Komoda Law Office News

2023.08.23

【2024年4月適用】医師の時間外労働規制について②

2024年4月1日より、これまで時間外労働の上限規制の適用が猶予されていた労働者に対して、時間外労働の上限規制が適用されることとなります。
医師は、現在時間外労働の上限規制の適用が猶予されていますが、同日以降、時間外労働の上限規制の適用を受けることとなります。

前回は、医師の時間外労働規制のうち、原則的な取扱い特定労務管理対象機関について説明させていただきました。
前回の記事はこちらから:【2024年4月適用】医師の時間外労働規制について①

今回は、前回の続きとして、特定労務管理対象機関の指定の受け方等について説明させていただきます。

1.特定労務管理対象機関の指定を受けるためには?

特定労務管理対象機関の指定を受けるためには、以下の流れで動いていただくことになります。
来年4月1日よりA水準以外の水準での上限規制の適用を受けるためには、令和5年度中に指定を受けておく必要があります。

①事前に「医師労働時間短縮計画」(以下「時短計画」といいます。)を作成する
②医療機関勤務環境管理センターに評価受審申込を行い、評価を受ける
(※必要書類を受領してから評価通知まで約4ヶ月程度)
③医療機関勤務環境管理センターからの評価を受けた後、評価結果、時短計画と必要書類等を揃えて都道府県に対し、指定申請を行う

特に、②については評価センターが必要書類を受領してから評価通知を出すまでに約4ヶ月程度かかる見込みとされていますので、指定を受けることを検討している医療機関は、速やかに動く必要があります。
なお、指定を受けない医療機関、つまりA水準の医療機関においても、ガイドラインに沿った時短計画を作成している場合は、診療報酬の地域医療体制確保加算の算定要件となるようです。

2.追加的健康確保措置の実施(面接指導・勤務間インターバルなど)について

これまで説明してきた時間外労働の上限規制の他に、全ての医療機関において、時間外・休日労働が月100時間以上となることが見込まれる医師に対して、100時間以上となる「前」に面接指導を実施しなければなりません。
ただし、A水準においては、疲労の蓄積が認められなければ、月の時間外・休日労働が100時間以上となった後遅滞なく実施することも可能となっています。
また、A水準以外の水準の指定を受けている場合、面接指導に加え、①勤務間インターバル(取得ができなかった場合の代償休息)、②連続勤務時間の制限が義務化されます(A水準の場合は努力義務です。)。

①については、始業から24時間以内に9時間、又は46時間以内に18時間の連続した休息時間を確保する必要があります。
なお、C-1水準の場合で、臨床研修における必要性から、指導医の勤務に合わせた24時間の連続勤務時間とする必要がある場合については、始業から48時間以内に24時間の連続した休息時間を確保する必要があります。

病室

この勤務間インターバルの確保を徹底することが原則となりますが、やむを得ない事由により、インターバル中に緊急業務に従事することが容易に想定されます。
この場合は、遅くとも翌月末までにインターバル以外で代償休息を付与する必要があります。

②については、勤務間インターバルに関連するものになりますが、休息時間の確保の観点から、必然的に連続勤務時間の上限が28時間となります。
なお、C-1水準の場合については、連続勤務時間の上限が15時間と、他の水準よりも制限が強化されています。
もっとも、上で述べた24時間の休息時間を確保する場合については、連続勤務の上限が24時間となります。

3.まとめ

前回から2回にわたり、医師の時間外労働規制の概要についてお話させていただきました。
特定労務対象機関の適用が想定されているのは、総合病院、大学病院等がメインだと思いますが、時間外労働の原則的な上限規制及び面接指導については、全ての医療機関で対応する必要があります。
いずれにしても、医師の長時間労働の抑制、ひいては健康の確保という観点から、医療機関としては適切に運用していく必要があろうかと思われます。

 

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弁護士坂本志乃執 筆
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座右の銘は『努力は人を裏切らない』
2023.08.18

【2024年4月適用】医師の時間外労働規制について①

2024年4月1日より、これまで時間外労働の上限規制の適用が猶予されていた労働者に対して、時間外労働の上限規制が適用されることとなります。
医師は、現在時間外労働の上限規制の適用が猶予されていますが、同日以降、時間外労働の上限規制の適用を受けることとなります。

そこで、今回から2回にわたり、2024年4月1日以降に適用される、医師の時間外労働規制について概要をお話ししたいと思います。

前回はトラック運転者の時間外労働の上限規制の適用について、ご説明しました。こちらもぜひご覧ください。

前回の記事はこちらから:
【2024年4月】改善基準告示の改正(トラック運転者)①
【2024年4月】改善基準告示の改正(トラック運転者)②

1.原則的な取扱いは?

