『同一労働同一賃金』とは?④ ~食事手当編~
はじめに
前回はガイドラインを基に、所謂「作業手当」、つまり業務の危険度又は作業環境に応じて支給される手当に関して正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点について説明させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?③ ~作業手当編~
今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する諸手当のうち、「食事手当」の性質を有する手当について正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題ないか、説明させていただきたいと思います。
1.同一労働同一賃金とは?
振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。
2.食事手当の取扱いについて
⑴ 食事手当とは
ここでいう「食事手当」とは、労働時間の途中に食事のための休憩時間がある労働者に対して、食費の負担補助として支給される手当を指します。
⑵ 食事手当の待遇差がある例
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で食事手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。
①正社員に対しては食事手当を一律月額5,000円支給するが、正社員と同一の職務内容と勤務形態である契約社員には支給しない場合。
②正社員だけでなく非正規雇用労働者にも食事手当を支給するが、正社員に対する支給額を非正規雇用労働者よりも高く設定する場合。
③全従業員のうち、食事のための休憩時間をとる必要がない短時間労働者のみを支給対象外とする場合。
などが、考えられます。
⑶ 食事手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑵で挙げた例①から③のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるのでしょうか。
この点を考えるにあたっては、これまでの回と同様に「食事手当」の性質を考える必要があります。
そうしますと、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の職務内容、及び勤務形態に違いがないのであれば、食事手当の支給の取扱いの相違を設ける必要性は見出せません。
また、仮に職務の内容・配置の変更の範囲が異なったとしても、勤務中に食事を取る必要性やその程度に影響を及ぼすものはありません。
したがって、正規雇用労働者と同一の勤務形態で勤務する非正規雇用労働者に対しては、原則として正規雇用労働者と同様の食事手当を支給する必要があると考えられます。
ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の食事手当を支給しなければならない。」と定めています。
そうしますと、例①については、正社員と契約社員の職務内容、勤務形態等が同一で、双方とも勤務時間の途中に食事のための休憩時間が付与されているにもかかわらず、正社員のみに食事手当が支給されていますので、不合理な待遇差と評価されるでしょう。
同様に、非正規雇用労働者に勤務時間の途中に食事のための休憩時間が付与されている場合、正社員と比較して支給額に差異を設ける必要性はないと考えられますので、例②についても不合理な待遇差と判断される可能性が高いでしょう。
ガイドラインにおいても、問題となる例として「通常の労働者に対して、有機雇用労働者に比べ、食事手当を高く支給している」場合をあげています。
他方で、 上述した食事手当の趣旨から考えますと、そもそも労働時間の途中に食事のために休憩することが予定されていない勤務形態である非正規雇用労働者に対して食事手当を支給していないとしても、直ちに不合理な待遇差とは評価されないものと思われます。
ガイドラインにおいても、問題とならない例として、「労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後2時から午後5時までの勤務)短時間労働者に対して食事手当を支給しない」場合をあげています。
そうしますと、例③については、同様に考えて不合理な待遇差とはまではいえないと考えられます。
3.まとめ
今回は、同一労働同一賃金で問題となる食事手当の待遇差について、ガイドライン等を基に説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。

KOMODA LAW OFFICE 弁護士
坂本 志乃 SHINO SAKAMOTO
得意分野は労務、企業法務。
座右の銘は『努力は人を裏切らない』
『同一労働同一賃金』とは?③ ~作業手当編~
はじめに
前回はガイドラインを基に、会社が従業員に支給する交通費、所謂「通勤手当」に正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点について説明させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?② ~通勤手当編~
今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する諸手当のうち「作業手当」の性質を有する手当について正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題ないか、説明させていただきたいと思います。
1.同一労働同一賃金とは?
