無期転換雇用に潜むリスク
前回ご説明した通り、特段の合意がなされていない限り、有期雇用から無期雇用への雇用形態の変更により、自動的に労働時間、賃金、その他の労働条件が正社員と同一の労働条件に変更はされる訳ではありません(労働契約法第18条1項)。
しかしながら、「無期転換ルール」導入後も、就業規則の適用対象者の定め方いかんによっては、使用者としては、雇用期間以外の労働条件は有期雇用労働者と変わらないと考えているにもかかわらず、無期転換労働者に正社員の就業規則が適用されてしまうケースもあります。そのため、企業においては、就業規則の整備が必要不可欠となります。
例えば、就業規則において、正社員の定義規定で、期間の定めのない労働契約を締結している労働者を正社員とする旨が定められているならば、無期転換労働者にも、正社員の就業規則が適用されることになります。無期転換労働者全員が正社員と同一の労働条件となった場合、人件費等の大幅な増大に繋がり、経営を圧迫する要因となります。
また、無期転換労働者の労働条件を従前の有期雇用の条件と同一にし、有期雇用者の就業規則を適用しようとしても、有期雇用労働者の就業規則の場合、「定年」や「休職制度」等の定めがなく、服務規律や懲戒・解雇に関する規定が不十分である等の問題があります。
そのため、無期転換雇用者の労働条件と従前と同一にする場合でも、有期雇用労働者の就業規則をベースとしながら、必要な修正を行い無期転換労働者に適用される就業規則を整備する必要があります。企業としては、一度、就業規則をきちんと確認をした方が良いでしょう。
また、企業側のリスクとして「解雇」にかかる問題が挙げられます。有期雇用の場合は契約期間が明確に定められており、経営状況に合わせて契約更新を判断し、場合によっては雇止めを行う等して、雇用人数を調整していました。
しかしながら、無期雇用形態の労働者の場合、解雇を行うにあたっては、労働契約法第16条に基づく厳格な解雇規制が適用されます。そのため、経営状況に合わせた雇用人数や人件費の調整を行うのが難しくなっています。
労務や経営リスクでお悩みの経営者の方は菰田総合法律事務所へご相談ください。博多・那珂川に各オフィスがあるので、お住まいや職場に近いオフィスで相談可能です。福岡県内(福岡市、那珂川市、大野城市、糸島市…)、佐賀県など九州各県の方もお気軽に0120-755-687までお問い合わせください。
有期契約雇用と無期契約雇用の違い
平成25年4月1日に施行された労働契約法の改正において、いわゆる「無期転換ルール」が定められました。無期転換ルールとは「有期雇用されている期間が5年を超える場合は、労働者は無期雇用に切り替えを求めることができる(労働契約法第18条1項)」というルールです。対象者は、有期契約社員やアルバイトなどの有期雇用労働者です。
企業は対象者から、無期雇用転換の労働契約の申込みがあった場合には、対象者からの申し入れを拒否することが出来ないようになっています。そして、同条は平成25年4月1日以降締結された有期雇用労働契約に適用されます。
有期雇用と無期雇用の違いは、「雇用期間に定めがある雇用」か「雇用期間に定めが無い雇用」か、という点です。ここで、企業が理解しておかなければならない点は、「無期雇用に転換になる=正社員」ではないという事です。
雇用の形態が無期雇用に変更されたとしても、個別の合意、就業規則、労働協約等の特段の合意がなされていない限り、契約期間の定め以外の労働時間、賃金、その他の労働条件は有期雇用時と同一のものになります。
要するに、「無期転換ルール」とは、あくまで雇用期間の変更に過ぎないのであって、その他の労働条件が自動的に正社員と同一になるわけではないので、ご注意ください。
経営マネジメントリスクをお考えの方は菰田総合法律事務所へご相談ください。
博多・那珂川に各オフィスがあるので、お住まいや職場に近いオフィスで相談可能です。
福岡県内(福岡市、糟屋郡、古賀市、北九州市…)、佐賀県、大分県など九州各県の方もお気軽に0120-755-687までお問い合わせください。
【社会保険】従業員の保険料控除と事業主の納付
①被保険者(従業員)からの保険料控除
資格取得日(被保険者となる日のことをいいます。)が含まれる賃金計算期間から、社会保険料の控除を開始します。
控除する保険料額は、標準報酬月額決定通知書の記載を元に保険料額表の「折半額」で確認できます。
例:4月分を5月支給の場合、5月支給分の給料より4月分の社会保険料を控除することになります。
②事業主の納付
ア)納付金額
事業主は、被保険者から徴収した社会保険料に事業主負担分を合わせて納付します。
保険料は、保険料額表の「全額」部分、もしくは、単純に従業員の社会保険料を2倍すると確認できます。
イ)納付方法
新規適用日の翌月末日が第1回納付日です。
