Komoda Law Office News

2023.12.01

【最決令和5年10月6日】1筆の土地の一部についての登記請求権を保全するために当該土地全部について処分禁止の仮処分命令を申し立てることの可否

1筆の土地の一部についての登記請求権を保全するために当該土地全部について処分禁止の仮処分命令を申し立てることの可否

―最決令和5年10月6日(令和5年(許)第9号・裁判所ウェブサイト)※1

※1 判事事項:1筆の土地の一部分についての所有権移転登記請求権を有する債権者において当該一部分について分筆の登記の申請をすることができない又は著しく困難であるなどの特段の事情があるときは、当該土地の全部についての処分禁止の仮処分命令は直ちに保全の必要性を欠くものではない。

はじめに

民事上の権利を強制的に実現させるには、訴訟を提起して判決を得ることが必要となりますが、それでは間に合わないという場合に備えて現状を保全するため、仮差押・仮処分の手続が用意されています。

例えば、不動産登記をしたいが相手方が任意に応じてくれないばかりか、他人に登記名義を移そうとするなど、自分が望む登記の実現が不可能又は著しく困難となるおそれがあるときは、係争物仮処分の手続により処分禁止の仮処分命令を得ることによって、実質的に現状の登記を固定してから、本案の訴訟手続を進めることができます。

近時、最高裁は、登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分命令を行うことのできる範囲について、注目すべき判断を示しましたので紹介します。

1.前提

仮処分命令は、その名のとおり、本案判決を待っていては間に合わないという場合に「仮」に下す判断ですから、仮処分によって保全する対象となる権利(被保全権利)が存在すること、被保全権利の実現のために仮処分によって権利の保全をしておかなければならないという具体的事情があること(保全の必要性)が必要となります。
これらの事実は、裁判所に証拠を提出して示さなければなりませんが、本案の訴訟においては十中八九確からしいという程度の確実さで証明することが求められるのに対し、仮処分の場合は一応確からしいという程度の証明(疎明)で足りるとされています。

仮処分は、上記のように証明の程度が粗いもので足りるとされていることに加え、請求の相手方(債務者)に知られてしまっては意味が無くなる場合もあることから債務者の意見を聴かずに発令されるため、誤った判断がなされるおそれも幾分高まってしまいます。
そのため、上記の「保全の必要性」の判断に当たっては、仮処分命令の対象が広すぎないか、相手方への影響がより小さい方法で代替できないかといった点も考慮されます。

2.事案

本件判決の事案を簡略化すると、X(債権者)は、1筆の土地(以下「本件土地」という。)の一部分のみを時効により取得したと主張して、登記名義人であるY(債務者)に対して所有権移転登記手続を求め、その請求権を被保全権利とし、本件土地の全部について、処分禁止の仮処分命令の申立て(以下「本件申立て」という。)等をしたというものです。

なお、登記された1筆の土地の一部のみを対象として取得時効が成立することは判例上認められており、取得時効が成立すれば、時効取得者は登記名義人に対し、時効取得した一部分を分筆して自身への移転登記手続をするよう求めることができるとされています。

Xの申立てに対しては、Xが時効により所有権を取得したのは1筆の土地のうち時効取得した部分のみであり、仮処分命令によって保全する必要があるのは当該部分のみではないか、土地全部について仮処分命令をするのは過剰で、Yの権利を不当に侵害するのではないかという疑念が生じます。

3.原審

実際、原決定は、「1筆の土地の一部分についての所有権移転登記請求権を有する債権者は、当該一部分についての処分禁止の仮処分命令を得た場合、債務者に代位して分筆の登記の申請を行い、これにより分筆の登記がされた当該一部分について処分禁止の登記がされることによって、当該登記請求権を保全することができるから、当該登記請求権を被保全権利とする当該土地の全部についての処分禁止の仮処分命令は、保全の必要性があるとはいえない。」などとして、Xの申立てを却下すべきものと判断しました。