振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。
2.作業手当の取扱いについて
⑴ 作業手当とは
ここで「作業手当」について簡単に説明させていただきます。
ここでいう「作業手当」とは、業務の危険度又は作業環境に応じて支給される手当を指します。
・高所作業に従事する労働者に対して「高所(作業)手当」として支給する場合
・運送ドライバーに対し、貨物の積み込み・積み下ろし作業(荷役作業)に対する手当として支給する場合
などが考えられます。
⑵ 作業手当の待遇差がある例
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で作業手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。
①運送ドライバーである正社員に対しては、荷受作業に対する手当として作業手当を支給するのに対し、業務の内容及び責任の程度が同一である契約社員に対しては、作業手当を支給しない場合
②高所作業に従事する作業員である正社員に対しては、高所作業手当を支給するのに対し、同様の作業に従事する短時間労働者については、高所作業に従事する点を加算して時給を決定している場合
などが、考えられます。
⑶ 作業手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑵で挙げた例①および例②のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるのでしょうか。
この点を考えるにあたっては、前回と同様に「作業手当」の性質を考える必要があります。
したがって、特定の作業の対価として支給される性質を有する賃金であって、職務の内容・配置の変更の範囲が異なったとしても、作業内容に対する対価の評価が異なるとは考え難いため、正規雇用労働者と同一の作業を行う非正規雇用労働者に対しては、原則として正規雇用労働者と同様の作業手当を支給する必要があると考えられます。
ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「通常の労働者と同一の危険度又は作業環境の業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊作業手当を支給しなければならない。」と定めています。
そうしますと、例①については、正社員と契約社員の業務内容は同一にもかかわらず、同一の業務に対して正社員のみに作業手当が支給されていますので、不合理な待遇差と評価されるでしょう。
他方で、正社員と同一の作業に従事する非正規労働者の時給決定時に、作業内容を考慮して時給を決定するため他の非正規雇用労働者の時給水準よりも高くなっている、又は別の手当として支給している等、実質的に当該作業に対する対価が支給されていると評価可能な場合については、正規雇用労働者と同一の手当を支給していないとしても、不合理な待遇差とまでは言えないと評価される可能性があるでしょう。
そうしますと、例②については、同様に考えて不合理な待遇差とはいえないということになりますね。
3.まとめ
今回は、同一労働同一賃金で問題となる作業手当の待遇差について、ガイドライン等を基にご説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。

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『同一労働同一賃金』とは?② ~通勤手当編~
はじめに
前回は「同一労働同一賃金」の概要、そして「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止に関する指針」(以下「ガイドライン」といいます。)について簡単にお話させていただきました。
前回のブログはこちらから:『同一労働同一賃金』とは?①
今回は、ガイドラインを基に、会社が従業員に支給する交通費、所謂「通勤手当」に正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差がある場合、この待遇差が同一労働同一賃金の点で問題がないかという点についてご説明させていただきたいと思います。
1.同一労働同一賃金とは?
前回の振り返りとなりますが、再度「同一労働同一賃金」について簡単に説明しますと、同一労働同一賃金とは、「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。
2.通勤手当の取扱いについて
⑴通勤手当の待遇差がある場合
それでは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で通勤手当の待遇がある場合とはどのような場合でしょうか。
例えば、①正社員には1ヶ月分の定期代相当額を通勤手当として支給するが、契約社員、パート、アルバイトには通勤手当を支給しない場合が考えらえます。
この例は極端ですが、他にも例えば②契約社員と交通手段、通勤距離が共に同じ正社員に対しては、月額5,000円の通勤手当を支給し、他方で契約社員には月額3,000円を支給する場合や、③正社員や正社員と同様の所定労働日数である契約社員・パート等には1月分の定期代相当額を通勤手当として支給し、所定労働日数が少ない、又は出勤日数が変動する契約社員・パート等には出勤した日額の交通費を支給する場合、等があります。
⑵通勤手当の待遇差が「不合理」と評価される場合
上記⑴で挙げた例①から③のうち、どの例が「不合理」な待遇差になるか考えてみましょう。
この点を考えるにあたっては、「通勤手当」の性質を考える必要があります。
「通勤手当」とは、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるものです(「ハマキョウレックス事件」最判平成30年6月1日労判1179号20頁参照)。
そうしますと、労働期間の定めの有無や、労働時間数によって通勤費が異なるとは言えませんし、職務内容・配置変更の範囲が異なったとしても、これにより発生する通勤費に影響が生じる、つまり通勤費が増減すると言えませんので、正規雇用労働者と同一の通勤を行う非正規雇用労働者に対しては、原則として同一の通勤手当を支給する必要があると考えられます。
