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【2024年改正】福岡県性暴力根絶条例を知っていますか?

2024.05.02

2024年(令和6年)3月22日、福岡県性暴力根絶条例(正式には、「福岡県における性暴力を根絶し、性被害から県民等を守るための条例(平成31年福岡県条例第19号)」といいますが、ここでは福岡県性暴力根絶条例といいます。)が改正されました。条例の公布・施行は同月29日です。なお、一部の改正規定の施行は令和6年5月1日からとなっています。

みなさん、福岡県性暴力根絶条例を知っていますか?
今回の改正を機に、福岡県性暴力根絶条例が制定された背景、福岡県性暴力根絶条例の重要部分を確認し、今回の改正趣旨についてお伝えします。

0.福岡県性暴力根絶条例の制定背景

福岡市福岡県性暴力根絶条例の制定前、福岡県における性犯罪の発生件数は、年間500件程度で推移しており、平成30年まで9年連続で人口比率全国2位という不名誉な順位が続いていました。
このため、福岡県警察は、「性犯罪の根絶」を三大重点目標の一つとしていましたが、なかなか改善がみられませんでした。
そのような背景を下に、議員立法により、平成31年2月21日、福岡県性暴力根絶条例は成立しました。
そして、同年3月1日、公布及び一部施行、令和2年5月1日、全面施行となっています。
なお、福岡県における性犯罪の発生件数は、同年から、年間300件を切り、人口比率全国8位前後になったものの、依然として上位にあります。

1.目的(第1条)

この条例は、

性犯罪をはじめとする性暴力を根絶し、性被害から県民等を守るとともに、性暴力の被害者を支援するため
性暴力の根絶及び被害者の支援に関し、
基本理念及び基本方針を定め、
並びに、県、県民、事業者及び市町村の責務を明らかにし、
法令及び福岡県犯罪被害者等支援条例に定めるもののほか、性暴力の根絶及び被害者の支援に関する基本的な施策を定めること
により、県民が安心して安全に暮らせる地域社会を形成することを目的とする。

最大の特徴は、性犯罪だけではなく、広く性暴力の根絶を謳っていることです。その「性暴力」の定義は、次に述べます。
対象が子どもへの性暴力に限定されていないことも、大きな特徴です。

2.性暴力の定義(第2条第2項第4号)

性犯罪、配偶者等性暴力、ストーカー行為、セクシュアル・ハラスメントその他特定の者の身体又は精神に対する性的行為で、当該特定の者にとって、その同意がない、対等ではない、又は強要されたものを行うことにより、その者の性的な問題を自ら決定する権利(自己決定権)又はその者の性的な問題に関する身体、自由、名誉等の人格的な利益(性的人格権)を侵害する行為をいう。

身体だけでなく精神に対する性的行為が含まれています。

3.基本理念(第3条)

この条例に基づく取組は、次の各号に掲げる事項を基本理念として、県民全ての力で性暴力を根絶し、被害者も加害者も出さない社会、性暴力を許さず、被害者に寄り添う心を共有する社会をつくるために進めるものとする。
(1)性暴力は、人の性に関する自己決定権や性的人格権を侵害し、その心身を傷つける極めて悪質な行為であることから、これを根絶し、性別を問わずあらゆる人が、尊厳をもって生きることができるようにしなければならないこと。
(2)子どもに対する性暴力は、子どもに保障されるべき健全な成長発達を阻害するなど、その幸福な生活を困難にする極めて重大かつ深刻な性的人格権の侵害であるとともに、子ども自身では回避できない場合も多いことから、親族、関係者及び地域住民並びに関係行政機関が連携協力して、子どもを性暴力から守らなければならないこと。
(3)性暴力及びその被害者に関する誤った自己責任論や偏見を払しょくし、その実情の正しい理解を深め、かつ広めることにより、被害者に対する二次的加害行為も、また、根絶しなければならないこと。
(4)性暴力を未然に防止することを最大の目的とするとともに、この目的に反して性被害が発生したときは、当該被害者を支援し、性被害の軽減及び回復を図ることにより、二次的加害行為その他の新たな人権侵害となる行為を防止することを最優先の目的とするべきこと。

※性暴力の根絶を基本理念としています。
性暴力の未然防止を最大の目的とし、ひとたび性被害が発生したときには、被害者の支援等により、二次的加害行為等を防止することを最優先の目的としています。

4.県民の責務(第6条)

県民は、第3条の基本理念にのっとり、性暴力及びその被害者に関する理解を深めることにより、性被害及び二次的被害を発生させないよう配慮するとともに、性暴力の根絶に向けて、この条例に基づく県及び市町村の取組に協力するものとする。

※県民には、性暴力及びその被害者に対する理解を深め、性被害及び二次的被害を発生させないよう配慮し、性暴力の根絶に向けて協力する責務が求められています。

5.行為規範(第9条)