1筆の土地は、そのままではそのうちの一部のみに処分禁止の仮処分の登記をすることはできませんが、時効取得の対象となる部分を分筆すれば可能となります。
そして、Yが分筆登記をしないときは、Xは、債権者代位権という方法により、裁判手続外で分筆登記の申請をすることができるから、まず分筆をしてから対象を限定して仮処分命令を申し立てればそれで十分である、というのが原決定の考え方です。

4.最高裁

これに対し、最高裁は、
「1筆の土地の一部分についての所有権移転登記請求権を保全するためには、当該一部分について処分禁止の登記をする方法により仮処分の執行がされることで足りるから、当該登記請求権を被保全権利とする当該土地の全部についての処分禁止の仮処分命令は、原則として当該一部分を超える部分については保全の必要性を欠くものと解される。」
との原則を示しつつも、以下のように、分筆登記をしないまま、1筆の土地全部に対する仮処分命令を申し立てる余地があることを肯定しました(破棄差戻し)

「もっとも、上記一部分について処分禁止の登記がされるためには、その前提として当該一部分について分筆の登記がされる必要があるところ、上記登記請求権を有する債権者において当該分筆の登記の申請をすることができるか否かは、当該債権者が民事保全手続における密行性や迅速性を損なうことなく不動産登記に関する法令の規定等に従い当該申請に必要な事項としての情報を提供することの障害となる客観的事情があるか否かに左右されるから、当該債権者において当該申請をすることができない又は著しく困難である場合があることも否定できないというべきである。
そして、その場合、上記債権者は、上記一部分について処分禁止の仮処分命令を得たとしても上記登記請求権を保全することができないから、当該登記請求権を保全するためには上記土地の全部について処分禁止の仮処分命令を申し立てるほかないというべきである。

上記の申立てにより仮処分命令がされると、債務者は上記一部分を超えて上記土地についての権利行使を制約されることになるが、その不利益の内容や程度は当該申立てについての決定に当たって別途考慮され、当該債務者において当該権利行使を過度に制約されないと認められるだけの事情がない場合には当該申立ては却下されるべきものと解される。

以上によれば、上記債権者が上記登記請求権を被保全権利として上記土地の全部について処分禁止の仮処分命令の申立てをした場合に、当該債権者において上記分筆の登記の申請をすることができない又は著しく困難であるなどの特段の事情が認められるときは、当該仮処分命令は、当該土地の全部についてのものであることをもって直ちに保全の必要性を欠くものではないと解するのが相当である。

5.さいごに

事案の詳細は不明ですが、本件では、Xに先行してYが第三者に所有権を移転したり、第三者の権利を設定する旨の登記をしてしまったりすれば、Xが望んでいる所有権移転登記が不可能となったり、抵当権設定登記あるいは何らかの仮登記がなされた状態となってしまったりするなど、時効により完全な所有権を取得したことを登記するという本来の目的の達成に著しい支障が生じることが考えられます。
それを防ぐには、Xは、Yに対する本案訴訟で所有権移転登記手続を請求するのに先立ち、本件土地に処分禁止の登記をしておくことが必要不可欠といえます。

そこで、時効取得の対象範囲のみを分筆して処分禁止の仮処分を申し立てることができればそれが最適であるとは言えますが、分筆登記をするには、土地家屋調査士等に依頼して測量を行い、場合によっては周辺の土地との境界を確定する作業が必要となることも想定され、Yを含む近隣住民の協力が得られるかは不透明であり、必ずしも迅速、円滑に分筆登記を行うことができるとは限りません。
原審の判断はやや形式論に過ぎるきらいがあり、Xにとって酷ではないかと思われます。

この点で、最高裁が、分筆登記の申請をすることが不可能又は著しく困難である場合があることを肯定し、そのような場合には「土地の全部について処分禁止の仮処分命令を申し立てるほかない」とした点は好意的に受け止められます。

他方、最高裁は、XY間の利益衡量に関する事情として、土地の全部について処分禁止の登記がなされる場合のYの「不利益の内容や程度は当該申立てについての決定に当たって別途考慮され、当該債務者において当該権利行使を過度に制約されないと認められるだけの事情がない場合には当該申立ては却下されるべきものと解される」としているところ、Xの代位による分筆登記申請等の困難性とYの不利益は単純に比較衡量の対象となるのか、どの程度の事情があれば「権利行使を過度に制約されない」といえるのか等は残された課題です。