来年4月1日より、医師についても月45時間、1年間360時間(1年単位の変形労働時間制の場合は月42時間、1年間320時間)という時間外労働の上限規制が適用されます。

特別条項付の36協定を締結する場合でも、原則として、時間外労働と法定休日労働の時間数が月100時間未満、かつ年間960時間以内に収める必要があります。
この原則的な上限のことを、「A水準」と呼んでいます。

もっとも、A水準の上限規制をそのまま適用してしまうと、医療現場が十分に機能せず地域の医療提供体制に悪影響を及ぼしかねません。

そこで、勤務先医療機関の特性に応じて都道府県知事より「特定労務管理対象機関の指定」を受けることにより、A水準とは異なる時間外・休日労働の上限時間の適用を受けることができます。

医師
 

2.特定労務管理対象機関とは?

では、都道府県知事より指定を受けた「特定労務管理対象機関」にはどのような種類があるのでしょうか。

特定労務管理対象機関には、勤務先医療機関の特性に応じて、以下の4種類があり、それぞれ上限規制が緩和されます。
具体的には、以下のとおりです。

機関名 年間の時間外労働・休日労働の上限時間
特定地域医療提供機関(B基準) 1860時間
連携型特定地域医療提供機関(連携B基準) 1860時間(各院では960時間)
技能向上集中研修機関(C-1水準) 1860時間
特定高度技能研修機関(C-2水準) 1860時間

※時間外労働・休日労働数が月100時間未満との要件については、各水準ともに適用されますが、適切に面接指導を実施することにより、時間外労働・休日労働の時間数が月100時間以上となっても差し支えないとされています。

注意していただく点としては、以下のとおりです。

①複数の医療機関で従事している場合、副業・兼業先の労働時間を通算して計算する必要があります。
②特定労務管理対象機関に指定された場合であっても、それぞれの水準による上限規制の適用を受けるのは、当該医療機関に所属する全ての医師ではなく、指定された理由に対応する業務に従事する医師のみとなります。
③医療機関において、所属する医師に異なる水準を適用させるためには、医療機関はそれぞれの水準についての指定を受ける必要があります。
例えば一つの医療機関において、連携B水準とC-1水準に該当しうる医師が在籍する場合は、連携B水準とC-1水準の指定を受ける必要があります。

3.まとめ

今回は、医師の時間外労働規制のうち、原則的な取扱いと、特定労務対象機関の概要についてお話させていただきました。
次回、特定労務対象機関の指定の受け方、その他医療機関が講ずべき措置についてお話させていただく予定です。

 

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2023.07.07

【2024年4月】改善基準告示の改正(トラック運転者)②

2024年4月1日より、これまで時間外労働の上限規制の適用が猶予されていた労働者に対して、時間外労働の上限規制が適用されることとなります。
トラック運転者は、現在時間外労働の上限規制の適用が猶予されていますが、同日以降、時間外労働の上限規制の適用を受けます。
これに合わせ、トラック運転者に適用されている「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下「改善基準告示」といいます。)も、2024年4月1日より改正されます。

前回は、現行の改善基準告示の概要を簡単に説明しましたので、今回は、トラック運転者の改善基準告示の改正内容について、概要をお話したいと思います。

前回の記事はこちらから:【2024年4月】改善基準告示の改正(トラック運転者)①

1.改正ルール(概要)

では、改正後のルールについて確認したいと思います。
なお、以下で確認するルールにはそれぞれ例外・特則がありますが、今回は概要の確認に留めさせていただきます。

⑴拘束時間 拘束時間は、最初にお話しした時間外労働の上限規制の適用に伴い、1日の拘束時間の限度・1か月の拘束時間・1年間の拘束時間共に減少しています。
具体的には、以下のとおりです。

①1日の拘束時間は13時間以内が原則、最大15時間が限度
②1日14時間を超える拘束時間は1週間2回が目安
③月の拘束時間は284時間が限度、年間の拘束時間は3,300時間が限度