例1:4月1日新規適用日の場合は、5月末日が第一回納付日となります。
例2:8月勤務分の給与を9月支給する場合は、9月で支給した給与から控除した8月分の保険料に事業主負担分を加算した額を、9月末に納付することになります。
※納付日が近づきましたら、納付用紙が届きます。口座振替をご希望でしたら、『口座振替申請書』の提出により2~3か月で口座振替となりますが、それまでは、納付書での納付となります。
社会保障、労務でお悩みの経営者の方は菰田総合法律事務所へご相談ください。
博多・那珂川に各オフィスがあるので、お住まいや職場に近いオフィスで相談可能です。
福岡県内(福岡市、糟屋郡、古賀市、北九州市…)、佐賀県、大分県など九州各県の方もお気軽に0120-755-687までお問い合わせください。
【社会保険】事業所の加入の手続き
各必要書類申請書等の記入例はこちらから確認することができます。(外部サイトへジャンプします。)
※1 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/kenpo-todoke/jigyosho/20141205.files/20160928.pdf
※2 被保険者資格取得届
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/kenpo-todoke/hihokensha/20140718.files/0000002415r.pdf
※3 任意適用申請書
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/kenpo-todoke/jigyosho/20140430.files/0000002397r.pdf
社会保障、労務でお悩みの経営者の方は菰田総合法律事務所へご相談ください。
博多・那珂川に各オフィスがあるので、お住まいや職場に近いオフィスで相談可能です。
福岡県内(福岡市、那珂川市、大野城市、糸島市…)、佐賀県など九州各県の方もお気軽に0120-755-687までお問い合わせください。
【社会保険】事業所の加入
社会保険に加入出来る事業所のことを、『適用事業所』といいます。
適用事業所には『強制適用事業所』と『任意適用事業所』があります。以下に説明します。
①強制適用事業所とは
次の要件に該当する事業所は、必ず加入しなければならず、このような事業所を強制適用事業所といいます。
ア)常時1名以上の従業員を使用する法人の事業所
イ)常時5人以上の従業員を使用する適用業種の個人事業所
<適用業種>
下記に記載する非適用業種以外の業種のことをいいます。
<非適用業種>
農林水産畜産業、飲食店、理容、ホテル・旅館、料理店、映画館、その他娯楽、法務業(士業)宗教業などの業種をいいます。
②任意適用事業所とは
強制適用事業所以外の事業所の中で、社会保険の適用を受けたい場合に、申請により適用事業所になれる事業所をいいます。
※なお、任意適用事業所となるためには、被保険者となるべき者の2分の1以上の同意が必要です。
また、社会保険の加入は会社単位ではなく事業所単位で行う必要があるため、本店のみではなく、営業所が複数ある場合は、それぞれの営業所ごとに加入する必要があります。
しかし、報酬の支払いや指揮監督などが本社で行われており、事業所としての独立性が認められない場合は、本社のみでよく、本社の社会保険に加入することになります。
社会保障、労務でお悩みの経営者の方は菰田総合法律事務所へご相談ください。
博多・那珂川に各オフィスがあるので、お住まいや職場に近いオフィスで相談可能です。
福岡県内(福岡市、那珂川市、大野城市、糸島市…)、佐賀県など九州各県の方もお気軽に0120-755-687までお問い合わせください。
マイナンバー情報漏えいのリスク
前回述べたとおり、マイナンバーに関連する情報が漏えいした場合、事業者には①刑事罰の適用(番号法違反)及び②民事上の損害賠償請求のリスクがあります。
まず、①刑事罰の適用(番号法違反)についてです。重大事案であればもちろん別ですが、すぐに罰則を適用するわけではなく、事前に指導や助言、勧告等が行われるのが通常です。労働基準監督署による是正勧告等と同様のイメージだと言えば分かりやすいかもしれません。
次に、②の民事上の損害賠償請求についてです。マイナンバーやそれを含む個人情報が漏えいした場合、事業者は被害者に対しての賠償を考えなければなりません。
過去の情報漏えいの事故をひも解いてみると、2004年のYahoo!BB顧客情報漏えい事件や、2014年のベネッセ個人情報流出事件において、事業者側は被害者に対して500円の金券を支払っています。このような例から、事業者において、マイナンバーの流出の場合も、被害者1人当たり500円支払えば済むといった誤った認識が広がりました。