最高裁は、Xが「地積測量図等の分筆の登記の申請に必要な事項としての情報を提供することの障害となる客観的事情があるか否か」を検討し、上記特段の事情の有無、本件登記請求権の存在や内容、相手方らの不利益の内容や程度等について更に審理すべきことを示しているため、これらの点がどのように考慮され、本件土地全部への仮処分命令申立てを認めるか否かがどのように結論付けられるか注目されます。

 

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2022.01.17

差押えを受けた賃貸物件の買入れに関するリスク

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

問題事例

 1  私は、賃貸物件の経営に乗り出そうと考え、手ごろな収益物件を探していたところ、とある賃貸物件1棟(以下「本物件」といいます。)が安価で売りに出されていることを知りました。
ただ、よくよく話を聞いてみると、どうやら本物件のオーナーは多額の借入金債務を抱えており、しばしば滞納もしているため、本物件を含む財産が差押えを受けるのではないかといった情報もあるようです。
なお、オーナーは、本物件の売買契約に当たり、現在オーナーが賃借人らから預かっている敷金を私が引き継ぎ、賃借人退去時の敷金の返還も私が行うとの条件で、本物件の売買に応じる意向を示しています。
以上のような前提の下では、本物件を買い受けるとともに、敷金を当社が引き継いだ場合、オーナーの債権者らから資産隠しであるなどと主張され、不動産所有権の取得を否定されることはないでしょうか。

 2  また、本物件は、賃貸物件としては非常に優良で多額の賃料収入が見込めるため、私としては、仮にオーナーの債権者が本物件の差押えをしてきた場合でも、オーナーから安価で買い受けた上、差押債権者と交渉し、任意売却を受けるといったことも考えています。
ただその場合に、引き継いだ敷金をオーナーの債権者と退去する賃借人の双方に二重に支払わなければならなくなったりする(→後記回答の2に記載)といった懸念は無いでしょうか。

 

回答

1.相当価格での不動産処分と詐害行為取消権
(1)債務者が、所有する財産を譲渡すると債権者への弁済ができなくなるおそれがあること等を認識しながら、敢えて当該財産の譲渡を行ったような場合には、当該行為は債権者を害する行為(債権者への弁済を不可能又は困難にさせるような行為。 詐害行為。)であるとして、債権者はその取消しを裁判所に求めることができます(詐害行為取消権。民法424条以下 ※1 )。

この取消しが認められれば、贈与、売買等の財産譲渡行為はなかったことにされ、受贈者や買主は、取得していたはずの権利を失ったり、あるいは取得した財産に相当する額の金銭を別途支払う義務を負ったりすることもあり得ます。

※1 なお、同様の制度は破産法160条以下、民事再生法127条以下にも存するが(否認権)今回は割愛する。

例えば、3人の債権者から300万円ずつ合計900万円の借金をしているが、500万円の不動産(抵当権の設定はされていないものとします。)と100万円の現預金しか有していないという人が、500万円の不動産を第三者に贈与(無償で譲ること。)したり、市場価格よりも大幅に安い100万円で第三者に売却したりした場合には、残った現預金等で900万円の借金を返すことは到底できませんから、上記のような贈与又は売買は、詐害行為として取り消される可能性が高いと考えられます。

差押えを受けた賃貸物件の買入れに関するリスク (2)では、債務者が、所有する不動産を不当に安価で売るのではなく、相当な価格で売却する場合はどうでしょうか。
このような場合は、売買取引自体は適正なものといえるため、原則としては、他人である債権者が介入することはできません。

しかし、不動産が金銭に替えられれば、容易に消費したり処分したりすることができるようになりますし、財産隠しの目的で、適正な価格での売買を行う人も中には居ると考えられますから、民法424条の2は、以下の各号のいずれの要件も満たす場合に限り、売買取引が詐害行為であるとして取り消すことを認めています。