※拘束時間の延長に関する労使協定の締結により、「1年のうち6か月まで、1年間の総拘束時間が3,400時間を超えない範囲であれば1月の拘束時間を310時間」まで延長可能です。
※1か月の拘束時間が284時間を超える月は連続3か月までです。

【2024年4月】改善基準告示の改正(トラック運転者)②

なお、トラック運転者は、2024年4月以降も、時間外労働規制のうち「時間外・休日労働の合計時間数が月100時間未満であること」については適用が除外されているのですが、改善基準告示では、「1か月の時間外労働及び休日労働の合計時間数が100時間未満となるよう努める必要がある」とされていますので、念のため注意が必要です。

⑵休息時間 休息時間についても、時間外労働を抑制するという観点から、現行ルールの8時間から休息時間数が増加しています。

①継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らない

⑶運転時間 運転時間については、大幅な改正は見られないのですが、運転時の休憩の取得について変更があります。

①運転開始後4時間以内又は4時間経過直後に、30分以上の休憩が必要
②分割1回がおおむね連続10分以上として合計30分以上の分割取得も可能
③10分未満の運転の中断は、3回以上連続できない

このうち、②でいう「おおむね10分以上」とは、改善基準告示によれば、運転の中断は原則10分以上とする趣旨であり、上記③の場合には②に該当しないことを表しているようです。

2.まとめ

前回から2回に分けて、改善基準告示の改正について説明させていただきました。
運送業界では、従前から時間外労働の上限規制の適用と併せて「2024年問題」として取り上げられており、運送業を営む事業者においては、輸配送効率の向上、輸配送形態の変更、人員の確保、これに関連して労働条件の見直し等といった対応に迫られます。
「2024年問題」への対応に苦慮している事業者様は、ぜひ一度専門家に相談されることをお勧めいたします。

 

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2023.07.04

【2024年4月】改善基準告示の改正(トラック運転者)①

2024年4月1日より、これまで時間外労働の上限規制の適用が猶予されていた労働者に対して、時間外労働の上限規制が適用されることとなります。
トラック運転者は、現在時間外労働の上限規制の適用が猶予されていますが、同日以降、時間外労働の上限規制の適用を受けます。
これに合わせ、トラック運転者に適用されている「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下「改善基準告示」といいます。)も、2024年4月1日より改正されます。

そこで、今回から2回にわけて、トラック運転者の改善基準告示の改正内容について、概要をお話したいと思います。

  改善基準告示の改正(トラック運転者)①  

1.用語について

最初に、改善基準告示で用いる用語について簡単に説明します。

⑴拘束時間 拘束時間とは、労働時間(作業時間・手待ち時間等)と休憩時間(仮眠時間を含む。)の合計時間、つまり、始業時刻から終業時刻までの使用者に拘束される全ての時間をいいます。
したがって、運転手以外の労働者は、基本的に「労働時間」と「休憩時間」で管理されるのに対し、運転手は、「労働時間」「休憩時間」とは別に両者を合わせた「拘束時間」で管理されることになります。

⑵休息時間 休息時間とは、使用者の拘束を受けない期間であり、勤務と次の勤務との間にあって、休息期間の直前の拘束時間における疲労の回復を図るとともに、睡眠時間を含む労働者の生活時間として、その処分が労働者の全く自由な判断に委ねられる時間をいいます。
勤務間インターバルのようなものと考えていただいてもいいかと思います。

⑶休日 休日は、休息時間に24時間を加算して得た、連続した時間をいいます。
通常、「休日」とは暦日、つまり0時から24時までの連続した24時間を単位として付与する必要があるのですが、運転者の場合、その業務の特殊性から暦日を単位として休日を付与することが困難と考えられるため、改善基準告示にて、上記の取扱いとなっています。

2.現行ルール(概要)の確認

以上を前提に、まずは現行ルールの確認です。 一部例外もありますが、拘束時間、休息時間に関する現行のルールの概要は、以下のとおりです。

①1日の拘束時間は13時間以内が原則、最大16時間が限度
②1日15時間を超える拘束時間は1週間2回が限度
③休息時間は継続して8時間以上確保が必要
④月の拘束時間は293時間が限度

