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元日産CEOカルロス・ゴーン逃亡事件の影響を受けた法改正①

2023.10.26

2023年(令和5年)5月17日、保釈等により釈放された被告人の公判廷への出頭確保に関する各制度、犯罪被害者等の個人特定事項の秘匿措置の整備等を内容とした、刑事訴訟法等の一部を改正する法律が公布されました。
改正法は、段階的に施行される予定で、その内容は多岐にわたります。
刑事実務上影響があるポイントについて、2回に分けて、改正法の施行順に解説します。 今回は、2023年(令和5年)施行分まで解説します。

1.公布日(2023年(令和5年)5月17日)施行

◯刑の時効の停止
(刑法33条2項新設)
 拘禁刑、罰金、拘留及び科料の時効は、刑の言渡しを受けた者が国外にいる場合には、その国外にいる期間は、進行しない。

※ほとんど適用される場面がないので、一般には知られていないのですが、刑の言渡しが確定しても、一定期間執行されない場合は、時効が完成します(刑法32条)。
ただし、判決宣告時に執行猶予が付された場合など、法令によって執行を猶予し、又は執行を停止した期間は、時効が停止するとされています(刑法33条1項)。
これに加えて、今回の改正法によって、刑の言渡しを受けた者が国外にいる期間も、時効が停止することになりました。
※なお、「拘禁刑」については、その施行日(2022年(令和4年)6月17日の公布日から3年以内)までは、従前の「懲役」又は「禁錮」と読み替えることになります。

2.公布から20日経過後(2023年(令和5年)6月6日)施行

1️⃣逃走罪の主体の拡張及び法定刑の引上げ
(刑法97条改正)
法令により拘禁された者が逃走したときは3年以下の懲役に処する。

※改正前の主体は「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者」とされていましたので、例えば、現行犯逮捕された者が、裁判官発付の勾留状執行前に刑事施設から逃走しても、逃走罪に当たりませんでした。 今回の改正法により、法令に基づいて拘禁された者は全て、逃走すれば逃走罪が成立することになりました。

※また、改正前の法定刑は「1年以下の懲役」でしたので、今回の改正法により、罪が重くなりました。

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2️⃣加重逃走罪の主体の拡張
(刑法98条改正)
前条に規定する者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は2人以上通謀して、逃走したときは、3月以上5年以下の懲役に処する。

※改正前の主体は「前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者」とされていました。

今回の改正法により、刑法98条にいう「前条」である刑法97条の主体が拡張され、改正前の刑法98条「勾引状の執行を受けた者」は改正後の同条「前条に規定する者」に含まれることになったので、「勾引状の執行を受けた者」との文言は削除されたものです。
実際は、刑法97条逃走罪の主体が拡張された分、刑法98条加重逃走罪の主体も拡張されることになりました。

3️⃣拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告後における裁量保釈の要件の明確化
(刑事訴訟法344条2項新設)
拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があった後は、第90条の規定による保釈を許すには、同条に規定する不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合でなければならない。 ただし、保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるときは、この限りでない。

※裁判所の裁量による保釈を規定した刑事訴訟法90条では、裁判所が保釈を許すには、保釈によって被告人が逃亡・罪証隠滅するおそれと身柄拘束によって被告人が受ける不利益の程度等を利益衡量することとされています。
従来は、この規定に関し、控訴審における特別規定はありませんでした。

しかし、今回の改正法により、第1審において実刑判決が宣告された場合には、その後に裁判所の裁量で保釈を許可するためには、身柄拘束によって被告人が受ける不利益の程度が著しく高い場合でなければならないと新たに規定されました。
その意味で、保釈条件が厳しくなったようにみえます。

もっとも、刑事実務上は、第1審において保釈が許可されていた場合は、控訴審においても保釈が許可される可能性が高いです。
ただし、保釈保証金は第1審のときより増額されることが多いです。

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3.公布から6か月(2023年(令和5年)11月17日)以内に施行