① 不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(…隠匿等の処分…)をするおそれを現に生じさせるものであること。
② 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと(隠匿等処分意思)。
③ 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

上記の点から考えると、質問者様が単にオーナーから市場価格で不動産を購入しただけでは、その売買契約が取り消される可能性は低いといえます。

しかし、市場価格での売買であっても、不動産が金銭に変ずることによって処分が容易になるため、これによって隠匿等の処分をするおそれが生じるといえる場合はあり得ます(①)。

そして、例えばオーナーが質問者様から受領した売買代金を持ち逃げしたり隠し口座に預けたりするなどして債権者の追及を逃れようと考えており(②)、質問者様も上記のようなオーナーの意思を知っていた(③)というような場合には、たとえ売買代金額が適正な市場価格であったとしても、債権者から提訴されれば詐害行為として取り消されるおそれがあります。

また、売買代金額が市場価格よりも著しく低いというような場合には、オーナーの内心の意思について全く認識していなかったとしても、売買契約が取り消される可能性が高いと考えられます。

(4)以上のことから、オーナーの財産状態が著しく悪化しているといった事情があれば、そのような状況下での買取りには上記のようなリスクが伴うものと考えられますので、オーナーの財産状況を慎重に見極める必要があるでしょう。

2.敷金に関する権利義務の承継
次に、本物件の賃借人が預託している敷金についてお答えします。

(1)建物賃借人が対抗要件を具備(引渡し(借地借家法31条)等。)した後に、旧所有者たる賃貸人が当該建物を新所有者に譲渡した場合、特段の事情が無い限り、旧所有者の賃貸人たる地位は、賃借人の承諾が無くとも当然に新所有者へ移転し(大審院大正10年5月30日判決、最高裁判所平成11年3月25日判決)、これに伴い、賃借人から交付されていた敷金に関しても、「旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料等があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される」(最高裁昭和44年7月17日判決、前掲最高裁判所平成11年3月25日判決)とされています。

このため、賃借人から敷金の預託を受け、賃貸借終了時に返還する義務を負うという旧賃貸人=旧所有者の権利義務も新所有者に移転することとなります。
賃貸建物の譲渡時点で、賃借人の旧所有者に対する未払賃料があれば、その部分は敷金から控除されることとなりますが、当該部分を除いた残額は、全て新所有者に承継され、譲渡時点で未払賃料がなければ、敷金の全額が新賃貸人に承継されることとなります。

(2)したがって、質問者様は、売買契約に基づく本物件の所有権移転に伴い、売主(旧所有者・賃貸人)が賃借人から預託を受けた敷金に関する権利義務を承継することとなるため、これにより預託された敷金を正当に保持し得るものと考えられます。

売主の債権者等から民法424条以下の詐害行為取消権等を行使されて建物の売買契約自体が取り消されたような場合は別として、そうでなければ、何らかの法的請求を受けて敷金の承継のみが取り消され、質問者様が敷金相当額の二重払いを強いられるおそれは低いと判断されます。

まとめ

以上のように、物件の買受け、買取りに潜むリスクを把握したり、実際に買い受けた後にトラブルとなってしまった場合の対応を行ったりすることができるのも、弁護士の経験ならではですので、似たようなお悩みをお持ちの方は、是非一度当事務所へご相談にお越しいただければと思います。

 

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2021.12.01

残業代の計算にあたって除外可能な賃金は?

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

皆さんが勤めている会社から支給される賃金に、「住宅手当」、「家族手当」といった項目の手当があるかと思います。
残業代を計算するにあたって、これらの手当は除外されているのでしょうか?
「住宅手当、通勤手当は除外される」と聞いたことのある方もおられるのではないのでしょうか。
今回は、残業代の計算にあたって除外可能な賃金について解説させて頂きます。

1.残業代から除外可能な賃金

残業代を計算するにあたっては、月給制の場合、皆さんに支給されている賃金のうち、労働基準法が明示的に除外を認めた賃金を除いた賃金を、1か月の所定労働時間数で除した金額(「1時間あたりの賃金額」)を算出する必要があります。
このように算出した1時間あたりの賃金額に、残業時間数と割増賃金率(時間外労働の場合は1.25)を乗じて残業代を算出することになります。