※拘束時間の延長に関する労使協定を締結すれば「1年のうち6回、1年間の拘束時間が3516時間を超えない範囲であれば1月の拘束時間を320時間」まで延長可能です。

次に、運転時間に関する現行ルールの概要は以下のとおりです。
こちらも例外がありますが、今回は割愛させていただきます。

①2日平均で1日9時間が限度
②2週間平均で1週間44時間が限度
③連続運転時間は4時間が限度。直後に30分以上の休憩の確保が必要

3.まとめ

今回は、改善基準告示の改正に合わせて、まずは現行の改善基準告示の概要について説明させていただきました。
次回は、今回説明した内容を前提に、改善基準告示の改正内容について、簡単ではありますが説明させていただく予定です。
現行のルールと、改正内容を比較してもらえたらと思います。

次回の記事はこちらから:【2024年4月】改善基準告示の改正(トラック運転者)②

 

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2022.10.05

『同一労働同一賃金』とは?④ ~食事手当編~

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

はじめに

前回はガイドラインを基に、所謂「作業手当」、つまり業務の危険度又は作業環境に応じて支給される手当に関して正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点について説明させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?③ ~作業手当編~

今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する諸手当のうち、「食事手当」の性質を有する手当について正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題ないか、説明させていただきたいと思います。

『同一労働同一賃金』とは?④食事手当について  

1.同一労働同一賃金とは?

振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。

したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。

2.食事手当の取扱いについて

⑴ 食事手当とは
ここでいう「食事手当」とは、労働時間の途中に食事のための休憩時間がある労働者に対して、食費の負担補助として支給される手当を指します。

 ⑵ 食事手当の待遇差がある例
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で食事手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。

例えば、
①正社員に対しては食事手当を一律月額5,000円支給するが、正社員と同一の職務内容と勤務形態である契約社員には支給しない場合。
②正社員だけでなく非正規雇用労働者にも食事手当を支給するが、正社員に対する支給額を非正規雇用労働者よりも高く設定する場合。
③全従業員のうち、食事のための休憩時間をとる必要がない短時間労働者のみを支給対象外とする場合。
などが、考えられます。

⑶ 食事手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑵で挙げた例①から③のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるのでしょうか。
この点を考えるにあたっては、これまでの回と同様に「食事手当」の性質を考える必要があります。

「食事手当」は、「従業員の食事に係る補助として支給されるものであるから、勤務時間中に食事を取ることを要する労働者に対して支給することがその趣旨にかなう」と評価されています(「ハマキョウレックス事件」 最高裁判例平成30年6月1日労判1179号20頁参照)。

そうしますと、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の職務内容、及び勤務形態に違いがないのであれば、食事手当の支給の取扱いの相違を設ける必要性は見出せません。
また、仮に職務の内容・配置の変更の範囲が異なったとしても、勤務中に食事を取る必要性やその程度に影響を及ぼすものはありません。
したがって、正規雇用労働者と同一の勤務形態で勤務する非正規雇用労働者に対しては、原則として正規雇用労働者と同様の食事手当を支給する必要があると考えられます。

『同一労働同一賃金』とは?④

ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の食事手当を支給しなければならない。」と定めています。
そうしますと、例①については、正社員と契約社員の職務内容、勤務形態等が同一で、双方とも勤務時間の途中に食事のための休憩時間が付与されているにもかかわらず、正社員のみに食事手当が支給されていますので、不合理な待遇差と評価されるでしょう。

同様に、非正規雇用労働者に勤務時間の途中に食事のための休憩時間が付与されている場合、正社員と比較して支給額に差異を設ける必要性はないと考えられますので、例②についても不合理な待遇差と判断される可能性が高いでしょう。

ガイドラインにおいても、問題となる例として「通常の労働者に対して、有機雇用労働者に比べ、食事手当を高く支給している」場合をあげています。

他方で、 上述した食事手当の趣旨から考えますと、そもそも労働時間の途中に食事のために休憩することが予定されていない勤務形態である非正規雇用労働者に対して食事手当を支給していないとしても、直ちに不合理な待遇差とは評価されないものと思われます。
ガイドラインにおいても、問題とならない例として、「労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後2時から午後5時までの勤務)短時間労働者に対して食事手当を支給しない」場合をあげています。
そうしますと、例③については、同様に考えて不合理な待遇差とはまではいえないと考えられます。

3.まとめ

今回は、同一労働同一賃金で問題となる食事手当の待遇差について、ガイドライン等を基に説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。

弁護士坂本志乃執 筆
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2022.08.22

『同一労働同一賃金』とは?③ ~作業手当編~

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

はじめに

前回はガイドラインを基に、会社が従業員に支給する交通費、所謂「通勤手当」に正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点について説明させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?② ~通勤手当編~

今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する諸手当のうち「作業手当」の性質を有する手当について正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題ないか、説明させていただきたいと思います。

1.同一労働同一賃金とは?