ガイドラインにおいても、原則的な考え方として「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。」と定めています。
もっとも、ガイドラインでは、待遇差があっても問題がない例、つまり合理的な待遇差と説明可能な例も定めています。
例えば、本社採用の労働者には交通費実費の全額に相当する通勤手当を支給する一方、それぞれの店舗採用の労働者に対しては、当該店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定している場合があります。
以上を踏まえて例①から③を検討してみましょう。
①はどうでしょうか。
①では正社員のみに通勤手当を支給していますので、他に正社員以外の労働者に通勤手当を支給しない合理的な説明ができないかぎり、不合理な待遇差と評価されるでしょう。
②については、改正前労働契約法第20条に基づく判断となりますが、ハマキョウレックス事件において不合理な待遇差と評価されています。
③は、ガイドラインにおいて問題ない例として挙げられていますので、合理的な待遇差と評価されるでしょう。
3.まとめ
今回は、同一労働同一賃金で問題となる通勤手当の待遇差について、ガイドライン等を基にご説明させていただきました。
同一労働同一賃金の対応にお困りでしたら、一度労務関係に強い専門家にご相談されることをお勧めいたします。

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座右の銘は『努力は人を裏切らない』
『同一労働同一賃金』とは?①
はじめに
「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下、「パート・有期雇用労働法」といいます。)が2020年4月に施行され、いわゆる「同一労働同一賃金」がスタートしました。
中小企業については2021年4月から施行されましたので、全企業を対象に同制度がスタートしてもうすぐ1年になります。
最高裁判所も同制度施行前の労働契約法旧第20条に関する関する判断を相次いで示し、ニュースで取り上げられる等して注目が集まりました。
もっとも、「同一労働同一賃金という言葉は聞くし、対応が必要とは分かっているが結局よく分からずに対応できていない」といった事業者様も多いのではないでしょうか。
そこで、今回から複数回にわたって「同一労働同一賃金」制度についてご説明させて頂きます。
1.同一労働同一賃金の概要
「同一労働同一賃金」とは、厚生労働省によれば「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消をめざすもの」とされています。
したがって、会社内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者に基本給等の労働条件に待遇差が存在する場合、その待遇差が「不合理」な待遇差であるか「合理的」な待遇差であるかを検討・判断する必要があります。
2.パート・有期雇用労働法(均等待遇・均衡待遇)について
この点について、パート・有期雇用労働法第8条では、以下のとおり、短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与等の待遇について、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けてはならないことを定めています。
第8条
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
更に、同法第9条では、以下のとおり通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者について、基本給、賞与等の待遇について、差別的取扱いをしてはならないことを定めています。
第9条
事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。
このように、パート・有期雇用労働法第8条では「均衡待遇」を、同法第9条では「均等待遇」を定めています。
「均衡待遇」とは、簡単に申し上げると「前提事情が異なる場合にはその違いに応じた取扱いをすべき」というものです。
例えば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の業務内容や責任の範囲が異なるのであれば、それの違いに応じて基本給等を支給する必要があります。
これに対し「均等待遇」とは、「前提事情が同一の場合には同じ扱いをすべき」というものです。
そのため、例えば職務の内容や責任の程度、配置転換の範囲等が正規雇用労働者と非正規雇用労働者と全く同一そのためあれば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金等の条件が同一である必要があります。
3.同一労働同一賃金ガイドライン
同一労働同一賃金の概要は以上のとおりですが、実際に正規雇用労働者と非正規雇用労働者に生じている待遇差について、どのような場合に不合理な待遇差となるのでしょうか。
この点、厚生労働省は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に待遇差が存在する場合の原則的な考え方を「同一労働同一賃金ガイドライン」で示しています。
同ガイドラインでは、典型的な事例として考えられるものについては「問題となる場合」と「問題とならない場合」を具体例として挙げています。
同ガイドラインは厚生労働省告示そのため、直ちに法的拘束力を有するものではありませんが、裁判所が判断を示すに際に参考にすることが想定されます。
したがって、パート・有期雇用労働法第8条、第9条の判断の一つの指標として同ガイドラインも参照しながら、法改正に対応していくことが肝要かと思われます。
4.まとめ
今回は、同一労働同一賃金制度の概要についてご説明させて頂きました。
次回からは、同ガイドラインを基に、基本給、その他の労働条件の待遇差について検討していきたいと思います。

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管理監督者って何?