そして、労働基準法が明示的に除外を認めた賃金は、以下の7つです(労働基準法第37条5項、同法施行規則第21条)。

⑴家族手当
⑵通勤手当
⑶別居手当
⑷子女教育手当
⑸住宅手当
⑹臨時に支払われた賃金
⑺1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

以上の7つの賃金が除外されているのは、労働と直接的な関係が薄く、労働者の個人的事情に基づいて支給されている等の理由があげられます。

2.住宅手当・家族手当・通勤手当が残業代の基礎に含まれる?

上記1のとおり、労働基準法で除外が明示された賃金に「住宅手当」・「家族手当」・「通勤手当」が含まれていました。そうすると、皆さんがこれらの手当を支給されている場合、残業代の計算で除外されることになるのでしょうか。

実は、必ずしもそうとは限らないのです。というのも、上記1で挙げた賃金のうち、⑴ないし⑸の賃金については、名称が一致していれば全て除外できるという訳ではなく、除外できる賃金の具体的な範囲が通達で定められているのです。

「住宅手当」・「家族手当」・「通勤手当」について、残業代の計算にあたって除外できる具体的な範囲は以下のとおりです。

①住宅手当

住宅に要する費用に応じて算定される手当であること
除外できる 住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給するもの
⇒賃貸住宅に居住の場合は家賃の一定割合、持家に居住の場合は住宅ローン月額の一定割合を支給する
除外できない 住宅の形態ごとに一律に定額で支給するもの
⇒賃貸住宅に居住の場合は月●万円、持家に居住の場合は月●万円を支給する

②家族手当

扶養家族の人数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算定した手当であること
除外できる 扶養家族のある従業員に対し、家族の人数に応じて支給するもの
⇒扶養義務のある家族1人に対し、配偶者月●万円、その他の家族月●千円を支給する
除外できない 扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律に支給するもの
⇒扶養家族の人数に関係なく、家族がいる従業員に対して一律に月●万円を支給する

③通勤手当

通勤距離または通勤に要する実際費用に応じて算定される手当であること
除外できる 通勤に要した費用に応じて支給するもの
⇒6か月定期券の金額に応じた費用を支給する
除外できない 通勤に要した費用や通勤距離に関係なく一律に支給するもの
⇒実際の通勤距離にかかわらず1日●円を支給する

また、例えば「生活手当」という名称で支給されていても、実質的に除外可能な家族手当の範囲に含まれるのであれば、残業代の計算にあたって除外することができます。
皆さんに支給されているこれらの手当が、会社の残業代計算にあたって除外されている場合、本当に除外可能な手当に該当されず、除外されて残業代が計算されている場合だと、「1時間あたり賃金額」が誤っているため必然的に残業代の未払いが発生していると考えられます。

3.まとめ

今回は残業代の計算にあたって除外可能な賃金について解説させて頂きました。
ご自分の支給されている手当を就業規則で確認したけどよく分からない、といった方もおられると思います。

そのような場合は、是非一度専門家にご相談されることをお勧め致します。

 

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2021.11.09

マンションの『区分所有』って何のこと?

区分所有」は、その表記からなんとなく内容を想像しやすいので、特に不動産に関わることも無ければ深く気にすることなく流してしまうような言葉かもしれません。
ただ、もし自分の関わる場所でトラブルが発生してしまった場合を考えると、絶対に知っておくべきキーワードなのです。

1.区分所有を知るメリット

区分所有」という言葉は、不動産に携わっている方ならば頻繁に耳にする言葉だと思いますが、実際のところは何となくこんなものかな、としか理解していないのではないでしょうか?一方で、普段不動産に縁の無い方であれば、初めて聞く言葉かもしれません。

この「区分所有」は特にマンションのオーナーの方々にとってはとても重要なワードで、万一法律トラブルが発生した場合の対応に、このワードを理解しているか否かによって大きな差が生じてきます。
区分所有の何たるかを理解していれば、問題に突き当たったとき、何に着眼し、誰にどんな対応が必要なのかを見極めやすくなります。