振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。

したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。

2.作業手当の取扱いについて

作業手当の取扱い

⑴ 作業手当とは
ここで「作業手当」について簡単に説明させていただきます。
ここでいう「作業手当」とは、業務の危険度又は作業環境に応じて支給される手当を指します。

例えば、
・高所作業に従事する労働者に対して「高所(作業)手当」として支給する場合
・運送ドライバーに対し、貨物の積み込み・積み下ろし作業(荷役作業)に対する手当として支給する場合
などが考えられます。

 ⑵ 作業手当の待遇差がある例
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で作業手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。

例えば、
①運送ドライバーである正社員に対しては、荷受作業に対する手当として作業手当を支給するのに対し、業務の内容及び責任の程度が同一である契約社員に対しては、作業手当を支給しない場合
②高所作業に従事する作業員である正社員に対しては、高所作業手当を支給するのに対し、同様の作業に従事する短時間労働者については、高所作業に従事する点を加算して時給を決定している場合
などが、考えられます。

⑶ 作業手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑵で挙げた例①および例②のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるのでしょうか。
この点を考えるにあたっては、前回と同様に「作業手当」の性質を考える必要があります。

「作業手当」とは「特定の作業を行った対価として支給されるものであり、作業そのものを金銭的に評価して支給される性質の賃金である」と評価されています(「ハマキョウレックス事件」 最高裁判例平成30年6月1日労働判例1179号20頁参照)。

したがって、特定の作業の対価として支給される性質を有する賃金であって、職務の内容・配置の変更の範囲が異なったとしても、作業内容に対する対価の評価が異なるとは考え難いため、正規雇用労働者と同一の作業を行う非正規雇用労働者に対しては、原則として正規雇用労働者と同様の作業手当を支給する必要があると考えられます。
作業手当の待遇差が「不合理」と評価される場合

ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「通常の労働者と同一の危険度又は作業環境の業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊作業手当を支給しなければならない。」と定めています。
そうしますと、例①については、正社員と契約社員の業務内容は同一にもかかわらず、同一の業務に対して正社員のみに作業手当が支給されていますので、不合理な待遇差と評価されるでしょう。

他方で、正社員と同一の作業に従事する非正規労働者の時給決定時に、作業内容を考慮して時給を決定するため他の非正規雇用労働者の時給水準よりも高くなっている、又は別の手当として支給している等、実質的に当該作業に対する対価が支給されていると評価可能な場合については、正規雇用労働者と同一の手当を支給していないとしても、不合理な待遇差とまでは言えないと評価される可能性があるでしょう。
そうしますと、例②については、同様に考えて不合理な待遇差とはいえないということになりますね。

3.まとめ

今回は、同一労働同一賃金で問題となる作業手当の待遇差について、ガイドライン等を基にご説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。

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2022.05.13

『同一労働同一賃金』とは?② ~通勤手当編~

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

はじめに

前回は「同一労働同一賃金」の概要、そして「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止に関する指針」(以下「ガイドライン」といいます。)について簡単にお話させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?①

今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する交通費、所謂「通勤手当」に正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点についてご説明させていただきたいと思います。

1.同一労働同一賃金とは?