はじめに
皆さんは「管理監督者」という言葉をご存知でしょうか。
「管理」という響きから「管理監督者」=「管理職」と思われる方や、他方で「名ばかり管理職」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、「管理監督者」について詳しく説明させて頂きます。
1.管理監督者とは
労働基準法41条第2号では、「監督若しくは管理の地位にある者」については、労働時間、休憩及び休日に関する労働基準法の適用が除外されています。
この「監督若しくは管理の地位にある者」とは、いわゆる「管理監督者」のことを指します。
したがって、「管理監督者」に該当する場合は、労働時間、休息及び休日に関する労働基準法の規制の適用が除外されるため、時間外労働、法定休日労働に対する割増賃金の支払いが不要となります(なお、深夜労働に対する割増賃金の支払いは「管理監督者」に該当する場合でも必要です)。
2.管理監督者の要件
労働基準法上の「管理監督者」に当たる場合、割増賃金の支払いが不要であることは分かりました。
それでは、課長、部長、店長等の会社内で管理職としての地位にある人は「管理監督者」に該当し、割増賃金の支払いが不要になるのでしょうか。
労働基準法の「管理監督者」に該当するかは、職務の内容、権限、責任、勤務態度等の実態に基づいて判断するとされており、名称のみで判断されることはありません。
具体的には、以下の3点を総合考慮して判断することになります。
②現実の勤怠態様も、労働時間等の規制になじまないものであること
③賃金等について地位にふさわしい待遇であること
各要件を詳しく見ていきますが、まず、①の要件である「重要な職務内容、責任と権限を有していること」とは、労働条件の決定その他の労務管理、会社の経営方針に関して経営者と一体的な立場にあり、裁量と権限を有していることが必要です。
そのため、例えば従業員の採用の人選の権限は有しているが、最終的な決定権限や労働条件の決定権限が付与されていない場合だと、管理監督者性が否定されやすいでしょう。
次に、②については、労働時間について自らの裁量で自由に決定できることが重要になります。
管理監督者であれば、経営上の判断や対応を迫られる場合があるため、労務管理においても一般の従業員とは異なる立場にある必要があると考えられています。
したがって、例えば始業・終業時間が通常の従業員と同一に統一されている場合だと、労働時間に関する裁量が認められないため、管理監督者性が否定されやすいでしょう。
最後に、③については、管理監督者には深夜時間に対する割増賃金以外の割増賃金が支払われないことに見合うだけの相応の待遇がなされている必要があります。
例えば、賃金総額が一般の従業員の賃金総額を同程度以下である場合や、時給単価に換算した賃金額がアルバイト、パート等の時給に満たず、かつ最低賃金にも満たない場合は、労働監督者性が否定される可能性が高いでしょう。
3.名ばかり管理職に注意が必要
以上のとおり、「管理監督者」として認められるためには、経営者と一体的な立場、それに近接する実態が必要となります。
この「管理監督者」に注目が集まったのは、小売業や飲食業等で多店舗展開をしている会社において、正社員である店長等を労働基準法の「管理監督者」として運用していたところ、店長等に会社に対して未払割増賃金請求訴訟を提起したことがきっかけです。
訴訟では店長が「管理監督者」に該当するかが争点になりましたが、店長の具体的な勤務実態から管理監督者性は否定され、「名ばかり管理職」として大きな問題となりました。
管理監督者性の判断はあくまでも個別具体的な判断になりますが、以上を踏まえても安易な運用は避けるべきと思われます。
4.まとめ
今回は、労働基準法の「管理監督者」についてご説明致しました。
管理職と言われる従業員を一律に「管理監督者」として扱っていると、いきなり未払割増賃金の請求を受ける可能性があります。
会社の運用が適切であるか、一度労務管理に強い弁護士にご相談されることをお勧め致します。

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テレワーク中の労務管理の方法は?