1️⃣公判期日への出頭等を確保するための罰則の新設
㋐勾留の執行停止の期間満了後の被告人の不出頭罪
(刑事訴訟法95条の2新設)
期間を指定されて勾留の執行停止をされた被告人が、正当な理由がなく、当該期間の終期として指定された日時に、出頭すべき場所として指定された場所に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑に処する。

※これまでは、被告人が勾留の執行停止期間満了後に決められた場所に出頭しなくても、罪に問われることはありませんでした。
なお、刑事実務上は、逃亡した事実は、これまで、勾留・起訴されている事件の量刑判断において、悪い情状として評価されていました。
しかし、今回の改正法施行後は、不出頭罪が成立することになります。

㋑保釈又は勾留執行停止の許可を受けた被告人の制限住居離脱罪
(刑事訴訟法95条の3新設)
 ①裁判所の許可を受けないで指定された期間を超えて制限された住居を離れてはならない旨の条件を付されて保釈又は勾留の執行停止をされた被告人が、当該条件に係る住居を離れ、当該許可を受けないで、正当な理由がなく、当該期間を超えて当該住居に帰着しないときは、2年以下の拘禁刑に処する。<br />  ②前項の被告人が、裁判所の許可を受けて同項の住居を離れ、正当な理由がなく、当該住居を離れることができる期間として指定された期間を超えて当該住居に帰着しないときも、同項と同様とする。

※刑事実務上、保釈や勾留執行停止が許可される際、別途裁判所の許可がなければ3日以上制限住居を離れてはいけないなどという条件が付されることが多いです。
もっとも、これまでは、許可なく制限住居を離脱しても、例えば、裁判所から1週間の旅行許可をもらって、旅行に行って、1週間以上制限住居に戻らなくても、罪に問われることはありませんでした。
しかし、今回の改正法施行後は、制限住居離脱罪が成立することになります。

㋒保釈又は勾留執行停止の取消し後における出頭命令違反の罪
(刑事訴訟法98条の3新設)
保釈又は勾留の執行停止を取り消され、検察官からの出頭を命じられた被告人が、正当な理由がなく、指定された日時及び場所に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑に処する。保釈又は勾留の執行停止を取り消され、検察官からの出頭を命じられた被告人が、正当な理由がなく、指定された日時及び場所に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑に処する。

※これまでは、保釈又は勾留執行停止を取り消された被告人が、検察官から出頭を要請されて出頭しなくても、罪に問われることはありませんでした。
なお、刑事実務上は、逃亡した事実は、これまで、勾留・起訴されている事件の量刑判断において、悪い情状として評価されていました。
しかし、今回の改正法施行後は、出頭命令違反罪が成立することになります。

㋓保釈・勾留執行停止をされた被告人の公判期日への不出頭罪
(刑事訴訟法278条の2新設)
保釈又は勾留の執行停止をされた被告人が、召喚を受け正当な理由がなく公判期日に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑に処する。

※これまでは、被告人が保釈又は勾留執行停止によって釈放された後、召喚を受けたにもかかわらず公判期日に出頭しなくても、罪に問われることはありませんでした。
なお、刑事実務上は、逃亡した事実は、これまで、勾留・起訴されている事件の量刑判断において、悪い情状として評価されていました。
しかし、今回の改正法施行後は、不出頭罪が成立することになります。

㋔刑の執行のための呼出しを受けた者の不出頭罪
(刑事訴訟法484条の2新設)
前条前段の規定による呼出しを受けた者が、正当な理由がなく、指定された日時及び場所に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑に処する。

※身柄拘束されずに拘留以上の刑の言渡しを受けた者は、検察官から呼出しを受けて、出頭し、刑の執行を受けることになります(刑事訴訟法484条)。
もっとも、これまでは、検察官からの呼出しの日時場所に出頭しなくても、罪に問われることはありませんでした。
しかし、今回の改正法施行後は、不出頭罪が成立することになります。