前回の振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。

2.通勤手当の取扱いについて

⑴通勤手当の待遇差がある場合
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で通勤手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。

例えば、①正社員には1ヶ月分の定期代相当額を通勤手当として支給するが、契約社員、パート、アルバイトには通勤手当を支給しない場合が考えらえます。

この例は極端ですが、他にも例えば②契約社員と交通手段、通勤距離が共に同じ正社員に対しては、月額5,000円の通勤手当を支給し、他方で契約社員には月額3,000円を支給する場合や、③正社員や正社員と同様の所定労働日数である契約社員・パート等には1月分の定期代相当額を通勤手当として支給し、所定労働日数が少ない、又は出勤日数が変動する契約社員・パート等には出勤した日額の交通費を支給する場合、等があります。

同一労働同一賃金交通費

⑵通勤手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑴で挙げた例①から③のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるか考えてみましょう。

この点を考えるにあたっては、「通勤手当」の性質を考える必要があります。
「通勤手当」とは、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるものです(「ハマキョウレックス事件」最判平成30年6月1日労判1179号20頁参照)。

そうしますと、労働期間の定めの有無や、労働時間数によって通勤費が異なるとは言えませんし、職務内容・配置変更の範囲が異なったとしても、これにより発生する通勤費に影響が生じる、つまり通勤費が増減すると言えませんので、正規雇用労働者と同一の通勤を行う非正規雇用労働者に対しては、原則として同一の通勤手当を支給する必要があると考えられます。

ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。」と定めています。

同一労働同一賃金交通費

もっとも、ガイドラインでは、待遇差があっても問題がない例、つまり合理的な待遇差と説明可能な例も定めています。
例えば、本社採用の労働者には交通費実費の全額に相当する通勤手当を支給する一方、それぞれの店舗採用の労働者に対しては、当該店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定している場合があります。

以上を踏まえて例①から③を検討してみましょう。

①はどうでしょうか。
①では正社員のみに通勤手当を支給していますので、他に正社員以外の労働者に通勤手当を支給しない合理的な説明ができないかぎり、不合理な待遇差と評価されるでしょう。
②については、改正前労働契約法第20条に基づく判断となりますが、ハマキョウレックス事件において不合理な待遇差と評価されています。
③は、ガイドラインにおいて問題ない例として挙げられていますので、合理的な待遇差と評価されるでしょう。

3.まとめ

今回は、同一労働同一賃金で問題となる通勤手当の待遇差について、ガイドライン等を基にご説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。

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2022.02.25

『同一労働同一賃金』とは?①

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

 

はじめに

「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、「パート・有期雇用労働法」といいます。)が2020年4月に施行され、いわゆる「同一労働同一賃金」がスタートしました。
中小企業については2021年4月から施行されましたので、全企業を対象に同制度がスタートしてもうすぐ1年になります。

最高裁判所も同制度施行前の労働契約法旧第20条に関する関する判断を相次いで示し、ニュースで取り上げられる等して注目が集まりました。
もっとも、「同一労働同一賃金という言葉は聞くし、対応が必要とは分かっているが結局よく分からずに対応できていない」といった事業者様も多いのではないでしょうか。 

そこで、今回から複数回にわたって「同一労働同一賃金」制度についてご説明させて頂きます。

1.同一労働同一賃金の概要

「同一労働同一賃金」とは、厚生労働省によれば「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。
2020年4月施工『同一労働同一賃金』とは?①

2.パート・有期雇用労働法(均等待遇・均衡待遇)について

この点について、パート・有期雇用労働法第8条では、以下のとおり、短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与等の待遇について、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けてはならないことを定めています。

パート・有期雇用労働法
第8条
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

更に、同法第9条では、以下のとおり通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者について、基本給、賞与等の待遇について、差別的取扱いをしてはならないことを定めています。

パート・有期雇用労働法
第9条
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

このように、パート・有期雇用労働法第8条では「均衡待遇」を、同法第9条では「均等待遇」を定めています。

「均衡待遇」とは、簡単に申し上げると「前提事情が異なる場合にはその違いに応じた取扱いをすべき」というものです。
例えば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の業務内容や責任の範囲が異なるのであれば、それの違いに応じて基本給等を支給する必要があります。

これに対し「均等待遇」とは、「前提事情が同一の場合には同じ扱いをすべき」というものです。
そのため、例えば職務の内容や責任の程度、配置転換の範囲等が正規雇用労働者と非正規雇用労働者と全く同一そのためあれば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金等の条件が同一である必要があります。

3.同一労働同一賃金ガイドライン

同一労働同一賃金の概要は以上のとおりですが、実際に正規雇用労働者と非正規雇用労働者に生じている待遇差について、どのような場合に不合理な待遇差となるのでしょうか。
この点、厚生労働省は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差が存在する場合の原則的な考え方を「同一労働同一賃金ガイドライン」で示しています。

