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事業場外みなし労働時間制って?

2024.01.15
Question.
当社では、営業先への訪問等、基本的に会社の外で働く営業職がいます。
直行直帰するか、一旦会社に来て営業先に行くか等といった1日のスケジュールや具体的な業務について、基本的には営業職の裁量に委ねており、上司等から逐一指示を出すことはありませんし、事後的に詳細な報告もさせていません。
なお、始業と終業時刻はスマートフォンを用いて、社内外から当社指定の勤怠システムにて打刻をしてもらっています。
このような場合に、営業職に事業場外みなし労働時間制を導入することはできるのでしょうか?

1.事業場外みなし労働時間制とは?

事業場外みなし労働時間制とは、労働基準法第38条の2で定められている労働時間制です。
同条では、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす」とされています。
これをかみ砕いていうと、従業員が事業場外(会社の外)で労働に従事する場合において、①具体的な使用者の指揮命令が及ばず、②労働時間の算定が困難な場合に、実労働時間にかかわらず、所定労働時間、又は、その業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働をすることが必要な場合は通常必要とされる時間(又は労使協定で定める時間)労働したものをみなす制度です。
近年、事業場外みなし労働時間制を否定・肯定する裁判例があることから、導入するにあたっては慎重に検討する必要があります。

2.情報通信機器の使用について

昭和63年に出された行政通達(昭和63年1月1日基発第1号)では、事業場外みなし労働時間制の適用を受けない場合の例示として、使用者の具体的な指揮監督が及んでいると解される以下の例を挙げています。

①何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間管理をする者がいる場合
②事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
③事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的な指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場に戻る場合

なお、例②は、この通達が発出された社会的状況を踏まえて「ポケットベル」といった用語を用いていますが、この行政通達は現在も用いられますので、現在では、「スマートフォン等」の情報通信機器が含まれるものと考えられます。
そうすると、スマートフォン等といった情報通信機器を日常的に業務に使用する現代だと、そもそも、会社が従業員の労働時間を把握し難い場合は限定的とも思えます。
しかし、例②の記載からも分かるように、「随時使用者の指示を受けながら労働している場合」に、使用者の具体的な指揮監督が及んでいたとして、事業場外みなし労働時間制が否定されるため、スマートフォン等で会社が従業員と連絡を取ろうと思えば連絡を取れる状況に留まる場合は、随時使用者の指示を受けているとまでは評価できず、スマートフォン等の情報通信機器の携行のみを以て、事業場外みなし労働時間制の適用が否定されることはないと思われます。
会社員

3.労働安全衛生法との関係

他方で、平成31年4月の労働安全衛生法の改正に伴い、事業場外みなし労働時間制の場合であっても、従業員の「労働時間の状況」を把握する義務があります(労働安全衛生法第66条の8の3)。
そして、行政通達(平成31年3月29日基発第0329号)によれば、「労働時間の状況」とは、「いかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供しうる状態にあったか」を指し、基本的には客観的方法により把握する必要があります。
この点に関連して、セルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件の高裁判決(令和4年11月16日)では、平成30年12月以降、勤怠管理システムの導入により労働者の始業・就業時刻の把握でできていたこと、月40時間を超える残業の発生が見込まれる場合は、事前に残業の必要性と残業時間を明らかにして申請させ、残業が必要と認められる場合には、エリアマネージャーから当日の業務に関して具体的な指示を行い、行った業務の内容について具体的な報告をさせていたことを事情の一つとして、同時期以降については「労働時間を算定し難いときに当たる」とはいえないと判断し、結論として、事業場外みなし労働時間制を否定しています。
判決が挙げた事情のうち、残業の取扱いが結論に大きく影響をしている可能性は否定できませんが、事業場外みなし労働時間制の判断に際し、適用を否定する方向の事情として、勤怠管理システムでの打刻が考慮された点は注意する必要があります。

4.まとめ

ご相談の内容については、伺った内容からすると、営業職の従業員について、事業場外での業務に関し、会社の具体的な指揮命令が及んでいないと考えられるため、事業場外みなし労働時間制に該当する可能性は非常に高いと思いますが、事業場外でも勤怠管理システムによる打刻が可能といった事情があるため、上記3で挙げた裁判例と同様の事情があると、同労働時間制の導入は難しいでしょう。

 

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