しかしながら、500円の金券は見舞金の支払いとなるにすぎず、その額が損害賠償額になるわけではありません。ベネッセ個人情報流出事件の例では、その後、1人当たりの損害額55,000円の支払いをめぐって集団訴訟が提起されました。他の情報漏えいに関する裁判例でも、事業者が被害者に対して、1人当たり数万円以上の支払いを命じられています。
情報漏えいは、外部からの不正アクセスによって引き起こされるケースを想定しがちです。ところが実際には、電子メールの誤送信等の、電子機器の誤操作に端を発するケースや、紙媒体の紛失といった、いわゆる人為的ミスによって起こるケースが一般的と言えます。
したがって、いくら精巧なセキュリティ体制に守られた情報システムを配備したとしても、従業員の誤操作等によって情報漏えい事故が起こるリスクは依然として伴います。
以上のことから、マイナンバーの安全管理対策については、技術面に頼り切ることはできず、事業者としては、従業員に情報管理の教育を徹底するなどの対策も講じる必要があります。
社会保障、労務でお悩みの経営者の方は菰田総合法律事務所へご相談ください。
博多・那珂川に各オフィスがあるので、お住まいや職場に近いオフィスで相談可能です。
福岡県内(福岡市、那珂川市、大野城市、糸島市…)、佐賀県など九州各県の方もお気軽に0120-755-687までお問い合わせください。
マイナンバーの情報漏えい
2016年1月マイナンバー制度の開始により、事業者は厳格な安全管理体制のもとでマイナンバーに関連する情報を扱うことが義務付けられました。
しかし、情報漏えいのリスクをゼロにすることは困難です。もしも、マイナンバーに関連する情報が漏えいした場合、事業者は以下のようなリスクを抱えることになります。
①刑事罰の適用
マイナンバー制度では、「罰則が行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下、「番号法」といいます。)によって設けられており、番号法違反として罰則の適用を受けることがあります。
②民事上の損害賠償請求
事業者が適切な安全管理措置を講じていなかった場合は、情報漏えいにかかる番号の対象者等から損害賠償を請求されるリスクが生じます。
尚、事業者が、民法上の責任を免れるには、以下について事業者側に立証責任があります。
・マイナンバーの管理につき、相当な注意を払っていたこと
・相当な注意を払っていたとしても、損害が生じたであろうこと
情報漏えい事故でこうしたことを立証するのは非常に困難です。そのため事業者が適切な安全管理措置を講じることが肝要だと言えます。個人情報保護委員会による「特定個人情報の適切な取り扱いに関するガイドライン」で要請されている、事業者が講じなければならない安全管理措置のうちの「技術的安全管理措置」は、とりわけ重要な措置であることが分かります。
③社会的信用の失墜
大企業や知名度のある事業者で情報漏えい事故が起これば、マスメディアに大きく取り上げられ、社会的信用に関わることもあります。特に上場企業は株価下落の要因にもなるため、非上場企業以上に安全管理の徹底が求められます。
実際に、過去に情報漏えい事故の起こった事業者のその後を見ても、顧客離れの加速や、内定辞退が相次ぐ等、経営に直結する問題が生じています。
マイナンバーに関連する情報が漏えいした場合の①~③のリスクのうち、③社会的信用の失墜に関しては想像に難くありません。そこで、次回は、①刑事罰等の罰則と②民事上の損害賠償責任について、もう一歩踏み込んでお話しをしたいと思います。
社会保障、労務でお悩みの経営者の方は菰田総合法律事務所へご相談ください。
博多・那珂川に各オフィスがあるので、お住まいや職場に近いオフィスで相談可能です。
福岡県内(福岡市、糟屋郡、古賀市、北九州市…)、佐賀県、大分県など九州各県の方もお気軽に0120-755-687までお問い合わせください。
支給項目・控除項目とは
給与は、「支給項目」から「控除項目」を差し引いて計算します。以下の表で、一般的な支給項目と控除項目についてご紹介します。
【支給項目】
基本給 | 毎月の給与の中で、最も根本的な部分を占める。経験や能力、従事する職務などを総合的に考慮して決定する。 |
---|---|
役職手当 | 管理職の従業員(部長、課長など)に対して、職務や責任の重さに応じて支給する手当。 |
家族手当 | 家族を扶養している従業員に対して、扶養に要する費用を支給する手当。 |
住宅手当 | 家賃など住宅の維持に要する費用を支給する手当。 |
通勤手当 | 通勤に要する費用を支給する手当で、一般的に定期代やガソリン代などを実費支給する。全額支給に限らず、上限額を決めることもできる。 |
時間外労働手当 | 法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える労働に対して支給する手当。 |