1 県民等は、性暴力となる行為を行ってはならない。
2 県民等は、性暴力の発生場所、状況その他の内容及び当該性暴力の被害者の氏名、住所、職業、年齢等、性暴力の被害者を特定し得る情報を、その真偽にかかわらず、他人に伝え、又はインターネット、電子メールその他の情報通信ネットワークを通じて流布させる行為(放送機関、新聞社、通信社、その他の報道機関(報道を行として行う個人を含む。)による報道及び当該被害者の意思に基づき行うものを除く。)は、重大な人権侵害に当たるおそれがあることを踏まえ、当該行為を行わないものとする。

※県民は、性暴力を行わないこと、被害者の意思に反して被害者を特定し得る情報を報道機関以外に流布させてはいけないこと、が明記されました。

6.住所等の届出義務(第17条)

1 子どもに対し、第2条第1項第1号から第4号までの罪(第3号については、児童買春等処罰法第7条第4項の罪に限る。)を犯した者が、これらの罪に係る刑期の満了の日(刑の一部の執行が猶予された場合にあっては猶予されなかった期間の執行を終わった日)から5年を経過する日前に本県の区域内に住所又は居所を定めたときは、規則で定めるところにより、当該住所又は居所を定めた日から14日以内に、次に掲げる事項を知事に届け出なければならない。
(1)氏名
(2)住所又は居所
(3)性別
(4)生年月日
(5)連絡先
(6)届出に係る罪名
(7)刑期の満了した日
2 前項の規定による届出をした者は、同項各号に掲げる事項に変更を生じたとき(次項に規定する場合を除く。)は、その日から14日以内に、その旨を知事に届け出なければならない。
3 第1項の規定による届出をした者が新たに本県の区域外に住所又は居所を定めることとなった場合は、その旨を知事に届け出なければならない。
4 知事は、第1項の規定により取得した情報を対象者の再犯の防止及び社会復帰に向けた情報提供、助言、指導その他の支援の目的以外に使用してはならない。

※子ども(18歳に満たない者)に対し、性犯罪(第2条第1項第1号~第4号までの罪。ただし、第3号については、児童買春等処罰法第7条第4項の罪に限る。)を犯し、実刑判決を受けて服役した者は、刑期満了日(一部執行猶予の場合は実刑部分の満了日)から5年以内に県内に住所又は居所を定めたときは、(1)~(7)の事項を、知事に届け出なければならないとされました。
※また、いったん届け出た事項の変更、県外への転居等についても、知事に届け出なければならないとされました。
※第1項、第2項の届け出を怠った者、虚偽の届け出を行った者は、5万円以下の過料に処せられます(第22条)。

7.受診の勧奨と社会復帰の支援(第18条)

1 知事は、前条第1項の規定に該当する者が申し出たときは、性犯罪の再犯を防止するための専門的な指導プログラム又は治療を受けることを支援するものとする。ただし、当該指導プログラム又は治療を受けること又はこれを継続することが特に必要と認める者については、これを勧奨することができる。
2 前項の指導プログラム又は治療に要する費用は、性暴力から県民を守る観点から、予算の範囲内において県が支弁するものとする。
3 第1項本文及び前項の規定は、子どもに対し、第2条第1項第1号から第4号までの罪(第3号については、児童買春等処罰法第7条第4項の罪に限る。)を犯し、保護観察の有無にかかわらず刑の執行を猶予された者、起訴猶予とされた者又は罰金刑に処せられた者について準用する。

※知事は、前条第1項の規定に該当する者の申出があれば、性犯罪の再犯防止プログラム又は治療を受けることを支援することとされました。また、知事は、特に必要と認める者については、性犯罪の再犯防止プログラム又は治療を受けることを勧奨することもできることとされました。そして、その費用は県が負担するとされました。
※子ども(18歳に満たない者)に対し、性犯罪(第2条第1項第1号~第4号までの罪。ただし、第3号については、児童買春等処罰法第7条第4項の罪に限る。)を犯し、執行猶予判決を受けた者、起訴猶予とされた者、又は罰金刑に処せられた者についても、同様の手続が可能とされました。

8.過料(第22条)

正当な理由がなく第17条第1項又は第2項の届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、5万円以下の過料に処する。

※第17条第1項、第2項の届け出を怠った者、虚偽の届け出を行った者は、5万円以下の過料に処せられることとされました。

9.今回の改正趣旨

性暴力の定義が改正され、痴漢や盗撮等も性暴力に含まれることになりました。
素案によると、「学校、スポーツ施設、公共交通機関その他の不特定若しくは多数の者が利用し、または出入りする場所」で、①性的な意図をもち、②同意を得ることなく、③正当な理由がなく、姿や体の部位を撮影する行為は、着衣の有無や撮影者の認識にかかわらず「性暴力」と定義するとのことです。
その改正趣旨としては、2023年(令和5年)6月に成立した性的姿態撮影処罰法では、アスリートの盗撮が処罰されないこととされたものの、条例で、性暴力と位置付けられています。
福岡県は、「性犯罪の根絶」に向けて、更に前進するようです。

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