2️⃣保釈又は勾留執行停止の許可を受けた被告人に対する裁判所による報告命令制度の創設
(刑事訴訟法95条の4新設)
①裁判所は、被告人の逃亡を防止し、又は公判期日への出頭を確保するため必要があると認めるときは、保釈を許す決定又は第95条第1項前段の決定を受けた被告人に対し、その住居、労働又は通学の状況、身分関係その他のその変更が被告人が逃亡すると疑うに足りる相当な理由の有無の判断に影響を及ぼす生活上又は身分上の事項として裁判所の定めるものについて、次に掲げるところに従って報告をすることを命ずることができる。 一裁判所の指定する時期に、当該時期における当該事項について報告をすること。 二当該事項に変更が生じたときは、速やかに、その変更の内容について報告をすること。 ②裁判所は、前項の場合において、必要と認めるときは、同項の被告人に対し、同項の規定による報告を裁判所の指定する日時及び場所に出頭してすることを命ずることができる。 ③裁判所は、第1項の規定による報告があったときはその旨及びその報告の内容を、同項(第1号に係る部分に限る。)の規定による報告がなかったとき又は同項(第2号に係る部分に限る。)の規定による報告がなかったことを知ったときはその旨及びその状況を、それぞれ速やかに検察官に通知しなければならない。

※これまでは、被告人の保釈や勾留執行停止による釈放に当たって、裁判所が被告人に報告等を命じる制度はありませんでした。
しかし、今回の改正法施行後は、裁判所が報告等の命令を出すことができるようになりました。
また、裁判所は、報告等の命令に対し、被告人から報告があったこと又はなかったこと等を検察官に報告することとされました。

3️⃣保釈又は勾留執行停止の取消し及び保釈保証金の没取に関する規定の整備
(刑事訴訟法96条改正)
①裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定で、保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。 五被告人が、正当な理由がなく前条第1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。(新設) ②前項の規定により保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で、保証金の全部又は一部を没取することができる。(改正) ③保釈を取り消された者が、第98条の2の規定による命令を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときも、前項と同様とする。(新設) ④拘禁刑以上の刑に処する判決(拘禁刑の全部の執行猶予の言渡しをしないものに限る。 以下同じ。)の宣告を受けた後、保釈又は勾留の執行停止をされている被告人が逃亡したときは、裁判所は、検察官の請求により、又は職権で、決定で、保釈又は勾留の執行停止を取り消さなければならない。 (新設) ⑤前項の規定により保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で、保証金の全部又は一部を没取しなければならない。(新設) ⑥保釈を取り消された者が、第98条の2の規定による命令を受け正当な理由がなく出頭しない場合又は逃亡した場合において、その者が拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者であるときは、裁判所は、決定で、保証金の全部又は一部を没取しなければならない。 ただし、第4項の規定により保釈を取り消された者が逃亡したときは、この限りでない。(新設) ⑦保釈された者が、拘禁刑以上の刑に処する判決又は拘留に処する判決の宣告を受けた後、第343条の2(第404条(第414条において準用する場合を含む。 第98条の17第1項第2号及び第4号において同じ。)において準用する場合を含む。)の規定による命令を受け正当な理由がなく出頭しないとき又は逃亡したとき(保釈されている場合及び保釈を取り消された後、逃亡した場合を除く。)は検察官の請求により又は職権で、刑の執行のため呼出しを受け正当な理由がなく出頭しないときは検察官の請求により、決定で、保証金の全部又は一部を没取しなければならない。(改正)