深夜労働手当 | 深夜労働(原則として午後10時~午前5時に労働させること)に対して支給する手当。 |
休日労働手当 | 法定休日労働(週に1回あるいは4週に4日以上付与する休日に労働させること)に対して支給する手当。 |
【控除項目】
健康保険料 | 社会保険の1つである健康保険の保険料。 |
---|---|
厚生年金保険料 | 社会保険の1つである厚生年金保険の保険料。 |
介護保険料 | 社会保険の1つである介護保険の保険料。40歳に達した月から徴収される。 |
雇用保険料 | 労働保険の1つである雇用保険の保険料。 |
所得税 | 従業員個人のその年の所得に対して課税される税金。 |
住民税 | 従業員の前年の所得に対して課税される税金。 |
※これらの保険料・税金は、法律で給与から控除することが認められています。上記以外のお金を給与から差し引く場合は、会社と従業員の過半数代表者との間で労使協定を結ぶ必要があることに注意しましょう。
社会保障、労務でお悩みの経営者の方は菰田総合法律事務所へご相談ください。
博多・那珂川に各オフィスがあるので、お住まいや職場に近いオフィスで相談可能です。
福岡県内(福岡市、那珂川市、大野城市、糸島市…)、佐賀県など九州各県の方もお気軽に0120-755-687までお問い合わせください。
給与とは
会社員が毎月もらう給与明細の「給与」とは何のことかご存知ですか? 「給与」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものを指します(労働基準法11条)。
従業員に給与を支払う際には、労働基準法上、いくつかのルールがあります(労働基準法24条)。以下で、各ルールについて具体的に説明致します。
① 通貨払い 給与は現金で支払わなければなりません。しかし、銀行振込によって給与を支払っている会社も多いと思います。これはなぜかというと、労働基準法上、従業員の同意を得た場合は、従業員が指定する口座に振り込むことが認められているからです。
② 直接払い 給与は従業員本人に直接支払わなければなりません。例外として、従業員が病気で受け取ることができないなどの事情がある場合は、家族が使者として受け取ることが認められています。
③ 全額払い 給与は全額を支払わなければなりません。よって、振込手数料などを給与から勝手に差し引くことはできませんが、従業員の過半数代表者と労使協定を締結すれば、一定のお金(組合費等)を控除することが可能です。また、社会保険料や税金に関しては、法律により給与から控除することが認められています。
④ 毎月1回以上払い 給与は少なくとも毎月1回支払わなければなりません。つまり、数か月ごとにまとめて支払ってはいけないということです。年俸制を採用している場合でも、分割して支払う必要があります。
⑤ 一定期日払い 給与は期日を特定して支払わなければなりません。「末日締め翌月10日払い」「15日締め当月25日払い」といった決め方であれば問題ありませんが、例えば、「毎月最終金曜日に支払う」のような決め方だと支払日にずれが生じてしまうので、認められません。※ただし、④⑤については、臨時に支払われる賃金、賞与、1か月を超えて支払われる精勤手当・勤続手当等は除かれます。
社会保障、労務でお悩みの経営者の方は菰田総合法律事務所へご相談ください。博多・那珂川に各オフィスがあるので、お住まいや職場に近いオフィスで相談可能です。福岡県内(福岡市、糟屋郡、古賀市、北九州市…)、佐賀県、大分県など九州各県の方もお気軽に0120-755-687までお問い合わせください。
リスクへの対応
リスクへの対応としては、①リスクを取らない、②リスクを減らす、③リスクを分担する、④リスクを受け入れる、この4点を実施することが重要になります。
加えて、リスクへの対応を考える際には、発生頻度やリスクの重大性から対策を検討し、どこまでのリスクを負うことができるのか、突き詰めて考えることがリスクの発生を低減させることに繋がります。
トラブルが生じた際に、初動調査が遅れると、被害の拡大に繋がります。場合によっては、会社の危機管理能力まで問われる自体に発展する可能性があります。
トラブルの初期段階で、機動的に対応ができるよう、弁護士等の専門家を社内の管理体制の検討に組み入れながら、会社組織の事情に則したリスク管理体制の整備をすることによって、被害をできる限り最小限にとどめるように備えましょう。
快適な職場づくりを目指したい経営者の方は菰田総合法律事務所へご相談ください。
博多・那珂川に各オフィスがあるので、お住まいや職場に近いオフィスで相談可能です。
福岡県内(福岡市、那珂川市、大野城市、糸島市…)、佐賀県など九州各県の方もお気軽に0120-755-687までお問い合わせください。