同ガイドラインでは、典型的な事例として考えられるものについては「問題となる場合」と「問題とならない場合」を具体例として挙げています。
同ガイドラインは厚生労働省告示そのため、直ちに法的拘束力を有するものではありませんが、裁判所が判断を示すに際に参考にすることが想定されます。

したがって、パート・有期雇用労働法第8条、第9条の判断の一つの指標として同ガイドラインも参照しながら、法改正に対応していくことが肝要かと思われます。

4.まとめ

今回は、同一労働同一賃金制度の概要についてご説明させて頂きました。
次回からは、同ガイドラインを基に、基本給、その他の労働条件の待遇差について検討していきたいと思います。

弁護士坂本志乃執 筆
KOMODA LAW OFFICE 弁護士
坂本 志乃 SHINO SAKAMOTO
得意分野は労務、企業法務
座右の銘は『努力は人を裏切らない』

 

2022.01.31

管理監督者って何?

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

はじめに

皆さんは「管理監督者」という言葉をご存知でしょうか。
「管理」という響きから「管理監督者」=「管理職」と思われる方や、他方で「名ばかり管理職」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、「管理監督者」について詳しく説明させて頂きます。

1.管理監督者とは

労働基準法41条第2号では、「監督若しくは管理の地位にある者」については、労働時間、休憩及び休日に関する労働基準法の適用が除外されています。
この「監督若しくは管理の地位にある者」とは、いわゆる「管理監督者」のことを指します。
したがって、「管理監督者」に該当する場合は、労働時間、休息及び休日に関する労働基準法の規制の適用が除外されるため、時間外労働、法定休日労働に対する割増賃金の支払いが不要となります(なお、深夜労働に対する割増賃金の支払いは「管理監督者」に該当する場合でも必要です)。

2.管理監督者の要件

労働基準法上の「管理監督者」に当たる場合、割増賃金の支払いが不要であることは分かりました。
それでは、課長、部長、店長等の会社内で管理職としての地位にある人は「管理監督者」に該当し、割増賃金の支払いが不要になるのでしょうか。

労働基準法の「管理監督者」に該当するかは、職務の内容、権限、責任、勤務態度等の実態に基づいて判断するとされており、名称のみで判断されることはありません。

具体的には、以下の3点を総合考慮して判断することになります。

①重要な職務内容、責任と権限を有していること
②現実の勤怠態様も、労働時間等の規制になじまないものであること
③賃金等について地位にふさわしい待遇であること

各要件を詳しく見ていきますが、まず、①の要件である「重要な職務内容、責任と権限を有していること」とは、労働条件の決定その他の労務管理、会社の経営方針に関して経営者と一体的な立場にあり、裁量と権限を有していることが必要です。
そのため、例えば従業員の採用の人選の権限は有しているが、最終的な決定権限や労働条件の決定権限が付与されていない場合だと、管理監督者性が否定されやすいでしょう。

次に、②については、労働時間について自らの裁量で自由に決定できることが重要になります。
管理監督者であれば、経営上の判断や対応を迫られる場合があるため、労務管理においても一般の従業員とは異なる立場にある必要があると考えられています。
したがって、例えば始業・終業時間が通常の従業員と同一に統一されている場合だと、労働時間に関する裁量が認められないため、管理監督者性が否定されやすいでしょう。

最後に、③については、管理監督者には深夜時間に対する割増賃金以外の割増賃金が支払われないことに見合うだけの相応の待遇がなされている必要があります。
例えば、賃金総額が一般の従業員の賃金総額を同程度以下である場合や、時給単価に換算した賃金額がアルバイト、パート等の時給に満たず、かつ最低賃金にも満たない場合は、労働監督者性が否定される可能性が高いでしょう。

管理監督者

3.名ばかり管理職に注意が必要

以上のとおり、「管理監督者」として認められるためには、経営者と一体的な立場、それに近接する実態が必要となります。
この「管理監督者」に注目が集まったのは、小売業や飲食業等で多店舗展開をしている会社において、正社員である店長等を労働基準法の「管理監督者」として運用していたところ、店長等に会社に対して未払割増賃金請求訴訟を提起したことがきっかけです。
訴訟では店長が「管理監督者」に該当するかが争点になりましたが、店長の具体的な勤務実態から管理監督者性は否定され、「名ばかり管理職」として大きな問題となりました。