※これまでも、保釈又は勾留執行停止の取消し及び保釈保証金の没取の規定はありましたが、今回の改正法施行後は、以下のとおり、その適用範囲が広がります。

・保釈又は勾留執行停止の許可を受けた被告人が、裁判所による報告命令に対して報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、裁判所は、保釈又は勾留執行停止を取り消すことができ、保釈保証金も没取することができる(1項5号)(2項)。
・保釈を取り消された者が、検察官の出頭命令を受けても正当な理由がなく出頭しないとき又は逃亡したとき、裁判所は、保釈保証金を没取することができる(3項)。
・拘禁刑以上の実刑判決(一部執行猶予判決を含む。 )の宣告を受けた後、保釈又は勾留執行停止の許可を受けた被告人が逃亡したときは、裁判所は、保釈又は勾留執行停止を取り消さなければならず、保釈保証金も没取しなければならない(4項)(5項)。
・保釈を取り消された者が、検察官の出頭命令を受けても正当な理由がなく出頭しないとき又は逃亡したとき、その者が拘禁刑以上の実刑判決(一部執行猶予判決を含む。)の宣告を受けた者であるときは、裁判所は、保釈保証金を没取しなければならない(6項)。
・保釈された者が、実刑判決(一部執行猶予判決を含む。)の宣告を受けた後、検察官による出頭命令を受け正当な理由がなく出頭しないとき又は逃亡したときは、裁判所は、保釈保証金を没取しなければならない(7項)。

4️⃣控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭の義務付け等
㋐控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭命令
(刑事訴訟法390条の2新設)
前条の規定にかかわらず、控訴裁判所は、拘禁刑以上の刑に当たる罪で起訴されている被告人であって、保釈又は勾留の執行停止をされているものについては、判決を宣告する公判期日への出頭を命じなければならない。 ただし、重い疾病又は傷害その他やむを得ない事由により被告人が当該公判期日に出頭することが困難であると認めるときは、この限りでない。

※被告人には控訴審の公判期日への出頭義務はありません(刑事訴訟法390条)。
このため、これまでは、保釈又は勾留の執行停止の許可を得た被告人が、所在不明になってしまい、判決謄本の送達ができない場合や、判決謄本は親族が受け取るなどして送達は終えたものの、刑の執行が困難になってしまう場合等がありました。
しかし、今回の改正法施行により、控訴裁判所は、保釈又は勾留の執行停止の許可を得た被告人に対し、原則として出頭命令を出すものとされました。

㋑控訴審における判決宣告期日に被告人が出頭しない場合の判決言渡し
(刑事訴訟法402条の2新設)

①控訴裁判所は、拘禁刑以上の刑に当たる罪で起訴されている被告人であって、保釈又は勾留の執行停止をされているものが判決を宣告する期日に出頭しないときは、次に掲げる判決以外の判決を宣告することができない。 ただし、第390条の2ただし書に規定する場合であって、刑の執行のためその者を収容するのに困難を生ずるおそれがないと認めるときは、この限りでない。  一 無罪、免訴、刑の免除、公訴棄却又は管轄違いの言渡しをした原判決に対する控訴を棄却する判決 二 事件を原裁判所に差し戻し、又は管轄裁判所に移送する判決 三 無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の言渡しをする判決 ②拘禁刑以上の罪に当たる罪で起訴されている被告人であって、保釈又は勾留の執行停止を取り消されたものが勾留されていないときも、前項本文と同様とする。 ただし、被告人が逃亡していることにより勾留することが困難であると見込まれる場合において、次に掲げる判決について、速やかに宣告する必要があると認めるときは、この限りでない。  一 公職選挙法(昭和25年法律第100号)第253条の2第1項に規定する刑事事件について、有罪の言渡し(刑の免除の言渡しを除く。 以下この号において同じ。)をする判決又は有罪の言渡しをした原判決に対する控訴を棄却する判決 二 組織的犯罪処罰法第13条第3項の規定による犯罪被害財産の没収若しくは組織的犯罪処罰法第16条第2項の規定による犯罪被害財産の価額の追徴の言渡しをする判決又はこれらの言渡しをした原判決に対する控訴を棄却する判決

今回の改正法施行により、控訴裁判所は、保釈又は勾留の執行停止の許可を得た被告人が判決宣告期日に出頭しない場合、原則として判決宣告ができなくなりました。

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