2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的感染爆発に伴い、日本でも緊急事態宣言が発令され、企業においてテレワーク(在宅勤務)の導入が進んだのではないでしょうか。
もっとも、テレワークを導入された企業の中にも、昨今のコロナ禍により事前準備が不十分なまま急遽テレワークを導入した企業も多く、その後の対応に苦慮されているのではないでしょうか。
今回は、テレワーク中の労務管理の方法について解説させて頂きます。
1.労働時間管理の必要性
法律上、使用者は労働者の労働時間を適切に把握・管理する義務があります(労働安全衛生法第66条の8の3)。
具体的には、以下のいずれかの方法で労働時間の管理を行う必要があります(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)参照)。
管理方法
①使用者が、自ら現認することにより確認し、記録をすること。
②タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
③自己申告制を用いる場合でも、従業員だけでなく労働時間の管理者に対して当該ガイドラインによる措置について十分な説明行ったうえで、以下の措置を講ずる必要があります。
ア 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
イ 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。 また、36協定の延長することができる時間数を超えて労働をしているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者において慣習的に行われていないか確認すること。
2.テレワーク中の労働時間管理
上記1で説明した労働時間管理の方法はテレワークにおいても当然に当てはまります。
テレワークの場合、会社に出勤して業務を行う場合と異なり、必然的に自己申告により労働時間を把握せざるを得ません。
そのため、上記③の方法により適正に労働時間を管理していく必要があります。
例えば、始業・終業の報告をメール等で個別に報告してもらう方法も考えられますが、従業員数が多い企業では、このような方法だと管理が煩雑になる可能性があります。
したがって、効率化の観点からみればクラウド型勤怠管理システムの利用する方法がより適切と思われます。
なお、テレワークに伴い休憩時間を一斉付与することができない場合には、事前に労使協定を締結する必要があります。
3.テレワーク中のさぼりは防げる?
企業の中には、「クラウドシステムを用いて勤怠管理は行っているが、従業員が労働時間中に業務に従事しているか分からない、状況が見えないからもしかしてネットサーフィンをしたり等、さぼっている可能性があるのでは?」と思案することも多いのではないでしょうか。
そこで、例えばwebカメラ・ビデオ等を用いてテレワーク中の従業員の状況をモニタリングすることはできるのでしょうか。
この点については、従業員のプライバシーへの配慮の観点からの検討が必要となります。
Webカメラを用いてモニタリングを行う場合、自宅でのテレワーク中であれば自宅内の様子がカメラに写り込んでしまう可能性があります。
したがって、無制限にこれを行うとプライバシー侵害により違法となる可能性があるため、モニタリングを行うにあたっては事前に規程を設け、当該規程を基にモニタリングを適切に実施することが適切と思われます。
また、規程には少なくとも以下の点については定めておく必要があると考えられます。
②モニタリングの実施に関する責任者と権限の内容
③モニタリングの対象者
④モニタリング時の禁止事項等
4.まとめ
今回は、テレワーク中の労務管理方法について解説させて頂きました。
テレワーク中の労務管理でお悩みの場合は、是非一度労務管理に強い弁護士にご相談されることをお勧め致します。

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経理の定例業務|労務コラム
今回の記事では、経理の定例業務についてお話します。経理は、税金や会計に関する業務全般に携わります。そのため,迅速・正確に処理を行うことが求められます。
<経理の定例業務>
・償却資産申告書の提出(1月)
毎年1月31日までに償却資産申告書を市町村に提出します。ただし、所轄の市区町村から送られてくる「申告の手引き」において、市町村以外の提出先が記載されている場合はそちらに提出します。
・所得税の納付(毎月、一定の場合は1月及び7)
毎月給与から差し引く所得税は、翌月10日までに銀行または税務署で納付します。ただし、給与を支払う従業員が常時10名未満で、納期の特例制度を利用している場合は、6か月分を1月と7月に一括で納付できます。
・決算準備・決算(3月~4月※)
会社は、事業年度(通常は1年間)における業績について、貸借対照表や損益計算書などの書類を作成し、定時株主総会で当該事業年度の業績の報告を行い、そこで承認された内容に基づく税金の申告を行います。このように、企業会計で、一会計期間の経営成績と期末の財政状態とを明らかにするために行う手続きを決算といいます。
・法人税申告書、法人事業税・住民税申告書、消費税申告書の提出(5月※)