2.区分所有の概念

民法上、1棟の建物は法的に1個の物として扱われるもので、複数人でその建物を共同して保有する場合には、「共有」として扱われます。
これに対し、区分所有法においては、一定の要件の下、建物を複数の部分に区分けした上で、それぞれの区画を異なる者が単独で所有することが認められています。
それでは、これを踏まえた上で法律上の定義を見てみましょう。

第1条 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。

この条文を分解して考えます。

①「構造上区分された・・・部分」(構造上の独立性)
②「独立して・・・建物としての用途に供することができるもの」(利用上の独立性)
まずはこの2つを備えることが求められていることが読み取れます。

そして、ここで注意すべきところが、この①構造上の独立性と②利用上の独立性を兼ね備えているからと言って、その建物においてイコール区分所有権が成立するわけではないということです。
もう一度条文を読み直してみましょう。最後の部分に着目すると、

・・・所有権の目的とすることができる

と記されています。
つまり、先に登場した2つの要件を兼ね備えていることだけでは足りず、所有者がその建物を「区分所有建物として保有したい」という意思を持って保有することで、初めてその建物において区分所有権が成立するのです。

3.専有部分と共有部分の区別

区分所有建物においては、先ほど1.の中で「建物を複数の部分に区分け」すると説明しました。この「区分け」された部分は、「専有部分」と「共有部分」の2つに分類することができます。以下に、それぞれの具体例を挙げつつ説明していきます。

●A専有部分

先に説明した、法1条の中に出てくる2つの要件、

①構造上の独立性  ②利用上の独立性

を備える必要があります。そして、専有部分は、独立した所有権の対象となります。

典型例:マンションの1室
・・・その使途は居住用に限らず、店舗・事務所・倉庫・講堂・医院・教室・駐車場等のように「建物として」の用途に供することができるもの。
当てはまらないもの:エレベーター
・・・要件① 構造上の独立性 〇  ② 利用上の独立性 ×

ここで、②で説明した区分所有権について1点補足があります。
区分所有権が成立するためには、「一棟の建物の中に複数の専有部分」が存在していることが必要となります。
法1条でいうところの「・・・数個の部分で」がこれに該当します。実際に想像してみると、例えば1部屋しかない建物を複数人で区分所有することはできないので、当然の事ではありますね。

●B共用部分

区分所有建物の中で、専有部分以外の部分は、当然に「共用部分」とされます。そして、共用部分は、原則として区分所有者全員の共有に属するものと定められています。
ただし、ここでいう共有は、民法上の共有とは異なる法律関係が定められていることには注意が必要です。

典型例:専有部分をつなぐ廊下、屋上、階段.ベランダ、バルコニー

一方で、本来は専有部分となるべき部分を、規約によって共用部分とすることも可能です。先にあげた共用部分と区別するために、「規約共用部分」と呼びます。この規約共用部分であることを第三者に対抗するためには、その旨を登記する必要があります。
なお、原則として規約共用部分も、一般的な共用部分と同様に、区分所有者全員の共有に属します。

:マンションの部屋の一室 → 建物の管理のために倉庫として使用する
              → 区分所有者全員のための集会室として使用する
4.附属物の話~建物の設備関係について

マンションを思い浮かべると分かりやすいのですが、区分所有建物の中には、これまでに触れてきた「居室」や「廊下」以外に、電気、ガス、上下水道、冷暖房等の配線、配管設備が存在しています。これらをまとめて、区分所有法上では「附属物」と呼称しています。
建物の附属物は、通常は建物に付合しているため、建物の一部とみなします。ところが区分所有建物においては、一棟の建物に存在するすべてのパーツを先に述べた「専有部分」と「共有部分」のいずれかに区別するため、附属物が実際にどちらに属するのかが問題となります。

ここで、あらためてマンションの構造を想像してみてください。ライフラインの配管等は、居室(専有部分)の内部にある部分もあれば、ベランダ(共有部分)に露出しているものもあります。そういうわけで、建物の附属物については「○○部分である」とは簡単に分類できないのです。

