取得は認められません。
そのため、既存の技術やシステムからは容易には考案できないとか、「発明」を利用した際の効果の面で、既存のものよりも有利であるといった事情が必要となります。

(2)新規性
特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明(特許法29条1項2号)は、特許の要件を充たさないところ、考案し、実施しているビジネスモデルが、既にインターネット等で広く公開されており、公開された内容どおりの手法で使用されているものであれば、「公然実施をされ」たものとして、特許の要件を充たさないものと考えられます。

そのため、自ら考案したビジネスモデルを実施するに当たって、特許取得を考えているのであれば、インターネットや書籍等で公開することは控えるのが賢明であると思われます。

4.実例

例えば、とある飲食チェーン店においては、来客の要望に応じて好みの量のステーキを提供することをセールスポイントにしているところ、同店においては、多数の来客の肉の注文量を従業員が混同することを防止するため、個々の来客の注文に応じてカットした肉を計量し、計量した肉のグラム数とテーブル番号が記載されたシールを出力する計量機を導入しています。

各テーブルに番号を付し、札によって区別するとともに、肉の計量とシール出力が可能な計量機を導入して、当該シールを出来上がった料理に配するというシステムにより、個々の来客の注文を従業員が混同するのを防ぎ、業務の円滑化と上記セールスポイントの実現に繋げているわけです。

このようなステーキの販売、提供システムは、ビジネス関連発明と認められ、特許取得に至っています。

 

5.おわりに

以上のとおり、ビジネスモデルを考案し、実施する上で特許取得を企図するのであれば、何らかの「自然法則」を利用した技術的創作である必要がありますが、ICTを不可欠のものとして利用しているような場合も「自然法則」を利用する場合に該当します。

したがって、ICT利用の促進と相まって、それをシステム内に組み込んだ革新的なビジネスモデルを考案すれば、特許を取得し、当該モデルを自社で独占的に利用することも可能となる余地があります。

菰田総合法律事務所では企業法務に関する法律相談も承っております。
ぜひお問い合わせください。

 

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