株主総会で承認を受けた内容に基づく法人税申告書、法人事業税・住民税申告書、消費税申告書を作成し、期末から2か月以内に税務署に提出します。
・住民税の納付(毎月、一定の場合は6月及び12月)
所得税同様、毎月給与から差し引く住民税は、翌月10日までに納付します。ただし、給与を支払う従業員が常時10名未満で、納期の特例制度を利用している場合は、6か月分を6月と12月に一括で納付できます。
※3月末決算の場合の時期です。
社会保障、労務でお悩みの経営者の方はKOMODA LAW OFFICE(菰田総合法律事務所)へご相談ください。
博多・那珂川に各オフィスがあるので、お住まいや職場に近いオフィスで相談可能です。
福岡県内(福岡市、那珂川市、大野城市、糸島市…)、佐賀県など九州各県の方もお気軽に0120-755-687までお問い合わせください。
人事の定例業務|労務コラム
今回の記事では、人事の定例業務についてお話します。人事は、入社・退社などの従業員に関する手続き全般に携わります。従業員の個人情報を扱うので、漏洩させることがないように十分に注意する必要があります。
<人事の定例業務>
・健康保険・介護保険料率改定の確認(3月)
毎年3月に健康保険と介護保険の保険料率が改定されるので、最新の保険料額表を準備・確認します。
・雇用保険料率改定の確認(4月)
毎年4月に雇用保険の保険料率が改定されるので、最新の雇用保険料率表を準備・確認します。
・労働保険の年度更新手続き(6月)
毎年6月1日から7月10日までの間に労働保険概算・確定保険料申告書の提出と保険料の納付を行います。
・特別徴収税額の更新(6月)
毎年5月末頃までに会社に送られてくる特別徴収税額通知書を確認して、6月からはこの通知書に基づいた住民税額を給与から控除します。
・社会保険の定時決定(7月)
毎年7月10日までに健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届を年金事務所に提出します。
・社会保険の標準報酬月額等級の更新(9月)
前述した算定基礎届の提出により新しい社会保険料が決定したら、9月からはこの決定に基づいた保険料額を給与から控除します。
・厚生年金保険料率改定の確認(9月)
毎年9月に厚生年金保険の保険料率が改定されるので、最新の保険料額表を準備・確認します。
・年末調整(12月)
年末調整を行い作成した支払報告書を市町村に、源泉徴収票と法定調書合計表を税務署に提出します。
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総務の定例業務|労務コラム
皆さんは会社の「事務」にどのようなイメージをお持ちでしょうか?偏に事務といっても、総務、人事、経理など様々な業務があります。そこで、今回の記事から3回にわたって、会社の「事務」の仕事についてご紹介します。
まず、今回の記事では総務の定例業務についてお話します。総務は、会社の全ての部署と関わりながら、会社全体が円滑に業務を行うことができるように、幅広い業務に対応し、サポートを行います。官公庁や取引先の会社など社外の人と関わる機会も多いです。
<総務の定例業務>
・株主総会の開催(4月~5月※)
会社の決算が終わったら、株主総会を開催する必要があります。株主総会を開催するにあたり、事業報告や計算書類などの資料を準備しなければなりません。株主総会は、一般的に決算日から2~3か月以内に行い、開催したら、必ず株主総会議事録を作成します。
・役員改選等の登記手続き(5月※)
上記株主総会で役員の改選等が行われた場合は、役員の変更が生じた日から2週間以内に役員変更の登記をしなければなりません。
※3月末決算の場合の時期です。
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賞与計算の流れ③ 給与明細、賞与支払届の作成・提出|労務コラム
これまでの記事では、賞与の概要、支給する賞与額の確認、保険料・税の計算方法についてご説明しました。
最後に、賞与計算の流れ①②で計算した賞与額と控除額をもとに、賞与明細を作成して従業員に交付します。
また、賞与を支給する際は、「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」と「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届総括表」を作成し、支給日から5日以内にこれらの書類を管轄の年金事務所に提出する必要があります。
提出すると、納入告知書によって賞与に係る保険料が通知されます。この告知書に基づき、支給月の翌月末日までに健康保険料と厚生年金保険料を納付しましょう。
賞与計算は、給与計算の流れと似ていますが、保険料・税の計算方法が異なり、また、賞与支払届の提出が必要です。さらに、毎月行う給与計算と違って、賞与計算は年に数回の業務なので、慣れるまでは大変かと思います。賞与を支給する時期を迎える前に、一連の流れを確認しておきましょう。
従業員の給与計算・賞与計算のことでお困りの企業の方、KOMODA LAW OFFICE(菰田総合法律事務所)にお任せください!
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