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【2024年4月施行】改正DV防止法

2024.02.20

2024年(令和6年)4月1日、改正DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律)が施行されます(一部を除きます)。
現行の保護命令制度と改正DV防止法の要点を整理しておきます。

0.現行の保護命令制度

現行のDV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)は、配偶者からの暴力により重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申立てにより、当該配偶者に対して保護命令を発することとされています。
この保護命令として、以下のことができます。
大まかにいうと、①の保護命令と⑤の保護命令の2つがあり、①の保護命令が認められたときに、②~④の保護命令が認められ得るものです。

①被害者への接近禁止命令(10条1項1号)
被害者の身辺につきまとい/被害者の住居等の付近のはいかい禁止
②被害者への電話等禁止命令(10条2項)
面会要求の禁止(1号)
監視告知等の禁止(2号)
著しく粗野又は乱暴な言動の禁止(3号)
無言電話、緊急時以外の連続電話・ファックス送信・電子メール送信の禁止(4号)
緊急時以外の深夜早朝(午後10時~午前6時まで)の電話・ファックス送信・電子メール送信の禁止(5号)
汚物、動物の死体等の送付等の禁止(6号)
名誉を害する事項の告知等の禁止(7号)
性的羞恥心を害する事項の告知等、性的羞恥心を害する文書、図画等の送付等の禁止(8号)
③被害者の同居の子への接近禁止命令(10条3項)
未成年の子の身辺につきまとい/子の住居等の付近のはいかい禁止
④被害者の親族等への接近禁止命令(10条4項)
親族等の身辺につきまとい/親族等の住居等の付近をはいかい禁止
⑤退去等命令(10条1項2号)
被害者と共に生活の本拠としている住居から退去
当該住居の付近のはいかい禁止

しかし、DV防止法成立後、「ストーカー行為等の規制等に関する法律」においてはSNS通信等やGPSを用いた位置情報の取得等に対する対応、罰則の引上げ等の改正が行われたのに、DV防止法では改正されていなかったこと、被害者からの相談は精神的暴力が多くなっているのに、DV防止法では保護命令の対象となっていないことなどが指摘されてきました。
そこで、今回の改正DV防止法では、以下の点の改正が行われました。

1.保護命令制度の拡充

1⃣前記①~④の保護命令について、被害者の範囲及び発令要件の拡大
○被害者の範囲の拡大

配偶者からの身体に対する暴力又は生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知してする脅迫を受けた者に限る(10条1項改正)

※「生命、身体」だけでなく、「自由、名誉又は財産」に対し害を加える旨を告知してする脅迫を受けた者も含まれることになりました。
上記における財産は、配偶者のクレジットカードを取り上げるなどの経済DVも含まれるようになっています。

○発令要件の拡大

配偶者からの更なる身体に対する暴力等により、その生命又は心身に重大な危害を受けるおそれが大きいとき(10条1項改正)

※「暴力」から「暴力等」に改正され、「生命又は身体」から「生命又は心身」に改正されたことで、精神的暴力も含むこととされました。
※「心身に重大な危害」について、男女共同参画局によれば、少なくとも通院加療を要する程度の危害であり、うつ病、PTSDなどの発症が必要と考えられています。
(参考URL:https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/law/34.html-配偶者暴力防止法に関するQ&A)

2⃣前記②の保護命令(被害者への電話等禁止命令)の拡充
○連続電話等の禁止の拡充

電話をかけて何も告げず、又は緊急やむを得ない場合を除き、電話をかけ、文書を送付し、通信文その他の情報(電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の電気通信を行うために必要な情報を含む。以下「通信文等」という。)をファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること(10条2項4号改正)

※連続電話等の禁止に、文書送付、通信文等の送信が含まれることになりました。
※「電子メールの送信等」には、電子メールの送信だけでなく、これに類する行為にも拡充されました。つまり、SMSの送信、SNSを利用したメッセージの送信、被害者が開設しているブログ、ホームページ等への書き込み、被害者のSNSのマイページへのコメントの書き込み、被害者のSNSの投稿に「いいね」等の評価を付けること、被害者のSNSへのフォロー申請などが該当するとされています。

○深夜早朝の電話等の禁止の拡充

緊急やむを得ない場合を除き、午後10時から午前6時までの間に、電話をかけ、通信文等をファクシミリ装置を用いて送信し、又は電子メールの送信等をすること(10条2項5号改正)

※深夜早朝の電話等の禁止に、通信文等の送信、電子メールの送信等が含まれることになりました。通信文等、電子メールの送信等の意味については、前記4号と同じです。

○性的羞恥心を害する電磁的記録に係る記録媒体等の送付・電磁的記録の送信の禁止

性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を送付し、若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し、若しくはその知り得る状態に置くこと(10条2項8号改正)

※性的羞恥心を害する事項の告知等の禁止に、性的羞恥心を害する文書、図画の送付だけでなく、電磁的記録に係る記録媒体等の送付、性的羞恥心を害する電磁的記録の送信も含まれることになりました。

○位置情報記録の取得等の禁止

その承諾を受けないで…位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報を政令で定める方法により取得すること(10条2項9号新設)
その承諾を受けないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、位置情報記録・送信装置を取り付けた物を交付することその他移動に伴い位置情報記録・送信装置を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること
(10条2項10号新設)