5.まとめ

区分所有法によって、1棟の建物を複数の区画に分け、各区画を複数の人が別々に所有するという法律関係が生じます。その一方で、1棟の建物が物理的に1個の物であることは変わりません。
そのため、複数の所有者(区分所有者)が、1棟の建物を共同で維持・管理し、その建物の利用に伴って生じる利害の対立等を調整する必要が生じます。こういった複雑な関係性が存在するため、区分所有建物に関係する紛争を扱うためには、区分所有法特有の概念や権利・義務関係を正しく理解することが必要となるのです。

マンショントラブルにおいて、まずはその建物の所有形態が区分所有になっていないか、そしてトラブルの発生源が専有部分なのか、それとも共用部分なのかを把握した上で対応を検討する必要があるということ、実際のところはすぐに区別できない部分もあるために争いになってしまう部分もあることを覚えておいていただければと思います。

2020.01.11

マンションへの日照に関する売主等の説明義務(2)日照に関する売主の説明義務

日照の利益は、主に南側隣接地の利用形態によって確保されるものです。南側隣接地がマンション所有者とは別人の所有である場合、その土地の利用方法は他人の意思に委ねられるものなので、マンションの売主から南側隣接地の所有者に対して、「日当たりが悪くなるから高い建物を建てないでほしい」といった要望を出すことは難しいでしょう。
 
よって、一般的には、日照の利益は売主の裁量によって確保できない性質のものであるため、原則として、マンションの売主には、その売買において南側隣接地にどのような建築物が建てられる可能性があるのか、その建築物がマンションに与える影響等を調査し、その結果を買主側に正確に告知説明すべき義務は課せられていないと解されています。

一方で、売主側が、特に良好な日照をセールスポイントにしていたり、南側隣地の所有者からその利用形態に関する説明(例えば、隣地にこれから高層マンションを建設することが決まったため、日照が遮られることが予想されるといった事情)を買主に行う旨要請されていたような場合や、売主側が買主側に対し虚偽の説明や誤解を招くような説明をなした場合には、売主の説明義務違反が認められやすいと言えます。

2020.01.10

マンションへの日照に関する売主等の説明義務(1)売主の説明義務の根拠

売主が宅地建物取引業者の場合は、宅地建物取引業法により売主である宅地建物取引業者に説明義務が課されています。他方で、売主が宅地建物取引業者でない場合であっても、売主が事業者であり、かつ買主が消費者である場合には、当該契約は消費者契約として消費者契約法が適用され、売主に情報提供努力義務が課されます。

具体的には、消費者契約法3条1項は、

事業者は、次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない。
一 消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すること。

と定めています。

 

言い換えると、消費者契約の締結について勧誘する際には、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努力するように、ということとなります。

これにより、売買契約が消費者契約に該当する場合は、そうでない場合に比べて、売主の説明義務がより重いものになっているものと考えられます。

2019.12.04

マンションからの眺望に関する売主の説明義務(4)眺望に関する売主の説明義務

マンションの売主は、居室からの眺望について説明する義務を負うのでしょうか。

裁判例は「眺望利益なるものは、個人が特定の建物に居住することによって得られるところの、建物の所有ないしは占有と密接に結び付いた生活利益であるものの、「それは、右建物の所有者ないしは占有者が建物自体に対して有する排他的、独占的支配と同じ意味において支配し、享受し得る権利ではない。」とし、「特定の場所からの観望による利益は、たまたまその場所の独占的占有者のみが事実上これを享受し得ることの結果としてそのものの独占的に帰属するに過ぎ」ないとしつつも、「このことは右のような眺望利益がいかなる意味においてもそれ自体として法的保護の対象となり得ないことを意味するものではなく、このような利益もまた、一個の生活利益として保護されるべき価値を有し得る」ものであり、「特定の場所がその場所からの眺望の点で格別の価値を持ち、このような眺望利益の享受を1つの重要な目的としてその場所に建物が建設された場合に、当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の享受が社旗観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有するものと認められる場合には、法的見地からも保護されるべき利益であるということを妨げない」(東京高決昭和511111)としています。