管理監督者性の判断はあくまでも個別具体的な判断になりますが、以上を踏まえても安易な運用は避けるべきと思われます。

4.まとめ

今回は、労働基準法の「管理監督者」についてご説明致しました。
管理職と言われる従業員を一律に「管理監督者」として扱っていると、いきなり未払割増賃金の請求を受ける可能性があります。
会社の運用が適切であるか、一度労務管理に強い弁護士にご相談されることをお勧め致します。

 

弁護士坂本志乃執 筆
KOMODA LAW OFFICE 弁護士
坂本 志乃 SHINO SAKAMOTO
得意分野は労務、企業法務
座右の銘は『努力は人を裏切らない』

 

2022.01.05

テレワーク中の労務管理の方法は?

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的感染爆発に伴い、日本でも緊急事態宣言が発令され、企業においてテレワーク(在宅勤務)の導入が進んだのではないでしょうか。

もっとも、テレワークを導入された企業の中にも、昨今のコロナ禍により事前準備が不十分なまま急遽テレワークを導入した企業も多く、その後の対応に苦慮されているのではないでしょうか。
今回は、テレワーク中の労務管理の方法について解説させて頂きます。

1.労働時間管理の必要性

法律上、使用者は労働者の労働時間を適切に把握・管理する義務があります(労働安全衛生法第66条の8の3)。
具体的には、以下のいずれかの方法で労働時間の管理を行う必要があります(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)参照)。

管理方法
①使用者が、自ら現認することにより確認し、記録をすること。
②タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
③自己申告制を用いる場合でも、従業員だけでなく労働時間の管理者に対して当該ガイドラインによる措置について十分な説明行ったうえで、以下の措置を講ずる必要があります。

ア 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
イ 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。 また、36協定の延長することができる時間数を超えて労働をしているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者において慣習的に行われていないか確認すること。

2.テレワーク中の労働時間管理

上記1で説明した労働時間管理の方法はテレワークにおいても当然に当てはまります。
テレワークの場合、会社に出勤して業務を行う場合と異なり、必然的に自己申告により労働時間を把握せざるを得ません。
そのため、上記③の方法により適正に労働時間を管理していく必要があります。

例えば、始業・終業の報告をメール等で個別に報告してもらう方法も考えられますが、従業員数が多い企業では、このような方法だと管理が煩雑になる可能性があります。

したがって、効率化の観点からみればクラウド型勤怠管理システムの利用する方法がより適切と思われます。
なお、テレワークに伴い休憩時間を一斉付与することができない場合には、事前に労使協定を締結する必要があります。

テレワーク中の労務管理の方法は?

3.テレワーク中のさぼりは防げる?

企業の中には、「クラウドシステムを用いて勤怠管理は行っているが、従業員が労働時間中に業務に従事しているか分からない、状況が見えないからもしかしてネットサーフィンをしたり等、さぼっている可能性があるのでは?」と思案することも多いのではないでしょうか。

そこで、例えばwebカメラ・ビデオ等を用いてテレワーク中の従業員の状況をモニタリングすることはできるのでしょうか。

この点については、従業員のプライバシーへの配慮の観点からの検討が必要となります。
Webカメラを用いてモニタリングを行う場合、自宅でのテレワーク中であれば自宅内の様子がカメラに写り込んでしまう可能性があります。

したがって、無制限にこれを行うとプライバシー侵害により違法となる可能性があるため、モニタリングを行うにあたっては事前に規程を設け、当該規程を基にモニタリングを適切に実施することが適切と思われます。
また、規程には少なくとも以下の点については定めておく必要があると考えられます。

①モニタリングの目的
②モニタリングの実施に関する責任者と権限の内容
③モニタリングの対象者
④モニタリング時の禁止事項等

4.まとめ

今回は、テレワーク中の労務管理方法について解説させて頂きました。
テレワーク中の労務管理でお悩みの場合は、是非一度労務管理に強い弁護士にご相談されることをお勧め致します。

 

弁護士坂本志乃執 筆
KOMODA LAW OFFICE 弁護士
坂本 志乃 SHINO SAKAMOTO
得意分野は労務、企業法務
座右の銘は『努力は人を裏切らない』

 

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