※②の保護命令の対象行為が、GPSなどによる位置情報の取得等にも拡充されました。

3⃣前記③の保護命令(被害者の同居の子への接近禁止命令)の拡充(電話等禁止命令の創設)
○同居の子への接近禁止命令の拡充

第1項の場合において、被害者がその成年に達しない子と同居しているときであって…必要があると認めるときは、接見禁止命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、当該配偶者に対し、…当該子の住居、就学する学校その他の場所に置いて当該子の身辺につきまとい、又は当該子の住居、就学する学校その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないこと及び当該子に対して前項第2号から第10号までに掲げる行為(同項第5号に掲げる行為にあっては、電話をかけること及び通信文等をファクシミリ装置を用いて送信することに限る。)をしてはならないことを命ずるものとする。ただし、当該子が15歳以上であるときは、その同意がある場合に限る(10条3項改正)

※被害者の同居の子への接近禁止命令に加え、新たに電話等禁止命令が創設されました。
※「被害者の同居の子への電話等禁止命令」の対象行為は、原則として「被害者への電話等禁止命令」の対象行為と同じですが、「面会の要求」及び「緊急時以外の深夜早朝(午後10時~午前6時)の電子メールの送信等」は除かれています。

4⃣前記①~④の保護命令の期間の伸長
○保護命令の期間の伸長

命令の効力が生じた日から起算して1年…命ずるものとする(10条1~4項改正、10条の2新設)

※「6月」から「1年」に伸長されました。
※なお、前記③の保護命令(被害者の同居の子への接近禁止命令)については、発令要件を欠くに至ったことを理由とする取消制度が新たに設けられました(17条3項新設)。

5⃣前記⑤(退去等命令)の期間の特例の新設
○退去等命令の期間の特例の新設

命令の効力が生じた日から起算して2月間(被害者及び当該配偶者が生活の本拠として使用する建物又は区分建物の所有者又は賃借人が被害者のみである場合において、被害者の申立てがあったときは、6月間)、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること及び当該住居の付近をはいかいしてはならないことを命ずるものとする(10条1項2号改め10条の2新設)

※命令期間を原則としてこれまでどおり「2月間」としつつ、「住居の所有者又は賃借人が被害者のみである場合において、被害者の申立てがあったときは、6月間」とする特例が設けられました。

6⃣保護命令違反の厳罰化
○保護命令違反の厳罰化

保護命令に違反した者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処する(29条)

※現行法では1年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされていましたが、厳罰化されました。2016年(平成28年)のストーカー行為規制法の改正によってストーカー行為が厳罰化されたことを踏まえた改正です。

2.基本方針及び基本計画の記載事項の拡充

国は基本方針を定め、都道府県は基本方針に則して基本計画を定めることが義務付けられており、市町村は基本方針に即し、かつ都道府県の基本方針を勘案して市町村の基本計画を定めることが努力義務とされています。
本改正により、基本方針及び基本計画の記載事項が以下のとおり拡充されます。

1️⃣被害者の自立支援

国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力を防止するとともに、被害者の保護(被害者の自立を支援することを含む。)を図る責務を有する(2条改正)

※改正前は「被害者の自立を支援することを含め、その適切な保護」を図る責務とされていましたが、今回の改正により、「被害者の保護」に被害者の自立支援が含まれることが明確化されました。

2️⃣国等の連携及び協力の拡充

(基本方針)
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策を実施するために必要な国、地方公共団体及び民間の団体の連携及び協力に関する事項(2条の2第2項3号新設)
(都道府県基本計画等)
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策を実施するために必要な当該都道府県、関係地方公共団体及び民間の団体の連携及び協力に関する事項(2条の3第2項3号新設)

※改正前は、基本方針として、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する㋐基本的な事項、㋑施策の内容に関する事項、㋒施策の実施に関する重要事項を定めることとされていましたが、㋒施策の実施に関する事項として、具体的に「国、地方公共団体及び民間の団体の連携及び協力に関する事項」を定めることとされました。
※都道府県の基本計画も同様の趣旨の改正が行われました。
やぶれたハート

3.協議会に関する規定の創設

旧基本方針では、「支援センターを中心とした関係機関の協議会の設置…が有効である」とされ、「関係機関の協議会等がいまだ設置されていない地方公共団体においては、設置を検討することが必要である」とされていました。
本改正は、協議会を法定化するものです。

1️⃣協議会の組織

都道府県は、協議会を組織するよう努力義務が課せられました(5条の2第1項)。
市町村は、協議会を組織することが可能とされました(同条2項)。

2⃣協議会の構成

協議会の構成は、関係機関、関係団体、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関連する職務に従事する者その他の関係者とされました(5条の2第1項)。

3⃣情報交換及び支援内容の協議

協議会は、被害者に関する情報その他被害者の保護を図るために必要な情報の交換を行うとともに、被害者に対する支援の内容に関する協議を行うものとされました(5条の2第3項)

4⃣関係機関等への協力要求

協議会は前記3⃣のため必要があると認めるときは、関係機関等に対し、資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができるとされました(5条の2第5項)。

5⃣秘密保持義務

協議会の事務に従事する者又は従事していた者に、秘密保持義務が課され(5条の3)、違反した場合の罰則が設けられました(30条)。

4.関係法律の制定に伴う対応

1⃣困難女性支援法関係

2022年(令和4年)に「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が成立し、2024年(令和6年)4月1日から、「婦人相談所」が「女性相談支援センター」に、「婦人相談員」が「女性相談支援員」に名称変更・機能強化されることに伴い、所要の改正が行われました。

2⃣前記①~④の保護命令について、被害者の範囲及び発令要件の拡大

2022年(令和4年)に民事訴訟法等の改正が行われたことに伴い、所要の改正が行われました。

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