したがって、売主側が不動産売買の契約前の段階で眺望をセールスポイントにしていたり、販売後に売主側が自ら眺望を妨げる行為に出たりした場合には、売主の説明義務違反が認められやすいと言えます。

2019.12.03

マンションからの眺望に関する売主の説明義務(3)説明義務違反の効果

マンションの売買契約において、売主に説明義務違反が認められた場合には、実際に買主が被った損害について、売主に対してどのような請求ができるのでしょうか?

もちろん、「損害賠償」を請求することが可能です。
損害賠償の範囲については、信頼利益(契約締結に要した費用)の賠償を命ずる判例が多いようですが、信頼利益とは別に実際に発生した損害がある場合には、合わせて専門家に相談してみるのが良いでしょう。

なお、売主の説明義務を「信義則から導かれる売買契約上の付随的義務である」とした場合には、説明義務違反は「付随的義務の債務不履行」となります。
そして、付随的義務の不履行があったとしても、原則として相手方は契約の解除をすることができないとされます。

しかしながら、付随的義務の不履行であったとしても、それが契約締結の目的の達成に重大な影響を与えるような場合については、契約を解除することが認められます。

ただし、後から損害賠償請求が可能とは言え、居住にかかわる部分で後から違反が見つかった場合、迷惑を被るのは売主です。買主を信頼しつつも、きちんと売主にとって大切な内容が説明されているか等を注視しておく必要があるのではないでしょうか。

2019.12.02

マンションからの眺望に関する売主の説明義務(2)仲介業者に委託した場合の売主の説明義務

契約当事者が宅地建物取引業者に仲介を委託する場合には、売主の説明義務はどのような扱いとなるのでしょうか?

この場合、契約当事者の意思としては、原則として、重要事項の説明については自らが委託した宅地建物取引業者が行うものとしてその説明に委ねているということができます。よって、売主本人は買主に対し説明義務を負いません。

しかしながら、例外的に売主も説明義務を負うケースもあるので注意が必要です。

 

〔例外的に売主も説明義務を負う場合〕
①大阪高判平成16.12.2
売主が買主から直接説明することを求められ、かつ、その事項が購入希望者に重大な不利益をもたらす恐れがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合には、売主は、信義則上、当該事項につき事実に反する説明をすることが許されないことはもちろん、説明をしなかったり、買主を誤信させるような説明をすることは許されないというべきであり、当該事項について説明義務を負う。

②東京地判平成9.1.28
売主は売買契約に向けて仲介業者に委託している以上、仲介業者を売主の履行補助者とみて、指導要綱の説明義務違反について売主も責任を負う。

 

2019.12.01

マンションからの眺望に関する売主の説明義務(1)売主の説明義務の根拠

マンションを含む不動産の売買は、高額なお金をやり取りすることとなるため、契約締結に至る過程での売主の説明内容はかなり重要です。
もし売主の交渉段階での説明不足が原因で買主に損害を与えた場合は、あくまで契約成立前の段階(交渉段階)で問題となる責任であるため、売買契約上の責任(債務不履行責任)ではなく、民法上の不法行為責任(民法709条)に該当すると考えられることが多いようです。

しかしながら、売買契約締結前であっても、売主の説明義務違反として契約上の責任を追及することができる場合があります。
そもそも、売買契約における売主の義務は、契約の目的物である財産権を買主に移転することなので、説明義務自体は本来的な売主の義務に含まれません。
ただ、信義則から導かれる売買契約上の売主の付随的義務として「説明義務」が認められる場合もあり、この説明義務違反に対して債務不履行責任が成立する場合もあります。

また、宅地建物取引業者が自ら売主となったり、仲介業者として介在したりといった形態で不動産の売買契約が行われるケースも多く見られます。
この場合、宅地建物取引業者は、売買契約等が成立するまでに、宅地建物取引士として、重要事項を記載した書面を交付して説明させなければならないと定められています。

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