Komoda Law Office News

差押えを受けた賃貸物件の買入れに関するリスク

2022.01.17

法律に関するコラムをKOMODA LAW OFFICEの弁護士が執筆します

問題事例

 1  私は、賃貸物件の経営に乗り出そうと考え、手ごろな収益物件を探していたところ、とある賃貸物件1棟(以下「本物件」といいます。)が安価で売りに出されていることを知りました。
ただ、よくよく話を聞いてみると、どうやら本物件のオーナーは多額の借入金債務を抱えており、しばしば滞納もしているため、本物件を含む財産が差押えを受けるのではないかといった情報もあるようです。
なお、オーナーは、本物件の売買契約に当たり、現在オーナーが賃借人らから預かっている敷金を私が引き継ぎ、賃借人退去時の敷金の返還も私が行うとの条件で、本物件の売買に応じる意向を示しています。
以上のような前提の下では、本物件を買い受けるとともに、敷金を当社が引き継いだ場合、オーナーの債権者らから資産隠しであるなどと主張され、不動産所有権の取得を否定されることはないでしょうか。

 2  また、本物件は、賃貸物件としては非常に優良で多額の賃料収入が見込めるため、私としては、仮にオーナーの債権者が本物件の差押えをしてきた場合でも、オーナーから安価で買い受けた上、差押債権者と交渉し、任意売却を受けるといったことも考えています。
ただその場合に、引き継いだ敷金をオーナーの債権者と退去する賃借人の双方に二重に支払わなければならなくなったりする(→後記回答の2に記載)といった懸念は無いでしょうか。

 

回答

1.相当価格での不動産処分と詐害行為取消権
(1)債務者が、所有する財産を譲渡すると債権者への弁済ができなくなるおそれがあること等を認識しながら、敢えて当該財産の譲渡を行ったような場合には、当該行為は債権者を害する行為(債権者への弁済を不可能又は困難にさせるような行為。 詐害行為。)であるとして、債権者はその取消しを裁判所に求めることができます(詐害行為取消権。民法424条以下 ※1 )。

この取消しが認められれば、贈与、売買等の財産譲渡行為はなかったことにされ、受贈者や買主は、取得していたはずの権利を失ったり、あるいは取得した財産に相当する額の金銭を別途支払う義務を負ったりすることもあり得ます。

※1 なお、同様の制度は破産法160条以下、民事再生法127条以下にも存するが(否認権)今回は割愛する。

例えば、3人の債権者から300万円ずつ合計900万円の借金をしているが、500万円の不動産(抵当権の設定はされていないものとします。)と100万円の現預金しか有していないという人が、500万円の不動産を第三者に贈与(無償で譲ること。)したり、市場価格よりも大幅に安い100万円で第三者に売却したりした場合には、残った現預金等で900万円の借金を返すことは到底できませんから、上記のような贈与又は売買は、詐害行為として取り消される可能性が高いと考えられます。

差押えを受けた賃貸物件の買入れに関するリスク (2)では、債務者が、所有する不動産を不当に安価で売るのではなく、相当な価格で売却する場合はどうでしょうか。
このような場合は、売買取引自体は適正なものといえるため、原則としては、他人である債権者が介入することはできません。

しかし、不動産が金銭に替えられれば、容易に消費したり処分したりすることができるようになりますし、財産隠しの目的で、適正な価格での売買を行う人も中には居ると考えられますから、民法424条の2は、以下の各号のいずれの要件も満たす場合に限り、売買取引が詐害行為であるとして取り消すことを認めています。

① 不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(…隠匿等の処分…)をするおそれを現に生じさせるものであること。
② 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと(隠匿等処分意思)。
③ 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

上記の点から考えると、質問者様が単にオーナーから市場価格で不動産を購入しただけでは、その売買契約が取り消される可能性は低いといえます。

しかし、市場価格での売買であっても、不動産が金銭に変ずることによって処分が容易になるため、これによって隠匿等の処分をするおそれが生じるといえる場合はあり得ます(①)。

そして、例えばオーナーが質問者様から受領した売買代金を持ち逃げしたり隠し口座に預けたりするなどして債権者の追及を逃れようと考えており(②)、質問者様も上記のようなオーナーの意思を知っていた(③)というような場合には、たとえ売買代金額が適正な市場価格であったとしても、債権者から提訴されれば詐害行為として取り消されるおそれがあります。

また、売買代金額が市場価格よりも著しく低いというような場合には、オーナーの内心の意思について全く認識していなかったとしても、売買契約が取り消される可能性が高いと考えられます。

(4)以上のことから、オーナーの財産状態が著しく悪化しているといった事情があれば、そのような状況下での買取りには上記のようなリスクが伴うものと考えられますので、オーナーの財産状況を慎重に見極める必要があるでしょう。

2.敷金に関する権利義務の承継
次に、本物件の賃借人が預託している敷金についてお答えします。

(1)建物賃借人が対抗要件を具備(引渡し(借地借家法31条)等。)した後に、旧所有者たる賃貸人が当該建物を新所有者に譲渡した場合、特段の事情が無い限り、旧所有者の賃貸人たる地位は、賃借人の承諾が無くとも当然に新所有者へ移転し(大審院大正10年5月30日判決、最高裁判所平成11年3月25日判決)、これに伴い、賃借人から交付されていた敷金に関しても、「旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料等があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される」(最高裁昭和44年7月17日判決、前掲最高裁判所平成11年3月25日判決)とされています。

このため、賃借人から敷金の預託を受け、賃貸借終了時に返還する義務を負うという旧賃貸人=旧所有者の権利義務も新所有者に移転することとなります。
賃貸建物の譲渡時点で、賃借人の旧所有者に対する未払賃料があれば、その部分は敷金から控除されることとなりますが、当該部分を除いた残額は、全て新所有者に承継され、譲渡時点で未払賃料がなければ、敷金の全額が新賃貸人に承継されることとなります。

(2)したがって、質問者様は、売買契約に基づく本物件の所有権移転に伴い、売主(旧所有者・賃貸人)が賃借人から預託を受けた敷金に関する権利義務を承継することとなるため、これにより預託された敷金を正当に保持し得るものと考えられます。

売主の債権者等から民法424条以下の詐害行為取消権等を行使されて建物の売買契約自体が取り消されたような場合は別として、そうでなければ、何らかの法的請求を受けて敷金の承継のみが取り消され、質問者様が敷金相当額の二重払いを強いられるおそれは低いと判断されます。

まとめ

以上のように、物件の買受け、買取りに潜むリスクを把握したり、実際に買い受けた後にトラブルとなってしまった場合の対応を行ったりすることができるのも、弁護士の経験ならではですので、似たようなお悩みをお持ちの方は、是非一度当事務所へご相談にお越しいただければと思います。

 

 

弁護士:久富 達也執 筆
KOMODA LAW OFFICE
弁護士
久富 達也 TATSUYA HISATOMI
座右の銘は「不知為不知。是知也。」(知らざるを知らずと為す。これ知るなり。出展:論語・為政)

 

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